特別な胚がある。
 ここで培養されているのは、たいてい生体から採取したものだが、稀に死体からのものがある。それには市民のIDがない。これも、ただイニシャルが付いていただけだった。『Ω』
 新しく生まれない人間、成長をほぼ思い通りにコントロールできるようになって、死は遠く彼方へ消えたようにも思えるが、こうして人間の部品を作っている。需要があるからだ。歯、内臓、血液、膚、およそ脳以外のものがすべてここで作られている。貧富の格差があるため、最初から部品を用意しておく事はあまりない。
 研究のほとんどは生体の培養だが、その奥に本来の目的が残っていた。
 人工子宮は仮に『ゆりかご』と呼んでいる。稼働中のものは三台。
 延泰暦0年。
 出生率がゼロになった年だった。人が生まれない。
 可能性のあるほぼすべての方法が試され、ことごとく失敗に終わった。
 ハリィも、特に興味があるわけではなく、単に仕事だからやっているにすぎなかった。Ωに出会うまでは。
 重力を調整した水球はおよそ一メートル、羊水は空に浮かんだ状態で並んでいる。最初の二つは凍結され保存されていた受精卵である。だから、目覚めさせたのが誰にせよ、孫かひ孫か知らないが、生まれてくる赤子には居場所がある。問題はΩだった。
 興味はない。ないが、すくすくと育つその様子はとても面白かった。目も見えていないのに、笑う。宙に向かって微笑むのだ。まるで人間みたいに。
 子宮の中の胎児に、僕は恋をしていた。
 
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ミッシングチルドレン
初公開日: 2020年08月24日
最終更新日: 2020年08月24日
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