昼休みの大食堂はいつも賑やかだ。様々な学年、寮生の生徒が入り乱れ、各々が自由に食事をしている。それはやや遅れて大食堂へ入ったデュースらも相違なく、ビュッフェで思い思いのメニューを頼んだ。トレイを持って、すぐに合流する。監督生が席を取っておいてくれているはずだが、この混みようだとかなり隅の方に追いやられていそうだ。
「デュース何にした? オレはパスタ」
「僕はオムライスだ」
「またそれなんだゾ? たまには違うものも食えばいいのに」
グリムの呆れたような声音に思わず眉を寄せる。
「別にいいだろ、好きなんだから。大体、グリムだって先週もそのメンチカツサンド食べてただろ」
「言われてやんの。ねえ、監督生はサーモンのサンドイッチでよかったと思う?」
「さぁ……特別好き嫌いは無いみたいだからいいんじゃないか」
「アイツ、昨日寝言で『ラーメン食いたい』って言ってたんだゾ」
「早く言えよ。どーすんだこれ」
「食い意地張ってるし、大丈夫なんだゾ」
「お前が言うか」
テンポよく二人と一匹で言い合いながら、ぐるりと大食堂を見渡す。しばらくふらふらと歩きながら監督生を探していると、予想と違わず遠くの窓際、入口から一番遠いところにいる彼を見つけた。「こっちこっち」と手を振っている。
「ご飯取ってきてくれてありがとう」
「いや、席を取っていてもらったしな。礼を言われるようなことじゃない」
「そーそー。それより、グリムが早く言わなかったせいで昼飯サンドイッチなんだけど」
「え、なんで? めっちゃ美味しそうだよ。早く言わなかった、って何を?」
「オマエのデカい寝言の話だゾ」
「へ?」
ぽかんと首をかしげる監督生をなだめ、ひとまず木製の硬い椅子へ腰を落ち着ける。デュースの正面に監督生、右隣にエースという位置取りだ。ちなみにグリムは監督生の左隣である。エースと高確率で向かい合うせいで、よく昼飯の奪い合いが発生している。仲が良いんだか悪いんだか、とこぼせば監督生に「デュースとエースもね」と言われてしまい苦い思いをしたのは記憶に新しい。
「──ところで、朝から思ってたんだけど」
「ん?」
ライ麦を使われている薄茶色のサンドイッチにかぶりついていた監督生が、ごくりと咀嚼していたものを飲み込んで顔を上げる。視線を感じたデュースも、オムライスを口に運ぶ手を止めた。
「デュース、今日メイクしてる?」
「え、いや、まぁ、そうだな」
今朝監督生と顔を合わせたときには何も言われなかったから、てっきり気がついていないものだと思っていた。ぎこちなく首肯を返す。なんだか気恥ずかしくて目を逸らす先、エースがくるくるとパスタをフォークに巻きつけているのが見える。
「可愛いと思うよ」
「そうか……? 僕にはやっぱり、似合わない気がしていたんだが」
せっかくデュースに付き合って早起きしてくれたルームメイトが手伝ってくれた手前言わないでおいたが、デュースは学校へメイクをして行く自分に違和感が拭えなかった。今も皮膚の上に更に一枚皮を張りつけているようで、落ち着かない。じろじろと無遠慮に注がれる監督生からの視線が気まずくて椅子の上で身じろぎする。
「エースも可愛いと思うよね?」
「なんでそこでエースに振るんだ……」
「んー?」
急に話を振られたエースは、口元についたパスタのクリームソースを舐めとりながら、デュースの方を向いた。
「ん、かわいい」
またそれか。背筋に言いようもないむずがゆさのようなものが走り、ぐ、と奥歯を噛みしめる。
「そ、そんなことない……」
「えー? 朝から頑張ってメイクしたんでしょ。かわいいじゃん」
「お前、よくそんなことを素面で言えるな……。恥ずかしいからやめてくれ」
議題は常と少々異なるが、いつも通りやいのやいのと言い合いはじめたデュースとエースを監督生はにこにこと見ているだけだ。たまにソースだらけになっているグリムの口を拭ってやっていたりする。
「だって、お前、普段はしょっちゅう『かわいくねー』って言うだろ」
「そりゃホントにかわいくねーもん。かわいいもんには『かわいい』ってちゃんと言うよオレ」
「うぐ……やめてくれ……」
「逆になんでお前がそんなに『かわいい』って言われんのを嫌がるのかわかんねー」
「そ、それは」
本当に可愛くないからだ。そう思うが、エースのダルそうな態度に隠れた真剣な眼差しに、口をつぐむ。
デュースは普通の女の子のように『かわいくなろう』と思ってメイクを始めたわけではない。"優等生らしく"身嗜みを整えるべく、し始めたのだ。動機からまず可愛くない。エースや同級生が褒めてくれるグロスも、ナチュラルメイクも、元ワルでガサツなところがあると自負しているデュースに似合っているとは到底思えなかった。
「あのさ、デュースが何をゴチャゴチャ考えてんのかわかんないけど、『かわいい』って言われたら『そんなのトーゼンだろ』って胸張ってればいいの。いつもの謎の自信はどこ行ったんだよ」
「で、でも……似合わな、」
「お前の意見は聞いてねーよ。オレがかわいいって言ってんだからかわいいの。な、監督生」
「うん? ……うん。今日のデュースはとっても可愛いと思うよ」
いつも可愛いけどね、と笑いながら監督生はまだ「腹減ったんだゾ」とごねるグリムにサンドイッチを分け与える。
「そんなこと、」
「ほら、『かわいい』って言われたら?」
否定しようとしたデュースに、行儀悪くテーブルに片肘をついたエースがニヤニヤと言った。言葉に詰まり、少し迷う。よく考えてみると、監督生が褒めてくれるのは監督生の自由意思なのだ。それを納得いかないとはいえ、他人のデュースが外からとやかく言えることではないと思ったので。渋々と、口を開く。
「……ありがとう」
「はい、よくできました」
すかさず茶化してくるエースをひと睨みし、デュースは大口で冷めかけのオムライスを頬張った。監督生が微笑ましげな目で見てきているのはわかっていたが、顔を上げられない。口の中のものを飲み込みきらないうちに次いで皿を持ってガツガツとかき込む。
……ああどうしよう、ほっぺたがあつい。
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エスデュ♀
初公開日: 2020年08月05日
最終更新日: 2020年08月06日
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コメント
シリーズものの続きですが、ここからでも多分読めます。デュくん♀がお化粧をはじめたよ、という話です。
監督生♂あり。テストなので突然やめるかもです。