冒頭>
帰還したアフトクラトルで重犯罪人として虜囚となってるヒュース
※死罪のところを和平交渉で罪一等減じられた。トリガー角は片方だけ折られてる。
何らかの祭事があって恩赦で釈放されるけど、角折れ《ペリトメー》とか呼ばれて賤民扱い。
(どうせ元に戻っただけだ)
長い虜囚暮らしで弱った体で雨に打たれて行く宛もなく。
回想>
陽太郎が同年代の女の子に告られてるところに出くわす。
お前もすっかりおとなだな。そういうじゃない。俺が好きなのは……
好きだと告白する陽太郎だがやんわりと断る(というか言わせない感じかはぐらかすか)
長く居過ぎたのかもしれない、と天体図を見上げながらヒュース。
玉狛のみなに。アフトクラトルに改めて戻ろうと思っていると告げる。
罪に問われるかもしれない。だがこのまますべてを有耶無耶にして安穏と過ごすだけにはいかない。ずいぶんと遅れてしまったけれど。ここは俺にとっていい止まり木だった、と柔らかく淋しく笑う。(本部には了解済み)
やだいっちゃやだっていう陽太郎に、いつかまたここに戻ってくる、とキス。え、と目を丸くする。
ミデンでも口づけの意味は同じ、だろう?
同じって?言ってくれないとわからないよ。
好きってことだ。
だって、あの時は。とかごちゃごちゃ。
いまさら、狡いよ。
そうだな。でもまだ夜は長いぞ、どうする?
思い出を、貰っていいかな…
ああ
(俺も、欲しい)
(おそらくは帰国したら裏切り者として死罪に処されるだろう)
(冥府へ持っていくには十分過ぎる)
翌朝。早朝玉狛支部の屋上から三門市を懐かしそうな顔で見つめているヒュース。陽太郎が来る。振り返らず「また、いつかここにきっと戻ってくる」
見送りには行かない陽太郎。
こんな顔見せたら帰れなくなるかもしれないだろ。……でも、あいつ嘘ついてる時の顔してた。おれはどうしてまだ子供なんだろうなあ。おれが十六の時よりお前のほうがずっとおとなだよ、と迅が頭撫でてやる。
>現在
なんかあってピンチっぽいヒュース。かつての自分のような角なしの浮浪児を庇ったか何か?
もっと早く終わると思っていた命だった。
なのに、それでも惜しいと思った。
「……また約束を破ってしまったな、陽太郎」
『かえるならちゃんとかえるっていえ!』
「蝶の楯」
(え?)
「迎えに来たぞ、ヒュース」
逆光でシルエットだけ。
「陽太郎……?」
「お前があんまり遅いからさらいに来た」
アフトクラトルと交渉がある今なら分かるだろう。今の俺がアフトクラトルから離れることは出来ないと。角折れが隔離区画から出ることすら重犯罪だ。
角折れ……とイヤそうな顔。痛そうだな、とかつてそこにキスを置いた角の跡形に掌を触れさせる。
そんな理不尽な法、知ったことじゃないな。ヒュースは何も悪いことなんてしてない。ボーダーにだって文句なんて言わせない。ヒュースはボーダー隊員だ。こっちの理で生きていく権利がある。
それでも司令や支部長がああだこうだ言うなら、俺はもう向こうには帰らない。俺たち二人で生きていく星くらいどこかにある。
昔千佳ちゃんたちに聞いた。エルガデス生まれの若者と自立式トリオン兵の女の子がそうやって旅立ったって話。
千佳たち、か。
みんなヒュースに会いたがってる。雷神丸四号もだ。
さあ、と陽太郎は手を伸ばす。
俺はもう選んだ。あとはお前がどうしたいかだ、ヒュース。
あてもない旅になるぞ。
ふたりならきっと楽しいって。
そうか…そうだな。
ぐいと引き寄せて抱きしめる。
記憶よりもずっと細く儚く痩せた身体に陽太郎の顔が歪む。
長い歳月、狭い牢で鎖に繋がれ、衰弱したヒュースの体には世界を渡ることも難しいかもしれない。
でも背負って歩けばいい。かつて花火大会の帰りに陽太郎がそうして貰った時のように。
返す。蝶の盾。お前のものだ。飛ぼう。
今の俺に使えるかな。
補助する。
頼もしくなったかつての少年に、ヒュースは顔をほころばせた。
行こう。お前が望むところまで。俺の命が尽きるその日まで。
空から主が守護する故国を見下ろし、ヒュースは今度こそ永遠の別れを告げた。