澄み渡る青空の下、沢山の拍手に囲まれて祝福されている姉さんはとても幸せそうだ。綺麗なドレスをきて微笑んでいる姉さんに俺は「おめでとう」とうまく言えなかった。
「義勇」
「先生、錆兎、真菰」
「蔦子さんとても綺麗だったね!」
いつの間にか式が終わっていて、外で姉さんが招待した人たちと話しているのと少し離れているところから眺めていると声をかけられた。「義勇と仲良くしてくれているし、私もお世話になってるから」と呼んでくれた三人もいつもとは違って着飾っている。先生なんてお面をつけていない。素顔は何度か見たことあったけれど、なんだか慣れない。
興奮が抑えきれないのかぴょんぴょんと跳ねている真菰はずっと姉さんの方へと目を向けている。すると熱い視線に気が付いたのか姉さんはこちらの方へと歩いてくる。わっ、と嬉しそうに先生の服を掴んだ真菰に優しく笑いながら姉さんの方へと背中を押している先生を見ていると、錆兎が服を引っ張ってきた。こっちへ来い、と目だけで伝えられてそのまま錆兎についていく。少しだけ離れた場所で他の人が周りにいないことを錆兎は確認をして、ようやく俺と正面から向き合った。
「錆兎、どうかしたのか?」
「義勇は嬉しくないのか?」
「え、」
突然向けられた言葉にドキッとした。じっと菫色の瞳が俺を見つめる。言葉にしていなくても錆兎はいつも俺の考えてることを読み取ってしまう、そんな瞳から逃げられたことは一度もない。
「嬉しいに決まってるよ」
これは本心だ。両親が亡くなってからずっと俺と二人で生活していくために頑張っていた姉さんがとても幸せそうに笑っているから。旦那さんだって優しくて良い人だ。姉さんを泣かせるようなことをしないことは分かっている。それでも。
「だけどやっぱり、なんだろう。変な感じがする」
ぽっかり穴があいたような気がして胸に手を当てる。怪我をしてるわけでも、何か痛みを感じるわけではないのに。広がっていく何かを抑えるように服をぎゅっと握りしめた。
「……寂しいのか?」
「さび、しい?」
「蔦子さんが義勇から離れていくような、気がするのか?」
「……わかんない」
自分でも分からないものを錆兎は分かってしまいそうで怖くて、足を視界に入れて首を横に振る。
「ばかもの」
途端に発した声色は呆れるように、叱っているようなものでビクリと体が跳ね上がった。何も言い返せないでいると息を吐き出すのが分かった。
「……血の繋がりがなくなったわけじゃあるまいし、蔦子さんはお前のことを放ってどこか行くような人ではないだろう。お前が心から祝福してやらないと蔦子さんも可哀そうだ」
錆兎の言っていることは分かる。結婚しても離れて住むようなことはしない。俺が大きくなるまではずっと一緒にいると言ってくれているから。しかしそれでいいのだろうか。いつかは姉さんから離れて暮らさないといけない、そんな将来を想像してはひとりでぽつんと暗い道にいるような気がして、怖かった。
「それに」
服を掴んでいた手が、錆兎の温かい両手に包まれる。緩ませるように触れる手に驚いて顔を上げると菫色の光がまっすぐに、俺を射抜いていた。
「お前は独りじゃない。俺が一緒にいる」
服を離した指は錆兎の指と合わさって、手を握る。先生に教わって一緒に剣道をしているに、俺よりも前から鍛えている錆兎の手は俺より少しだけ大きい。姉さんよりは小さくて、かたいけれど安心できる手。
「……ずっと?」
「義勇が望むなら、ずっといてやる」
小さく力を込めた手がそれ以上の力で握りしめられる。隣を見たら錆兎が手を差し伸べてくれていた。その手を取るだけで、隠れていた月や星がキラキラと輝き出していく俺たちを照らしてくれていた。気が付いた時にはあいていたはずの穴は、錆兎の言葉によって隙間まで埋まっていた。
「そうだね、錆兎と結婚したら俺は寂しくないだろうな」
「けっ……!?」
「どうかした?」
「な、なんでもない!」
思ったことをそのまま口にしたら、珍しく驚いた反応が返ってきた。そして何故か顔を赤くした錆兎に首を傾げると、更に真っ赤に染まっていく。何かに驚いているようだけど、俺には分からない。それでも手が離れることはなくて体の内側から温かいものが広がっていく。
あぁ、幸せだな。姉さんもこんな風に手を取るだけで幸せなんだろうな。
幸せで、嬉しくて。このまま姉さんにちゃんと「おめでとう」を伝えに行きたくて仕方がなかった。
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20200912錆義ワンライ
初公開日: 2020年09月12日
最終更新日: 2020年09月12日
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0912お題【結婚式/子育て】
20200913カケタイss
こんな声などくれてやる300-500文字
みつき
20200912カケタイ2
「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろう」~「やっと言えた」800ー1000文字
みつき