〔ここに現在軸の鈴鳴のシーン入る。ベランダのプランターか鉢植えにor今ちゃんの生けた花に水やりする来馬と鋼。今年も綺麗に咲きましたね、と告げる彼にそうだね、と鋼のほうを見て微笑む〕
一年ほど前のことだった。
珍しい、と来馬は出来たばかりの、まだビニールすら剥がしていない真新しいデスクや椅子がきちんと並んだ新しい鈴鳴支部のオフィスに、ふらりと訪れた空色のボーダーのジャージ姿の彼を迎えた。
「来馬さん、今度スカウトで来る子、気になったら取ったほうがいいよ?」
アポもなくてごめん、と短く前置いた彼が次に告げたのはそんな忠告だった。
「え?」
「だって鈴鳴第一をお飾り部隊にする気はないんでしょ」
まるで来馬の内心を見抜いているような口ぶりだったが、もしかしたらそうなのかもしれない、と思った。どうしてなら、十代の若者らしく悪戯っぽい光こそたたえているものの、その、人も立ち寄らない辺境の深い湖みたいな色の目は、幾重もの可能性を見通す異能の視力を持っているのだから。
サイドエフェクト「未来視」の男、来馬と同じく、本部ではなく支部所属の隊員である迅悠一は。
「……迅くん、何か視えてる?」
「取り合えず本部への増員申請書はリアルで覗き見しちゃったけど。最低でも実行隊員二名と専属オペの三人、出来れば攻撃手と、射手もしくは狙撃手希望だったよね。未来の来馬さんと同じ隊服を着た攻撃手の子、上位陣とバチバチやってる未来が見えた、と言いたいところだけど、それ以外も色々と、ね」
それ以外、とその意味を反芻するように繰り返して、来馬は難しい顔になった。
ボーダーの仲間たち「以外」と闘う。それは防衛隊員としては通常任務に組み込まれた日常ではあった。だが、迅のその物言いではそんな、三日に一度遭遇する敵のことではないのだろう。
ぎゅ、と来馬は汗の浮かんだ掌を握った。四年半前の大規模侵攻の時、たまたま来馬は所用で三門市を離れていた。戻って来た時には、多くの思い出の場所は瓦礫に代わり、身内や親しい友にこそ命に係わる被害はなかったものの、少しでも縁を広げれば立ち尽くすくらいに欠けたものは多かった。
身内をさらわれ、殺され、そして今も尚後遺症やPTSDに苦しむ多くの市民に比べたら、その欠落はささやかなものだった。けれども、来馬は同じ悲劇を繰り返したくはない、と思った。だから、「お前がやることでもないだろう」という親族の反対を押し切って、鈴鳴支部に力を注ぎ、自分も防衛に一端を担おうとしたのだ。
「そんなに使えるの?」
「たぶん。太刀川さんともじゅうぶんにやり合える」
「それは……」
さらりと攻撃手不動の一位の男の名前を挙げられ、そのひととなりと実力をよく知悉している同期の来馬は息を呑んだ。
「でもだったら鈴鳴第一じゃなくても……」
「あのね、レイジさんも言ってたけど、花はまあだいたいは何処でも咲けるかもしれないけど、綺麗に元気にのびのびと咲くにはまずは土壌が合わないと。あと手をかけてやる人?」
「鈴鳴第一に、ぼくにそうなれ、と」
「おれがそそのかさなくても、来馬さんなら手のかかる子はほっとかないでしょ?」
黒トリガーに成り果てた男に手塩にかけて育てられたと聞く青年は、それでも花開くみたいに晴れやかに笑った。
「鋼はそのサイドエフェクトで覚えたことを存分に生かせるだけの体づくりをちゃんとしている。今の鋼は、間違いなくおまえの努力の成果だよ。……鈴鳴第一の誇りだ」