「翔陽くんホンマに駅でええの?送ったるで?」
「イエ!明日の食材まだ買ってないんで買い物して帰ります!あざっした!」
「ほんならまた木曜日なー」
「お疲れしたー」
後部座席の窓開けて手を振ると犬のしっぽのようにブンブン振って別れた。窓を閉めて広くなった後部座席の真ん中に座り直す。
「元気やなあ」
「車内温度下がった」
「寒い?」
「いや」
チームのメンバーで企画した海水浴の帰りに車出しじゃんけんで一人負けした侑が運転する車で帰路についた。侑の車ともう一台、バーンズの車にと二手にわかれて乗って帰り、バーンズ組とは現地で別れたがおそらくあちらもあちらで死屍累々だっただろう。でかい車を持ってるバーンズともう一台の車出し担当になった侑以外、監督が借りてくれたビールサーバーとクーラーボックスパンパンになるくらいに詰めていた酒をしこたま飲んだ挙句、泳ぎはもちろんビーチバレーもしたしバナナボートもやったしフライングボードもやったしといつもの練習並に(ひょっとしたらそれ以上に)体を動かしてヘトヘトだ。それにしてもフライングボードでの侑のリアクション芸は事務局に送って公式SNSに上げて欲しいくらいやったな…イメージ損なわれるやんと本人からNG食らってしもたけど。
ひょんなことから海水浴に行くことになり、ビーチバレーで佐久早釣ってたらチームのイベント大好き侍が乗ってきて、時にモンスターの面倒見てられへん言うて離脱して、結果いつもの顔ぶれになってしまった。
「なかなか白熱してしもたなあ。今度はもっと人集めて本気でやろか」
「ビーチバレー?」
「そおそ。意外やったわ、日向が強いのは分かりきっとったけど佐久早もめっちゃやっとるやろ」
「ほんっっまにそれな!臣くんそゆとこあんで!?隠れて練習するとかズルいやんか」
「フフン。高校の時の夏合宿が海だったんで…砂浜ダッシュとビーチフラッグが練習メニューにあったんです。多少慣れはあったのかも」
なるほどなあ…反射と足腰鍛えられそうだ。ちょっと走って飛んだだけで腰に妙な痛みがある…………加齢……?いやいや、考えるのはよしておこう。ペア分けはくじ引きの結果侑とシオン、日向と佐久早、俺と木兎、バーンズとトマスで決まった。終始侑とシオンが「セッターとリベロて圧倒的不利やないですか!」「バランス考慮してくださいよバランス」と文句垂れとったな。文句言う割にシオンは百年ぶりに勝負のためのサーブ打ったとニヤニヤしてなんやかんや楽しんどったしもうええやろ。因みに結果は日向佐久早組が優勝、バーンズトマス組が準優勝、俺木兎組と侑シオン組が一回戦敗退。経験値で言うたら優勝組以外横並びの筈が、やはり二メートルは強かった……なんやねん…トマスは相変わらず順応早いし、バーンズの力こそパワーなあの勢い…勢い負けがいっちゃん腹立つわ…
「来年やる時絶対シャッフルしてくださいよ!俺も翔陽くんと組んで臣くんボコボコにしたんねん」
「まだ根に持っとるんか…」
「しつけぇな。今日ボロボロだったのおまえのセットだろ。半分自滅」
「ハウッ……」
「まあ…風なあ…複雑に変化するジャンフロポンッと上げて風よかマシやーて、そらそうやと思ったしな」
「ヌゥ…」
風と変化を読む目とバランスは一朝一夕で身につくもんちゃうぞ。日向佐久早組にダブルスコアで敗北を喫したのが余程悔しかったのかミラー越しに見た顔が不貞腐れる子供そのものだった。
「今日は全勝でしたけど…課題見えたんで、良い経験になりました」
「課題?」
「平衡感覚。いつでも百パーセント万全な体勢でレシーブも助走も出来るとは限らないから…やらないと」
「臣くんエンジン着火〜」
「煩ぇ」
「まずはバランスボールからやるとええ」
「…っス」
俺も空中姿勢固める時にジムでトランポリン使った事あるけどボールだったら家でも出来る。佐久早はやると決めたらやめ時決めずに続ける奴やから家でもやれる方がええやろ。
「次は負けへんし」
「次も泣かしてやる」
ふん、と顔を背けたが妙に流れる静かな空気が「言うて次やる時組む事になったらどないしよ」とお互いに考えているのは明白だった。ウンウン、わかるでそのキモチ。次会ったらぶっ倒してやるから、やれるもんならやってみぃと啖呵切って次に会ったのはユース合宿で、同じチームになった時にこう…なんや気まずいキモチに……
「まあ、来年は来年のキャプテンにくじ引きは嫌やーて言うたらええやろ」
「……はーーー??修さんは来年もキャプテンですう」
「…今シーズン中にまた行けばいい話」
特に考えずに言ったが、まあ…わからんしな。毎年毎年、今のこのチームが最強最高と思ってはいるが何も変わらないまま次のシーズンが始まる事は絶対にない。何かしら変わるだろうがコイツらがちょっとくらい愛着持つチームになるとええなとは思う。侑が車を走らせて、ウィンカーを上げると助手席の佐久早から小突かれた。
「…おい、この道違う」
「へ?修さんちこっちやん」
「車、会社に置いてるんじゃ…」
「あー…せやった。修さんこのまんま帰ってええんですか?車取りに行って代行で帰ります?」
「ええねん、明日取りに行く」
今朝会社の駐車場で集合して二台に荷物振り分けて行ったから自分の車は置いていた。また明日バーンズと落ち合ってトランク片す約束しているからついでに車回収して帰る。言い忘れていた。はあい、と返事した侑の腹から、んぐー、と音がして笑いながら運転席と助手席の間から顔を出した。
「腹に何飼っとんねん」
「人間だもの。つむを」
「何言ってんの」
「そやなー、昼に破裂するまで食うたけど人間やしこの時間に腹減ってもおかしないな。そう言われると腹減った気ぃしてきた」
「せやろー修さん。なんか食うて帰りますー?」
昼のバーベキューでこら明日までなんも食えへんわーなんて言っていたけれど普通に減った。
「ウチにジンギスカンあんで。上がってく?」
「行くー!」
「また肉…」
「臣くんどないする?やめとく?」
「……行く」
「え、珍し…臣くん夏に浮かれとるんか」
「死ね」
佐久早は他人の家余り行きたがらないがウチは別だ。飯もそうやけどコイツには目的がある。
「前にも一人でウチ来とるしな」
「えっ……えっえっなに?なんで?」
「なんでも良いだろ」
「イヤやアカン!闇堕ちされたないなら正直に言うて!」
「何その脅し…勝手に闇堕ちごっこしてろ」
「来たらわかるて。侑、コンビニ寄ってやー。帰り代行呼んだるからおまえも飲み」
「なんでなん?こんな浮気のカミングアウトある?」
「トラ……」
「トラとちゃうでー。なっちゃんや」
「ってインコかーい!てっきり臣くん関西弁萌して浮気に走ったのかと…」
バカじゃねぇの。キャプテンの自宅にお邪魔して、お邪魔ついでに風呂も借りて海風と潮水でベタベタした体をさっぱりさせた。すぐに居間にいるオカメインコの納豆に寄って行くとオカエリフクローオカエリフクローと繰り返した。フクロー?キャプテンはネーミングセンスが独特だから何かにつけた名前だろうか。前に高い良い電子レンジを買った時に上がったテンションのままフローレンスと名付けたとSNSで言っていたとか。そもそも納豆というのもかなり独特…キャプテンからオカメインコを飼っていると聞いた時にトラが頭に過ぎって会わせて貰った事があったから初めましてでは無い。
「オマエノソユトコキライヤネン」
「え…」
「あー!あー!ちゃうねん!テレビにな、つい話しかけてしもてん!一人暮らしのあるあるやて!」
何もしていないのにトラに嫌われた心地で衝撃を受けていると慌てたキャプテンにフォローされた。
「て、ウワ!佐久早めっちゃ焼けたなあ…肩から鼻から真っ赤っかやん」
「ホンマや!明るいとこで見ると酷いなあ…」
「…日焼け止めちゃんと塗ったのに」
日に焼けると赤くなってヒリヒリするからしっかり塗っていたし、極力パラソルから出ないようにしていた。バレーやる時と三十分くらい泳ぎに出たくらいで…風呂に入る時も沁みて痛かった。
「侑も焼けたなあ。ミディアムレアてとこやな」
「夏の日差しが似合う男なばっかりにゴメンな臣くん」
「ちょっと何言うてるのかわからへんけど」
「去年まだらに皮剥けて後悔してただろ。学習しろよ」
「ウッ…」
次に海に行く機会があったらキャプテンやシオンさんのように上に着られるものを用意しよう…トラ…じゃない、納豆に和んでるとこっち手伝えと声を掛けられて納豆から離れた。
温めたホットプレートに流水で解凍した味付きジンギスカンを乗せる。端の方に玉ねぎで俺の陣地を作って貰ってそこで焼き始めた。
「修さんちいつもジンギスカン常備してません?好きなん?」
「んー。連れ合いが実家から送られてくるーてウチに持ってくんねん。せやからまだまだあって食い切らん」
「連れ合い……実家……ハッ!修さんのカノジョ道産子なん?!」
「は?どさんこ?」
「ジンギスカンて北海道の名物やんな?うわヤラシイ!おらなまら修ちゃん好きだっぺとか言うてイチャイチャしてはるんや!」
「何言ってんのおまえ」
「妄想大爆発やん怖ぁ…」
「相手にしない方がいっスよ」
「せーへんせーへん」
「つっこむならもっと優しくつっこんでくれ!」
「半端につっこむと俺まで事故るやん。見てみぃ、佐久早クスリともしてへんぞ」
「臣くんは笑いのツボおかしいねん…」
おまえのネタで笑う事はまず無い、諦めろ。そもそもジンギスカンの袋には長野と書いてあるから北海道のジンギスカンですらないのに…面倒だからわざわざ言ったりしないけど。
「そろそろ焼けるでー。佐久早、それひっくり返さんと」
「大丈夫です自分で出来ます」
共有の菜箸で触られるのはちょっと。手を出される前に返して焼き上がる頃に三人同時にビールの缶を開けた。帰りに運転しなければいけないからビーチでは酒を飲めなかった侑がそれはそれは美味そうにビールを煽り、キャプテンも自宅という事から気を弛めたのかいつもよりピッチを上げて缶をあけていった。だからその時から既に「こうなるんじゃないか」とわかってはいたが。
「おい。帰るぞ」
「ンズズ…」
「…キャプテン。そろそろお暇します」
「ほへ?おー。ほほほほ、ええやんけべつにぃ。とまってき」
「いや…他人の家の布団とか無理なんで…おいそこのバカ、起きろ」
ジンギスカン焼いて食って、締めにジンギスカンのたれで煮たうどんまで食べ終わる頃には侑は目を離した隙に寝コケ、キャプテンは頭をぐらぐらと揺らしていた。俺はこの程度じゃ酔っ払ったりしないがキャプテンは昼間からガパガパ飲んで居たのだから逆によくもった方だろう。
「おい、起きろ」
「ンズ…」
「起きろ。おい……あつむ」
「…んー…んー?」
「帰ろう」
寝るなら帰ってから寝ろ。俺は他人の家では眠れない。置いて行くのも嫌だ。こいつは同郷の先輩に比較的懐いているし、キャプテンもこいつを割とかわいがっている。そんな中で何も無いとしても二人にしたくない。数回揺すると薄く目を開けた侑が口の中をもごもご動かして床で伸びたあと、のそりと体を起こす。
「かえろか…しゅーさん、」
「寝てる」
「あ、ホンマや。片しとこか…ゴミ袋台所やったっけ」
「代行呼ぶ」
機嫌よく頭を揺らしていたキャプテンが侑を起こしている間にソファに倒れ込むように寝息を立てていた。スマホのアプリで代行を手配していると台所でゴミ袋を探していた侑が変なところを開けたのか鍋か何かが落ちるけたましい音が響いてついびくりと固まってしまった。
「何やってんだよバカ」
「やって、鍋の下にあってんもん。ふつーに引っ張るやんか」
「鍋退かしてから取ればいい話だろうが。横着するから…」
「な…なんやあ?」
ほら起こした。音が大きかったからだろう、寝ていたキャプテンがバッと起きて辺りを見回した。
「すんません、あいつが鍋落として…」
「俺悪ないもん!引っ張ったらずるーて落ちて来てん!」
「煩ぇ酔っ払い。そもそも引っ張るな」
「臣くんかて寝起きは横着するやん!歯磨きながら服準備したりするやんか!」
「なんでそれとこれが一緒の話題になるわけ」
酔っ払った侑は知能が大幅に下がるからまともに相手していると馬鹿を見る。散らかした台所戻して来いと言いつけて、手配した代行が来る前にテーブル付近も綺麗にしておこうと缶を集め始めるとソファに座り直していたキャプテンがにんまり笑って俺を見ていた。
「……なんすか」
「んーにゃ?おまえら見てるとな、せやろせやろーて気になんねん」
「は…?」
「喧嘩ばっかして、仲悪いて思われとってもなんやかんや気が合う奴よか上手く行く気がすんねん。不思議やな。合わんのが合う」
顔を赤くしてへらりと緩く笑ったキャプテンにどう返すべきか口を開いて、やはり閉じた。飲み過ぎだろう、この人。付き合っていると報告して以降そんな話をする事はなかった。何かを言いたげではあったが肯定的は言葉でないと思って意図的に避けていたのもある。
「けどなあ!俺な、そんなんやったら遠い方が喧嘩する数も減るしええやろーておもてんけどなー、やっぱし…ちょくせつ…かおみて、かいわ……」
「…キャプテン?」
「んーーーもーわからーん!一人でかんがえてもしゃーないねん!そーだんせな…なあ、佐久早もそう思うやろ?な?」
「え…あ、はあ。そっすね…」
つい勢いに押されてそうですねと答えたものの、何を聞かれたのかわからない。泥酔した人とは極力関わりたくない。幸いキャプテンは一定のラインを超えると翌日記憶が吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶのを期待して今日はさっさと帰ろう。
「アリクサ、福郎に電話して!」
わかりました、という機械音声と共にテーブルの上から退かしていたアリクサがどこかに電話を掛けている。
「修さんめっちゃエキサイトしとるけどなに?どないした?」
「いや…なんか、」
『もしもし、修吾?』
手こずった片付けが終わったらしい侑が台所から戻ってくるとキャプテンが酔って掛けた電話の相手が出てしまい、アリクサのスピーカーから男の低い声がした。当のキャプテンは電話を掛けた段階で満足したのか、またどさりとソファに横になってしまって、その音に電話の相手が動揺したのが声でわかった。
『修?どした?もしもーし、修吾?』
電話掛けておいてそれは、と肩を揺すって声を掛けるが反応はない。
「キャプテン、」
「臣くん、シッ!」
『…誰かそこに居る?修吾は?キミ誰?』
相手の声が低く攻撃的になった。その声はどこかで聞き覚えがあるような気がする。
「キャプテンは……俺の隣で寝てますけど」
『え…っだ!』
電話の向こうでゴツンと何かが強く打ち付けられた音と、台所でバカがずっこける音が同時だった。
「臣くん言い方!」
「言い方?言葉の通りだろ」
「せやけどそれってなんか…エロいやんか!ちゃいますよ、臣くん修さんと寝たりしてへん!」
『あ…ああ、びっくりした…いったー…頭打った…ええと、誰?』
「どーもー、ブラックジャッカルの宮ですー。紛らわしい事言うたんは佐久早ですう。佐久早聖臣」
すっ転んで酔いも多少覚めたのか多少口が回るようになった侑が俺をぐいと押しやる。触んじゃねぇ。
『ああ、ミャーツムと佐久早くんか。で、二人がどうして修吾の電話に?』
「や、ちゅーかそちらさん、誰?」
『…………』
「もしもーし?」
「これ通話切るのどうやんの」
『待った待った!……昼神です。アドラーズの』
昼神…昼神?アドラーズの?その人がどうして。同じように考えたらしく侑と目が合う。
『カミングアウト、絶対このタイミングじゃないよね。修吾は?』
「酔って寝てはりますけど…え?いや……ン?」
『またか…人前でやらかしたか、ついに。俺は悪くないから証言よろしく。今日海水浴だったんでしょう?昼間から飲んでた?そこのおバカさん』
「……まあ、そう…ですね。何だったら午前中から」
頭の中にふわん、と曖昧な予感が過ぎって、振り払ったけれどまた予感が浮かぶ。俺は余計な事は言わない…余計な事言って得した経験がない。そこまで至ると今しがた浮かび始めた予感が明確に嫌なものに変わってゆく。俺の嫌な予感は良く当たる上、
「昼神キャプテンてウチの修さんの何なん?」
大体避けられないのだ。主に連れのバカのせいで。
「おまえ……」
この、口軽野郎…いくら疑問に思ったとは言え……いっそその口糸で縫い付けてやろうか。
『さあ、何だと思う?多分想像しているもので当たりだよ』
「………やっぱり……知りたくなかった…」
「はー?なんやそら。臣くん今のでわかったん?そやってはぐらかされんのめっちゃイヤや!なにー?臣くんどゆこと?」
こちらを(はっきり言うなら侑を)茶化すようにころころと笑う声が混ざる。酔いもあっていつも以上にうざったく絡むバカの顔を手で押して剥がした。
「深窓の令嬢の正体はアドラーズの昼神キャプテンだったってこと」
「修さんのカノジョ?」
『が、俺ってこと。やー、深窓の令嬢の噂面白すぎない?どこまでいった?』
キャプテンは詳しく語らないが恋人の存在は大いに匂わせていた。言いたいような言いたくないような苦い顔。それがまた好奇心を唆られるらしく、俺達が加入する前から深窓の令嬢の噂はあった。言わないのではなく言えない。言えない相手とは?と。アナウンサーだとかセレブだとか、はたまた不倫だとか色々。そしてどれもアホかと笑うだけで否定した事がないらしい。バーンズとトマスがぽそっと呟いた『異性とは限らないのに…』という言葉に密かに同意していたが、まさか……
「ウッッソやん!修さんと仲悪いんちゃうの!?」
「おい、やめろ」
チームメイトの恋愛事情なんて聞きたくない……ぐい、とバカの袖を引くが俺の制止以上に好奇と疑問が勝っているらしくこちらを見もしない。
『アハハ、仲は良くないよ。嫌いだもん』
「極悪人!?」
『修吾にも同じ事聞いてご覧。仲良くないし嫌いだけど、好きじゃない訳じゃない。理解出来ないと思うんだよね。無理して理解して欲しくもないから、そうなんだーって軽く捉えてよ』
あつむ、と小声で呼んでもう一度袖を引く。侑の顔にはでかでかと「意味がわからん」と書いていたがもう何も言うな。わかる筈だろう。理解して欲しいから、受け入れて欲しいからカミングアウトするんじゃない。俺達がキャプテンに言う時にそう約束したのだ。
『今どこ?飲み屋?』
「家に…お邪魔してました。……あ、ジンギスカン」
あ、長野。そういえば。意識していない場所に置かれていた点が線で繋がった。
『美味しかった?実家の近所にあるんだよねー、お肉屋さん。また持ってくからみんなで食べなよ』
「……っス。あざす」
『泊まってくの?』
「や、帰りますー。代行呼んだんで…ア!アカンもう来てるんちゃう?」
そう言われてスマホを見ると代行が到着したと二分前に通知が入っていた。
『帰るんだったら念の為修吾を回復体位で寝かしといてくれる?寝ゲロした事ないけどこれから先しない保証ないから』
「おい」
「俺ぇ?……しゅーさーん腕かしてー」
そっちはよろしく。纏めていた空き缶をゴミ袋に突っ込んで口を縛り、空いたテーブルを簡単に拭いてから荷物を持って立ち上がる。
『今日、楽しそうだった?』
「ハイ?あー、ハイ、めっちゃエンジョイしてましたあ。行きの車同乗やってんけど窓開けて睡花蓮歌って海着く頃に喉枯らしてたり」
「後ろから見てても煩かった」
いつもなら窘める側なのに「若気の至りが通じる年齢の内にはしゃぎたいねん」と今日は全力で乗っかっていた。海水浴でテンション上がりに上がった妖怪三人と今日一日ブレーキ外したキャプテンが侑の車で行くと決まった時から絶っ………対に煩くなるとわかっていたのでバーンズの車に便乗していたら後ろからでも車内がとんでもない事になっていたのがわかった。帰りは現地解散だったのもあって方向別に車が分かれ、疲労もあってか静かなものだったが家に着いた時点でエネルギーは既に赤ランプだったのだろう。
『……変なの寄ってこなかった?』
「変なの?」
「目につくような奴は特に居ませんでした」
『そ。良かった。何かあってもすぐ行ってやれないからちょっと心配で』
侑は自分に関わるものは良く見ているが関わりのない部分にはまるで興味を持たない。だからキャプテンが所謂"ガチ"の人からの視線を集めると全く気付いていない。なになに、と掘り下げようとする奴の襟首を掴んで玄関に向かって押した。
「帰ります。お邪魔しました」
『はーい。酔っ払いが迷惑かけてゴメンね』
トラにまたなと挨拶してからキャプテンの家を出て侑が呼んでいたエレベーターに乗った。
「まっさか深窓の令嬢が昼神キャプテンやったとは……嫌いなのに付き合うてるて何事??」
「わかる気がする」
「え!臣くん俺の事嫌いなん?!」
「嫌いと言うか……あるだろ。例えば…俺はおまえが洗濯物の中にティッシュ入れっぱだったりとか、靴下裏返しのまま洗濯機に入れたりする所が嫌だけど。あ、あと汗だくの着替えバッグに仕舞う時くしゃくしゃに丸めて突っ込むとことかほんとうに無理」
「ご、ゴメン…」
「だからって、す」
「す?」
「す…………」
す、とまで言ったものの、俺は今物凄く恥ずかしい事を言っているのでは、と思い至って"す"の口のまま尖らせて黙った。嫌だと思うところはあるけれど、だからって好きという気持ちがなくなるかと言われたらそうじゃない。つまりあの人達もそういう事なんじゃないだろうか。嫌だと、嫌いだと思う部分は多々あれど。その気持ちはとてもよくわかる。口を尖らせたまま黙った俺にニンマリ笑った侑がエレベーター内で俺の手に触れ、指を絡めてきた。ゾッと鳥肌を立ててその手を振り払う。このバカ、エレベーター内にもカメラがあるだろうが。
「すーの続き聞きたいなー。めっちゃ聞きたいなー」
こっちを見ようと覗き込んでくる脂下がった男の視線から必死に顔を背けた。
修吾が酔っ払って寝落ちする直前に電話をかけてくるのは初めてじゃない。はーいもしもーし、と出た時には既にスピースピーと気持ち良さそうな寝息が聞こえる。電話はいつも俺からするから修吾から電話となるの何かあったのかと心配してしまうのに。蓋を開けてみたらただ酔って電話しただけというね。心配して損するよ。俺も修吾の寝息聞きながら寝ると結構寝付き良いから。
今日も電話が来て出てみたら無言で。生活音が聞こえるからアリクサで掛けてるのかなーと思っていたら。「キャプテンは俺の隣で寝てますけど」なんて言うものだから寝室のドアの上に頭を打ち付けてしまった。結局は修吾んとこのスパイカーだったんだけどね。ほんっっとに、知らないところで修吾にちょっかいかけられるの嫌なんだけど。紛らわしい。ついでにミャーツムと佐久早くんにバレたよ。しーらない、俺悪くないよね。彼らもいい大人なのだから言いふらすような事はしないだろう。今日は朝早く出て海水浴に行くと聞いていた。昼間から飲んでたんだろうな、と聞いてみたら案の定。一応回復体位取ってもらった。二人が家を出た音を聞いてから溜息をついた。
「修吾」
呼んでも寝てるから返事はない。
「修」
呼んでる内に面白くなってきた。自分もベッドに入りスピーカーで寝息を聞いた。
「なんで酔ったら電話してくるの」
あ、充電器差しておこう。
「もしかして寂しい?」
俺はホラ、心配だから声聞きたくなるけど。俺を尊重するのを忘れがちな修吾が俺を心配して電話する事無い。
「修吾」
電話の遠くで、んむう、と呻く声が聞こえた。
「俺の声聞きたいの?」
酔ってる時は結構ブサイクな顔で寝てるからなあ。きっと今もすごい顔しているんだろう。失敗した、写真撮っといて貰えば良かった。
「そんなに俺の事好き?」
なんて。シラフで聞かれたら顰めっ面されるに違いない。修吾も寂しがっている事だし、次のオフは一日しかないけど修吾に使ってやるか。ああなんて優しいいい彼氏だろう。本人はこれっぽっちもそうは思ってくれないだろうけどね。
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ななし@c08fa7
こんにちわ
271:03
グレゐス
↑妹ですねおまえ…見んじゃねぇよ……
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カルテットラブル2
初公開日: 2020年09月04日
最終更新日: 2020年09月27日
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侑サクにバレる昼明