◇sideケイタ
人は案外簡単に死ぬ。
じくじくと痛み、血がとめどなく流れていく自分の腹に手を起きながらそんな事を思った。
周りで騒いでいるのは敵の攻撃から庇ったTつぐだろうか。
ふわふわと白み出して浮いていくような、それとも落下していくような感覚。
それはまるで夢に落ちるのと一緒で。
「…すこし、ねるだけ、だから……」
倒れている俺の傍で涙を零しているTつぐの頬に手を添えて、安心させる為にそう言って微笑んでから、俺は意識を手放した。
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時は遡って数時間前。
いきなりの宣戦布告を受けた俺らはそれぞれの隊を引き連れて持ち場で待ち構えていた。
前線隊であるKCとまっちゃんはもう突っ込んでいたけれど、中距離隊の俺は前線より少し後ろで2人の隊が打ち漏らした敵を殺すだけで落ち着いていた。
今回の戦争も楽に終わるだろう。
誰もがそう慢心していた。
インカム先の司令塔であるMくんも、空で戦闘機を操っているてんてんも、裏取りをしに行っているズシシ△も、武器の補給を耐えず行ってくれているロックも、1人高台に登っていつも通り眺めているTつぐも、俺も。
その慢心が命取りだという事さえ忘れて。
高台に居るのが暇になったのか、それとも出てきても大丈夫だと思ったのか、後衛の位置までTつぐが出てきた。
俺らのリーダーであるTつぐが死ねば俺らは終わりだ。
だから少しTつぐの事を気に掛けながらも、確実に1人1人仕留めていった。
槍を回転させて背骨をへし折り、胴体を、四肢を、首を貫く。
人間は脆い。
酷く脆い。
外面的にも、内面的にも。
気付けば死んでしまっているような儚さを持っている。
愛用の槍を持ち替えて、溜息をついた。
それにしたって我らが総統様は下に降りてきて、もし攫われたり狙われたりしたらどうするつもりなのか。
と、副隊長の子に隊を任せてTつぐに高台に戻るように言うついでに狙われたらアレだからついて行こう。
そう思ってTつぐの元に向かう。
「Tつぐ、なんで高台から降りてきたのさ。」
「え〜…だって暇なんだもん。別にいいでしょ?今回の敵は直ぐに終わりそうだし。」
「……そうやって慢心してたら何時か足元救われるよ。」
「へいへい〜気をつけまっす〜」
たく、ケタは過保護なんだからぁ〜…
と足をぶらぶらさせながら、あっちへふらふら、こっちへふらふらと歩くTつぐに溜息をついた。
本当にこの人は…
辺りを警戒しながらTつぐの後を追っていると、変な人影が見えた。
森の付近にある、茂みの中。
緑の中に紛れる、少し鮮やかな緑の色…敵軍の兵士かっ?!
槍を其方に向けて勢いよく投擲した。
幸い風に煽られることも無く真っ直ぐ伸びた槍は狙っていた茂みに刺さった。
しかし手応えはない。
ガサガサ、バキバキと茂みの枝が折れただけだ。
もしかしてフェイク…?なんのために……
護身用の銃の安全装置を外しながら、茂みに向かう。
槍を回収したけれど、敵の気配はおろか人の気配すら感じなかった。
これは、、、嵌められた、か?
Tつぐから俺を引き離す為に?しかしこの一瞬でTつぐが高台から降りた事まで把握できるはずがない。
だってここは自軍付近で……
スパイの可能性も考え始めた頃で、Tつぐから離れてしまったことを思い出した。
慌ててTつぐの方に顔を向ければ、呑気に俺の方に手を振ってくる。
その、後ろに不穏な緑色の影が1つ。
「っっ!!!!Tつぐっ!後ろっ!!」
「はっ?うしっ…ろ……あ。」
普段滅多に張り上げない声を出した。
久しぶりに大きな声を出したので軽く噎せてしまったし喉が痛みを伝えてくる。
けれどそんな事を気にしていちゃ居られない。
何とか不意打ちの攻撃は避けた見たいだけれどそれで体制を崩してしまっているようだったので次の攻撃は避けれないだろう。
全速力で走る。
足の回転数を多くする。
強く地面を踏み締めて、剣を突き刺す体制に入っていた敵とバランスを崩して倒れかけているTつぐの間に割り込んだ。
腹に鋭い痛みが走り、皮膚、肉、血管がブチブチと破れていく。
内蔵にはギリギリ当たらなかった見たいだけれど、それでも出血量が酷い。
あっという間に流れていく血に下腹部は暖かくなっていくが手先や足先は冷えていくのが分かった。
安全装置を外していた銃の先を敵の頭に押し付けて引き金を引いた。
至近距離での射撃だったので敵は撃たれた反動で頭から赤い花弁を散らしながら倒れていった。
胸が呼吸の為に上下していないのを確認して、自分の後ろに居るはずのTつぐの顔を見る為に振り向いた。
「Tつぐ…怪我は、ない?」
「なっ……ない、けど…ケタ、それ…」
「あぁ、大丈夫だよ…」
青ざめているTつぐの頬に着いている血を拭う。
拭ったけれど赤い線が横に引かれただけだった。
だらだらと血が流れているのが分かる。
貫かれはしなかったけれど、これを抜けば確実に大量出血で死んでしまうだろう。
でも、まぁ、最後にTつぐを庇って死ねるのならばそれも悪くない。
自分の不注意で死ぬくらいならば、味方を守って死にたい。
血液が足りなくてふらついてしまい、地面に膝を着く。
そのままの勢いで地面に倒れ伏してしまった。
下腹部にはまだ剣が刺さったままである。
荒くなっていく息、冷えていく身体。
あ〜、死ぬんだ。
本能的にそう思った。
ねぇ、Tつぐ。
倒れてしまった俺に駆け寄ってくれたTつぐに微笑む。
ありがとう。
声には出さずに口だけ動かしてそう伝えた。
ぽろぽろと涙を流しているTつぐの涙が、俺の頬に当たってつぅ……と流れていく。
あぁ、泣かないで。
俺は、お前が生きてて幸せなんだから。
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「────てよ…お願いだから……」
ほわほわとして、掴みどころのない微睡んでいる思考の中に、特徴的な声が流れてきた。
薄らと目を開ければ、ぴょんぴょんと跳ねている黒髪が見えた。
ゆっくり、ゆっくり、動かしにくい右腕を動かしてTつぐの頭に手を乗せた。
それに勢いよく顔を上げたのに笑って、
「おはよう、てぃーつぐ。」
と声をかけた。
目に濃い隈を作ってしまっているTつぐの目の下を撫でる。
あぁ、無茶したんだな。
ここの連中は直ぐに無理をするのだから……勘弁して欲しい。
なんて思ってれば、気を失ってしまう前みたいに涙を零しているTつぐに睨みつけられてしまった。
「なんで、無茶したの。」
「……え?」
「なんで、俺を庇ったの。」
声は震えているけれど、目はしっかりとした信念がある。
俺を問い詰めるという、信念が。
そんなの要らないのだけれど、と思いながら庇った理由なんて1つしかないでしょ、そう言った。
リーダーであるTつぐが死ねば俺らはダメになるじゃないか。
そんなの、当たり前なのに。
「そうだけどさっ?!死にかけてるのに、笑うなよ……」
「なんで?」
「は?」
「俺は、皆を庇って、守って死ねるなら本望だと思ってる。」
なのに、なんで笑っちゃダメなのだろうか。
俺はお前を守れて安心したし、幸せだった。
笑ったのは泣いているTつぐが心配だったから安心させようと思っただけだし。
そう思っている事を全て話せば、絶句したTつぐは俯いて、指を鳴らした。
パチン、とこの場の空気に似合わない乾いた音が鳴ったと思えば、医務室のドアから皆がなだれ込んできた。
皆泣き腫らした跡があって、KCやMくんは今も泣いていた。
あぁ、綺麗な目が充血してしまっている。
俺は皆にそんな顔をさせたい訳じゃないのになぁ…