『その人がどういう人物かわかるのね?』
『うん。だいたい同じような反応をするんだけど、何だろう。人間は誰でも死ぬのに、その時まで、まるで考えてなかったような反応をするんだ。金持ちでも貧乏人でも政治家でも先生でも、発狂したみたいに取り乱す』
それはそうでしょうね、と『死神』は思った。
『たまに、気持ち悪いのが……』
『なあに?』
『涙を流してこちらを拝んでくる』
『死神』は思わず吹き出した。
『笑い事じゃない。医者か何かにすがるみたいに、お迎えが来たって涙流して喜ぶんだ。本当に気持ち悪い』
『わかった。それは多分、ユダか老齢連合だと思うから、今後の計画の参考にしておくわ』
ペンを一振りすると、録画を止めた。
音はしない。あるのは音楽だけ。
女が出てくる。ゴーグル越しに目が合う。カップを取り落とし、割れて粉々になる。しばらく誰何している口の動きのあと、ナイフに目を止め、急いで元の部屋へ戻る。
ビンゴ。
ドアに入ったところで、髪を捉えた。首に手を回し、ナイフを構えると、尚も前方へ手を泳がせる。首の後ろにナイフを差し込むと、急に重くなった。もう一つの熱源が近づいてきた。
目の前に倒れた母親に近づきつつも、『殺人鬼』から目を離さない。そして、あきらめた表情で両手を組み、目を閉じた。
何に祈っているのだろう。小さく呟いているが、それはわからない。
母親のため? それとも、自分のため?
訊いてみたかったが、そろそろシシリエンヌが終わる。
彼女の背後に回りこみ、口を押さえると、ナイフを突き立てた。
急に視界が開けた。
音楽が切れた後、『仕事』のあとはいつもそうだ。
遺体の周りに、警察官と思しき人が二人、向こうにも一人いた。
自分が呼んだのだ。無人の隣の部屋に入って、非常ベルを鳴らした。本当に音が鳴るわけではなく、警察へのホットラインだ。
『殺人鬼』は部屋の隅にじっと立っていた。彼らに、自分は認識されない。互いに警察官だというレイヤーを被っているからだ。
今回、標的が二人だということもあって『死神』が考えた筋書きだ。
普段なら、警察が来る前に撤収して『結界』から逃れるのだが、彼らに遺体を車まで運ばせるという。
なんて計画を思いつくんだか。
ゴーグルに流れる文字によると、通り魔でカタがついたらしい。簡単だな、と思う。床に落としておいた自分のナイフが、証拠品として持っていかれた。
ボディバッグに仕舞われる遺体の顔を見たが、もう名前も思い出せない。二人がかりで階段から運び出す彼らの後に続く。
たしかに、これは自分では運べないなあ、と『殺人鬼』は思う。
バンの後ろに運び込まれたのを確認して、『殺人鬼』は運転席に座る。行き先はモルグではないのだが、ここまでが彼ら警察官の仕事であって、その先は管轄外だ。そして『殺人鬼』の仕事はまだ終わっていない。
アクセルを踏み込む後ろから「お疲れ様ー」と声をかけられた。