秋彦side
「本当に大丈夫...か?」
「なんとか、なるんじゃ、ないっすかね」
「なんとかって...」
「いいんですよ。俺が、やりたいんで。ゆっくりやっていきますよ。」
「...それじゃ、あとはよろしく。」
まだまだ言いたいことが、あったんだ。
じっとそらさずに合わせた視線。
そこから、数秒後、言葉を飲み込んだのは、わかった。それ以上は何も言うまいと、最後の荷物だけ手渡して、矢岳さんは玄関先で引き返して行った。
春樹に声をかけることなく。
日常生活に支障はなさそうだし、病院にいる意味もないからと、早々に自宅療養に切り替わって。肝心な俺の事は、記憶が混乱してるだけと位置づけられ、しばらくすれば戻るかもしれないしねと、楽観的な事を告げられた。そんなもんなのか?医学的な事はさっぱりわかんねぇけど。
あそこにいるよりは、いいかもしれない。
俺も春樹も。
することがなくて、息苦しかった。
「あれ?タケちゃん帰っちゃたの?」
「うん」
「そっか...ちゃんとお礼言いたかったな...あぁー、やっぱり部屋落ち着く!!」
勢いよくソファに倒れこみ、隣にあったクッションを抱え込む姿を見て、頬が緩む。この家の匂いは、あの時のままで。住人の事をあっさりと受け入れてくれた。
「コーヒー淹れてやる」
「ありがとう」
重そうな荷物をとりあえずリビングまでは運び終わると、そのまま寝落ちしそうな春樹を食い止めるためにお湯を沸かす。インスタントコーヒーで、我慢しろ。
バンドのことも
この場所も
ベースも
学校のレポートも
メンバーも
全部正確に覚えていて
俺のことだけが
抜けおちてる。そんな感覚。
俺との出来事がなかったことになっているのか、それとも書き換えられているのか、怖くて聞けない。
「秋彦クンてさ...モテるでしょ?」
眠そうな声が背中から降ってくる。
ああ?
呼ばれ慣れない"くん"付け。
背筋が痒い。
前に俺が言ったセリフだよな。
「どうして、そう、思うわけ?」
にやにやとゆるい笑みを口元に貼り付けたまま、使い慣れたマグカップをテーブルの上に置く。もそもそと起き上がって、1口。濃いめにいれたコーヒーは、いい目覚ましになったみたいだ。
そのまま天井に視線を泳がせて、言葉を探していく。
「外見がかっこいいのは、言うまでもないんだけど」
しりゃ、どうも。
ソファとテーブルの隙間に腰を下ろして、次の言葉を大人しくまってみる。
やっぱり 春樹が淹れた方が美味いな。
「なんていうか優しい...違うな」
違うのかよ。
くくっとこもった笑い。
数秒の沈黙に、自分でも驚くくらい大きく鼓動を打ちだす心臓。見抜かれないように、頬を引き上げ、だらしない笑顔を貼り付けた。
「ほしい言葉をくれるっていうか、んん...先回りされてる感じ?すごいなと。超能力者?」
それには、ちゃんと理由があるんだけどな。
「んなわけねぇだろ」
「だよね。」
超能力...があったなら、真っ先にお前の痛みを和らげてやるのにな。
要らないものをとってやりたい。
俺はなんにもできない 、ただの人間なんだ。比較的、無能な方。
「好きになったやつは、泣かせてばっかりなんだけどな。」
ただの軽口のつもりだった。
なのに。
「...それはさ、やっぱり秋彦クンが優しいすぎるからなんじゃないの?」
「そんなこと...」
言葉が詰まる。
顔を上げた先にあったのは、懸命に涙をこらえている春樹で。
瞬きしたら零れるんじゃないかってくらい揺らめいていた。
また...だよ。
な...やっぱり、ダメだな俺。
今は、怖くて抱きしめてやることも出来ない。
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向き
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日常
初公開日: 2020年09月10日
最終更新日: 2020年10月11日
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コメント
秋彦さんside
捏造
なんでも許せる方向け
秋彦さんに
言ってほしいセリフをいれたかった♡