それが、先輩の心からの望みなら、佐鳥は喜んで銃口を向けられますよ?
「柚宇さん、サバイバルホラー系のアクションゲームでなんかいいのある?」
「いっぱいあるよ~。ラスアスとかデッドスペースとかサイレントヒルとか。TPS寄りのほう?」
「そうだね。……人の形をしたものを無茶苦茶撃ち殺したい」
「うんうん、そうかそうか。分かった」
「軽蔑する?」
「なんでぇ?」
甘ったるく舌足らずに答えて、国近はにょ、と首を傾げる。
「ありがと」
「なんでお礼言われるのか分からないけどどういたしまして~。え~と、バイオでいい? やってないやつがいいよねえ」
「ナンバリングないやつは殆ど触ってないです」
「そっか、だったらリベレーションズがいいかな。クリスとジルが出てくるの。4と5の間だったっけな。最初はプレステじゃなくて3DSでリリースされてたからやってない人多いんだよね」
switchに移植されたけど、と言いながら、国近は棚からPS4本体とソフトを取り出す。何でもあるな、と感心しながら、それを受け取ってケーブルをモニターに接続する。
「操作方法は分かる?」
「触ってるうちに覚えられる、かな。チュートリアルありますよね」
「どうだったっけなあ」
「何とかなるでしょ」何であれ。
「そうだね。なるなる。……頑張ったよねえ」
柔らかく笑いながら、国近は出水の手にコントローラを手渡す。分かってくれる人が近くにいるだけでほっとするし、他愛ないようにあえて聞こえるように告げる励ましが泣きたくなるくらいに嬉しかった。だから出水は唇を引き結んで、画面へと顔を向けた。
これからもこういうことは起きる。遠征部隊に選ばれるということはそういうことなのだ。いつまでも白い手ではいられない。分かっていたはずだ。ああ、でも、その前に京介は太刀川隊から外されて良かった、とも思う。
「あ、俺もやるやる」
それまで黙って自隊のオペレーターと射手のやりとりを眺めていた隊長が気まぐれのように身を起こした。
「太刀川さん下手くそじゃん」
「協力プレイモードあんだろ」
「あるけどイヤです。馴れてないゲームで初心者と一緒になんか無理ですって」
でもまだ元気ないね、と国近は出水を覗き込む。
「あたしのおっぱい貸してあげようか。ふかふかして気持いいぞ~。ほら、来い来い」
「そういうのがイヤだからゲームすんです」
「なんで?減るもんじゃないよ?」
「減るとか減らないとかじゃなくて~」
「そうだよ、遠慮することねえじゃん」
「あのね……」
「だったらこいつが遠慮して空いたところ、俺がパフパフしていいか?」
だが国近は萌え袖気味のゆったりしたカーディガンの前をぎゅっと掴んで、ぷるんと首を横に振った。
「太刀川さんには貸さないよう。太刀川さんはそういうのいらないじゃん」
「えー。差別だ差別」
ボーダーでとびきりの弧月の腕を誇るトップランカーの男は、パフパフさせろと抗議の声を上げるが国近の固定シールドはいっこうに解除されないことを確かめて、諦めて出水の隣に身を放り出すように腰かけた。
「だったら2Pだ2P、ほら、コントローラ寄越せ」
「あんたが言うと別の意味に聞こえてヤだな~」
「あら出水きゅんたらエッチですこと」
どっちがだ!!!!
叫びたいところをぐっと堪えて、出水はAボタンを押し込むと、見慣れたゲームメーカーのロゴがぼうっと黒い画面に浮かんだ。
「……てなこともあったねえ、って話」
出水は投入口に五百円玉を押し込んで、ゲームスタートのボタンに手を置いた。
「ほら、おまえも手ェ貸せ、A級狙撃手」
「これとスナイパートリガーじゃ勝手が違いますよ、出水先輩」
「射手よりマシだろ、射手より」
そりゃそうですけどぉ、と唇を尖らせ、せっつかれた佐鳥は機体からコードの伸びた模造銃を構えた。ともあれ、スコープがほぼ意味を為さないツインスナイプの使い手はすぐに要領を掴んだのか、画面の中のゾンビに次から次へと標準を定めると同時に引鉄を引いて、生ける屍を死者へとさくさくと強制送還していった。
「……佐鳥」
「何ですか」
「もしもさ、俺がこいつらみたいに」
言葉がひっかかったように途切れさせた出水に、佐鳥の視線が引っ張られる。その隙に背後から迫っていたゾンビに襲撃され、左画面が赤い血しぶきで染まり、振りほどこうとレバーを左右にガチャガチャ振るがあえなく画面にYOU ARE DEADの文字が表示され、佐鳥はコンティニューにカーソルをロックしてトリガーを引いた。
「こいつらみたいに何すか」
「なんでもねーよ。右奥から団体さんがお出ましだ。ちゃんと片付けろよ。俺は0時方向の奴らにかかるから」
「はいはい。じゃ、こっちは三点バーストに切り替えますね。フレンドリーファイヤしたくないから気をつけてくださいね」
「おう」
モードを切り替えて、佐鳥は出水が示したあたりに照準を合わせる。タタタ、タタタと数発の連射をリズミカルに響かせながら佐鳥は横目でちらと出水を伺う。
ちかちかと光るモニターに向けられた横顔は、色を抜いた金色の長い前髪が影になってどんな表情を浮かべているのかはろくに分からなかった。
出水達が今回の遠征先の補給地であった緩やかな友邦でもあった都市国家は近隣との紛争の真っ最中で、虜囚となった敵兵の意識を剥奪し、味方を敵と誤認させるトリガーが猛威を振るっていたと佐鳥聞いたのはそれから少し後の話となる。