ほたりと頬に落ちた水滴で、一気に意識が浮上した。
直ぐ様身体を持ち上げるような愚は冒さない。横たわったまま慎重に気配を探る。しかし見聞色を使うまでもなく、背中に温かな感触がずっと触れていることに気づいた。
身動ぎひとつしていないはずなのだが、その感触――体温の主は、サンジが起きたことに気づいたようだった。
「辺りに人はいねえぞ」
「……おお」
ぶっきらぼうに返事をして今度こそ上半身を起こす。傍らには予想通り、ゾロがいた。
周囲は暗い。
それでも二人がいる場所が牢の中であることはわかった。視界を縦に区切る何本もの鉄格子は、しかし海賊二人を閉じ込めるには少々錆びすぎている。しかも相手の怠慢か、二人は一緒くたの牢に押し込められた上に手足も自由だ。唯一、ゾロの三刀だけ取り上げられているようだが、それだって格子のすぐ外、壁に立てかけられたままである。
「二人で六億閉じ込めたにしては手ェ抜きすぎじゃねえか……?」
「まあな」
ゾロは言いながら牢の扉を軽く揺すった。さすがにそれだけで壊れる程ではないようだが、錆がパラパラ落ちてきているあたり相当古い。サンジの蹴りは勿論、ウソップやブルックなんかの体当たり数回でも簡単に壊れそうだ。
段々と意識がはっきりしてきたので、サンジは盛大に舌を打った。
麦わらのルフィの両翼が雁首揃えて捕まったのは、単純に言えば何らかの罠に嵌ったからだ。
無人島だと思っていた島に炭鉱の跡があった。
既に閉山されて久しいらしく、周りには村も町もなければそもそも港がなかった。すっかり廃墟になってしまって島人もいないので、食料も日用品も補給ができない。普通の航海ならばそのまま次の島に行くべきところだったが、ここは偉大なる航路、そうもいかない理由があった。
記録指針だ。
廃村の建物に記録取得期間の手がかりはなく、残ったのは炭鉱の遺構だけ。となれば冒険好きの船長が騒がないわけがなく、一味は炭鉱探検と相成ったわけだが。
炭鉱に入ってすぐ、天井が崩れた。
その瞬間、仲間達の悲鳴や怒声だけでなく聞き覚えのないがなり声が複数聞こえたから、同業者か賞金稼ぎが島にいたということだろう。
サンジはその時、そばにいたロビンの身体を――レディ相手に大変失礼とは思いながら――思い切り突き飛ばした。おそらくゾロも同じような状況だったはずだ。降ってきた坑木やら土砂やらで圧死しなかったのは幸いだが、それで死んでいないということは、あの崩落はそもそも罠だったのだと想像がつく。
二人揃って牢屋に放り込まれていることからして、その予想は当たっているのだろう。
「みんなの気配はねえが……閉じ込めやがった不届き者の気配もねえな」
「どうせルフィあたりが暴れ回ってんだろ。寝坊コックが起きたんならおれ達もとっととずらかるぞ」
「万年爆睡マリモに言われたくねえし永年迷子マリモにも言われたくねえっつの」
軽口を叩き合いつつ、鉄格子に近かったゾロが扉を蹴りつける。あっさりと折れた鉄棒がゴロゴロと転がった。穴をひょいと潜ったゾロが早速三刀を帯に挿している間に、無論サンジも牢から出る。
ゆっくりと、気取られぬように。
無理があった。
「おまえ――」
ゾロと目を合わせないようにしていたのも露骨だったらしい。小さく囁いたゾロが次いで肩を竦め、壁板を引っ剥がして持ってきた。
「足出せ」
「うるせえ、歩ける」
「わかってて手当てしなかったって、チョッパーに怒られるのはおれなんだよ」
小さな船医はこと負傷に対して敏感だ。怪我をしたのをわかっていて放置すれば、怒られるのは当人だけでなく手当てしなかった周りも同罪らしい。
サンジはしばらく黙ったまま、今度は目を合わせてゾロを睨みつけた。しかし眼前の筋肉ダルマに効いた様子はなく、それどころか仕方なさげな顔で待っているだけ。睨み合いを継続したところでサンジに軍配が上がるとはどうにも思えなかった。
「自分で――」
「見せろ」
観念してその場に座り、左足を引き摺ってゾロの前に出した。
崩落の時何かに潰されたのだろう。