件の子供がオーナーの部屋に消えていた時間は、大体一時間だった。
 その間にサンジ含め他のクソコック共は賄い飯を終え、食器を片付け、キッチンを清掃し、ホールを掃除し、ディナーの予約客を出迎える準備を徐々に開始していた。商船の密航者をオーナーが引き受けた、という話は当然瞬く間に広がっていて、そして同時に彼がオーナーの部屋に入っていったことも――サンジは一言も喋っていないのに――周知されていた。噂好きの男達である。
 気になりはするのだが、この海上レストランにおいてオーナーに逆らおうと考えている人間は存在しない。窓の外から覗こうとした馬鹿はいたが、料理人コック達の住処はオーナー含めて船の最上階だ。窓はあるがバルコニーはなく、わざわざ屋上の煙突に縄を結んでクライミングするまでの馬鹿ではなかった。
 兎角、一時間後だ。
 従業員用の食堂で噂話に興じていた料理人達は、キィと開いた扉に自然と視線を向け、そして噂の主がやってきたことに驚いて各々居住まいを正した。
 そこにはオーナーがいて、件の子供がいた。
「全員……は、いねえか流石に」
 食堂を見渡したオーナーはそう呟き、偶然扉の一番近くに座っていたサンジをじろりと見た。
「二人はいつも通り見張りで……あーっと、それも合わせて四人足りねえ」
「……まあいいか」
 バラティエは海上レストランであり、船だ。見張りは必ず立てねばならないし、今はディナーに向けた準備も然程急ぐ必要のない実質休憩時間である。むしろ四人を除いて皆が集まっていたことが珍しかった。
 それだけ皆、オーナーと子供の動向が気になっていたというだけの話なのだが。
 オーナーは咳払いしてから子供の肩に手をやった。子供の方は相変わらずフードで顔のほとんどを隠しているが、触られた瞬間ぴしりと背を伸ばす。
「新入りだ。今日から雑用をやる」
 サンジはそれを半ば予想していたし、クソコック共の半分もそうだったらしい。どよめきは存外少なかった。
「……こいつは火が見れねえ」
 だが続いたオーナーの言葉は流石に予想外だったようで、皆が驚く気配が存分に伝わってきた。
「明かりくれえの小さな火なら大丈夫だそうだが、厨房は無理だ。だから厨房作業以外――掃除と洗濯、それに見張りあたりの担当になる。期限付きでとりあえず三ヶ月だ。その後どうするかは追々決める」
 言ってオーナーは子供の背中を軽く押す。促されるまま半歩踏み出した子供は勢いよく頭を下げた。
「よ、よろしくおねがいします!」
 真っ先に拍手をしたのはカルネで、笑いながらパティもそれに続き、サンジも加わる。「おう」「新入りは二ヶ月振りか?」「よろしくなちっこいの」何せクソコック共なので料理以外はからっきしの人間も多い。厨房立入禁止、ただの雑用係でも人手が増えるのは大歓迎だった。
「そんでオーナー、そいつの名前は?」
 そして、新しい同僚となるからには当然の疑問がカルネから上がった。
 オーナーははたと目を瞬かせてから子供を見、子供はぽかんと口を開けた後困ったようにオーナーを振り仰いだ。
 サンジは、彼らが一時間部屋に引き篭もったのは――バラティエの従業員として働かせる旨の契約云々の話もあろうが、そもそもオーナーが密航や火傷の理由を聴取するためだと思っていて、当たっているはずだ。子供の纏う雰囲気が、ピラフを食べていた時よりも格段に上向いている。人間抱えているものを信頼ある人間に打ち明ければ肩の荷が下りるものだ。そしてオーナーは子供を商船の船長から庇っている時点で良い人認定されているだろうし、飯をご馳走してくれたのだからとても良い人認定に改められたのは想像に難くない。
 だがその話し合いの中で、名乗りたくない様子の子供を差し当たりどう呼ぶのか、についてはまるで決めていなかったらしい。
「なまえ……」
 拠って、彼はサンジが名前を尋ねた時と同じように、困った様子で俯いてしまった。
「……まあ、呼び名なんてそのうち何か見つかるだろ」
 少々気まずい沈黙を破ったのはパティで、のしのし歩いてきて子供の頭をフードの上からぐりぐり撫でた。
「ちっこいの、おれァパティだ。さっき甲板で会ったな」
「は、はい」
「あァあァ敬語なんて気ィ使う必要ねえぞ。とりあえずだな……うん、まず店の案内からだな。そうそうオーナー、こいつは大部屋のどれを使わせるんで?」
 バラティエの料理人達の多くは大部屋暮らしだ。オーナー、最古参のサンジ、パティとカルネは個室を貰っているが、他は幾つかある大部屋の中に並んだ|二段ベッド《ボンク》やハンモックで寝起きしている。サンジの記憶では二段ベッドは満杯のはずだ。
 オーナーは子供を見下ろした。「ぼく、どこでも眠れます。その、毛布、は、ほしいです」細かく頷きながらの言にある毛布とは、恐らく寝ている間も火傷痕を見られたくないからだろう。
 だが子供の進言に対し、オーナーは何故か口を引き結んで考え込んでしまった。
「……夜までには考える。とにかく船の設備を案内しとけ」
「お、おう。わかった」
 鼻白んだ様子のパティだが、まあ寝室なんてそれこそ寝る時に決まっていれば問題ない話だ。「よぉしついてこい、ちっこいの!」「はい!」「いやいやパティおまえスープ当番だろ仕事しろや」「あっ」途端楽しげにザワザワし始める食堂である。パティに代わってカルネが店の案内を引き受け、子供だけでなく他にも何人かが面白そうについていく。食堂の一角では、厨房仕事以外の何から教えるのかの議論が早速始まり出した。
 そんな中、サンジはずっとオーナーを見ていた。
 何故寝室の割当なんて簡単なことで悩んでいるのか。少し引っかかったのだが、オーナーはどうやらそれ以外にも何やら悩んでいるようで先程より難しい顔である。
 だがサンジの視線に気づいた彼は、はぁ、と息を一つ零していつも程度の険しい顔に戻った。
「てめえ、他にああいう服あるか」
「フード付きのパーカーはあともう一着。新しい下着はあと三着、丈の長いズボンはいっぱい、靴はサイズが合うかわからねえけど一足予備がある」
 しっかり用意していた答えを淀みなく告げると、オーナーは一瞬面食らいつつ指示を出す。
「パーカーと合わせてもう一セット作っておけ。次の買い出しであいつの服を調達するが、まあ……今着てるのと合わせて二セットありゃあまずは良いだろう」
「あいよ」
 軽く返事をしてサンジは椅子から飛び降り、早速着替えセットを作りに自分の部屋を目指す。
「チビナス」
 扉を開けたところで呼び止められ、サンジは振り返った。あと必要なものがあっただろうか。しかしオーナーの追加注文は、
「よく見てやれ」
 なんだか、今までの新入りクソコックに対するものとは少々違っているようだ。
「? ……おう、後輩だし」
 鼻を鳴らして笑ったオーナーを背にサンジは廊下に出る。早速子供にホールを案内しているらしく階下から騒がしい声が聞こえた。
* * *
 子供の呼び名は、その日のうちにすぐ決まった。
 最初は各々好き勝手呼んでいたのだ。ちっこいの、チビ、新入り――他にも様々あったのだが、彼がフードを頑なに外そうとしないことから、夕方には自然と皆からの呼び名が統一されてしまった。
 |パーカー野郎Hoodie、である。
 半々日過ごせば彼が火傷痕を隠そうとしていることは嫌でも悟れる。皆クソコックだからこそ悲喜こもごも経験した大人だ、それを指摘することはなかったが、その様子からして彼が今後着るものはパーカーしかないだろうということから、新入りの子供はフーディーと呼ばれるようになった。
 サンジにとっての問題はその後である。
 否、フーディー本人は別に何の問題も無かった。彼はその日のうちに店の構造を覚え、まず最初に教えられた床掃除を新入りなりに懸命にこなした。仕事振りは熱心で、覚束ない手付きではあるが丁寧だった。最初から喧嘩腰でやってくることが多いクソコック共に比べれば満点この上ない。
 だがそれなりに久し振りの新人、それも飛び抜けて最年少のサンジより更に年下だろう新入りを加えてテンションがおかしくなったクソコック共が、彼の名付けがてら互いに渾名を付け始めたのである。
 オーナーにまで渾名を付ける恐れ知らずはいなかったが、パティはイカ野郎、カルネはゴマヒゲ、といった具合で不名誉この上ない命名ばかりだった。無論それはただの悪ふざけで、数日の後に皆が飽きて元通りになったのだが。
「サンジはどうすっかね」「チビナスでいいじゃねえか」「それ元々だろ?」「そのままじゃ面白くねえな」サンジ自身の「馬鹿やってねえで仕事しろよ」という至極真当な忠告は完全に無視され、会議の結果大変不名誉な渾名を賜ることになった。
 |アヒルちゃん《Ducky》、である。
 そもそもアヒルを指す幼児語が採用されてしまったことからして腹立たしいが、その単語には所謂「可愛子ちゃん」という俗な意味が含まれるのだった。これで怒らない馬鹿がどこにいるだろう。加えて、サンジより年下のフーディーより響きが幼稚なことも気に入らない。
 渾名会議は全員が騒いでいたので勿論オーナーの耳にも入り、「……似合ってるじゃねえか」とのお褒めの言葉と共にニタァと腹の立つ笑い方をされ、言外と言うよりもあからさまに馬鹿にされたサンジとしては暴れ回って然るべき事態だった。
 だが問題は拗れた。
「かわいいね」
 フーディーが、ダッキーというサンジの渾名を気に入ってしまったのだ。
「ねえ、そっちの名前で呼んでいいかな」
 慣れない仕事に懸命に励みながらも、初日とは打って変わって明るい雰囲気が増えた新入りに、毒気ない声でそう言われてしまってサンジはたじろいだ。
 サンジは、フーディーが商船の船長にメタメタに蹴られていたことも、火を見ただけで叫び出して震えが止まらなくなる程怖くて怯えてしまうことも知っていた。恐らく全身火傷の痕まみれだということも、父親が火事か何かで亡くなってしまったことも悟っていた。
 サンジは、フーディーが初日、泣いて泣いて、震えていたことを知っていた。
 その彼が、フードを被っていてもわかる程、明るい笑顔で尋ねてきたのだ。
「別に、いいけど」
 断ろうと思っても何故だかそれができず渋々許可を出したら、フーディーはますます嬉しそうに口元を綻ばせていた。
* * *
 特に何事もなく数日が過ぎた。
 フーディーの寝室は何故か倉庫の一角に決まった。クソコック共の寝室に空きが無いわけではなかったが、それは火傷痕を見られまいとしている彼へのオーナーからの気遣いだろう。
 明かりの小さな火は平気だという自己申告はどうやら虚勢ではなかったようで、フーディーは毎夜小さなランプで足元を照らしながら倉庫に消える。ハンモックの設置はサンジも手伝ったが、最初物珍しそうに座ったりひっくり返って落ちたりしていたフーディーは、その後すぐ新しい寝床に慣れたようだった。
 店内各所の掃除、ホールのセッティング、クソコック共の着替えや寝具の洗濯から、見張りに食材運搬まで。キッチンに入れない彼が行う仕事は多種多様だった。無論、それら全てを一日で覚えたわけではないが、覚束ない手つきながら懸命に励むフーディーはすぐにバラティエに馴染んだ。
* * *
 次の大きな買い出しの日、オーナーは当然のようにサンジを呼び、当然のようにフーディーを読んだ。
 買い出しのタイミングでフーディーの着替えを用意すると宣言されていたのでそれ自体に不思議はない。だが買い出し船に現れた彼の姿はサンジの予想と少々違っていた。あの銃を持っていたのだ。
 そういえば店内で仕事をしていた時は持っていなかった。そりゃあ、長銃だから持ったまま掃除なり何なりをするのは邪魔だ。しかしサンジが何度か覗いたフーディーの寝床に、そういえば銃はなかったはずだ。
「オーナーが預かってくれてたんだ」
 訝しげなサンジの視線に気づいたフーディーが銃を大事そうに抱き締めながら教えてくれた。ふうん、と相槌を打つに留め、サンジは出港――バラティエは船なので、出|と表現するべきかもしれないが――までの手順をフーディーに教えた。
 さて島に到着した後、食材の仕入れを同乗したパティ達に任せたオーナーは、フーディーとサンジを伴って歩き出した。
 傍目から見りゃ爺さんと孫二人なんだろうなあ、とサンジはちらりとフーディーを見やる。彼は人通りの多い町並みに萎縮していて、右手で長銃を抱え、左手でフードを限界まで下に引っ張る姿勢のまま歩いている。足元しか見えてないだろう彼は人にぶつかり、看板に引っかかり、何だかいろいろと散々だ。
「まったく」
 オーナーはその度ちらりとフーディーを振り返るだけだったので、渋々サンジが彼の左腕を掴んで先導してやる羽目なった。
 服屋に向かっているのだと思ったが、オーナーはその前を素通りした。「おいクソジジイ」「わかってる」まさか老眼が服屋の看板すら見えぬ程進行してしまったのかと真剣に案じたサンジだったが、オーナーは勿論そんなことはなかったようだ。ぞんざいにサンジに返事をし、半分義足の足をずんずん進めていく。サンジは首を傾げ、フーディーもフードの下から服屋のショーウィンドウを不思議そうに振り返りながら、兎にも角にも先行するオーナーに続いた。
 理由は、広い背中が止まった場所ですぐにわかった。
銃鍛冶屋ガンスミス……」
 町外れの建物の玄関上、そこにある看板を読んだフーディーは、数秒後我に返って慌てて俯き直した。
 裏はすぐ森になっているらしいその建物は、フーディーが言った通り銃鍛冶の看板を掲げている。サンジも合点した。店には銃が得意なコックがいるし、彼らの銃の為に何度か訪れたことがあるのだ。
 フーディーの長銃は明らかに古くて素人目にも整備の必要があるのが明らかだった。その上そもそも弾もないのだから、使えるようにするには銃鍛冶に預けるのが一番手っ取り早い。修理のために何が必要なのか調べる間でも、服の調達や仕入れた食材のチェックは可能だろう。
 遠慮なく入っていくオーナーに続きサンジもフーディーも玄関ドアを潜った。
「いらっしゃい」
 カウンターの向こう、椅子に座って新聞を読んでいた黒い髭面の店主――銃鍛冶が顔を上げた。
 店内は狭く、室内を半分に仕切るカウンターの向こうには、修理待ちか修理済みの銃がずらずらと棚に並んだり壁に掛けられたりしている。
「おっとバラティエのオーナーか。そういや最近食いに行ってねえな」
「景気悪そうだな」
「なんの。世間は変わらず物騒だからな」
 軽口を言い合う間にも、銃鍛冶の目はフーディーが持つ長銃をきっちり見つけて睨んでいた。フードに遮られた視界でも視線の圧力を悟ったフーディーがびくりと肩を震わせる。サンジはその背中をぽんぽんと叩いた。
「クマみてえなおっさんだけど腕は確からしいぜ」
「言うねえクソガキ。クマの捌き方は習ったのか?」
「おれァ海のコックだ!」
「は、オサカナしか捌けねえんじゃやっていけねえぞ」
 魚以外の調理方法もサンジは勿論知っているが、そもそもコックとは――海のコックだろうがおかのコックだろうが――狩猟肉ジビエ料理を作る職業であって、仕留めた獲物を捌いて狩猟肉という食材にする職業ではないはずである。
 だが傍らのオーナーは言い返そうとするサンジを見下ろして鼻で笑い、
「おれはクマもシカも捌けるがな」
 なんて言うものだから、サンジはこの後本屋に寄って狩猟関連の書籍を購入することを心に決めた。
 閑話休題。
「その長銃だな」
 言われておっかなびっくりカウンターに近寄ったフーディーが素直に形見の銃をその上に乗せた。ふむ、と頷いた銃鍛冶がそれを見下ろし「坊主」と声をかける。
「触ってもいいな?」
「は、はい」
 子供相手に律儀に許可を得てから、彼は気軽な手つきで長銃を手に取る。
「撃てるように直してほしいんだが――何ベリーでも構わん。必要な作業と部品の見積もりにどれくれえかかる?」
「いやこりゃあ、うん。見積もりの前によ」
 銃鍛冶は銃からオーナーを見、しばらく考えてその視線をフーディーへと落とした。
「坊主」
「はい」
 先程よりは幾分か背を伸ばし、どもらず答えたフード姿の少年に向ける銃鍛冶の目は、サンジをからかった人間とは見えぬ程真剣で、気遣いに満ちていた。
「これァおまえの銃じゃねえな」
「……はい。父さんの、です」
「成程な……何があったか詳しくは聞かねえが……」
 少しの間を置いて、彼は長銃をゆっくりと撫でた。
「これはな、確かに直すこともできるが、正直新品を買った方が手っ取り早く済む」
 サンジは少々息を呑んだが、もしかしたらフーディーは最初からそれがわかっていたのかもしれない。動揺した様子は見られなかった。
「世の中まだまだフリントロック式が主流なんだが、こいつは火薬の弾丸を使うボルトアクション式の長銃だ。まあこの銃に合う弾丸はな、うちでも取り扱ってはいるが――
 問題は銃本体のほうだ。ここでちらっと見ただけでも、銃身バレルは歪んじまってるし、照屋フロントサイトも欠けてやがる。……ああやっぱりな、遊底ボルトレバーも歪んでんなこりゃ。そもそもこりゃオトナ様のサイズの銃で、ちっこいてめえじゃサイズが違う。
 世の中少年兵だって巨万ごまんといる。子供用の銃は、そうだな、一月もありゃ入荷できる。それを買っちまった方がいい。安く済むし、実用的だしな」
 ごくりとサンジの喉が鳴ったが、フーディーはサンジより――当事者のくせに――余程冷静だった。
「知ってます」
 そう、オトナ様の銃鍛冶に向かってはっきりと言い切ったのだ。
「知ってるけど、ぼくは、これと同じサイズの銃でずっと狩りをしてきました。父さんに習って、故郷の島で、ずっと。だから大きさは問題ありません。それと――」
 そこで言葉を切って、フーディーはオーナーを振り返り、彼と目を合わせた。
 目を、合わせた。
 わざとフードを少しだけ指で上げて。その表情はサンジから伺うことができなかった。サンジがわかったのは、あれほど顔を見られるのを忌避していたフーディーが、オーナーにはそうでないらしいということだけだった。
 ズキリ、と胸が痛んだ。
 だがその痛みをサンジが自覚すると同時に、オーナーは無言のままフーディーに向けて力強く頷き、フーディーもまた小さく首肯して銃鍛冶に向き直る。
 それは、何だか、サンジの知らない、サンジには見えない、ある種の絆が二人の間にしっかりと存在していることがありありと悟れて。
 ――なんだよ。
 サンジの胸の中、今度はよくわからないモヤモヤとした何かが芽生えてうねって渦を巻いていく。
「その銃は――」
 だがそんなサンジの胸中を知らないフーディーは、
「父さんの形見です」
 しっかりとした声音で続けた。
「ぼくは買い替えたくありません。……どれだけ部品を替えてもいい。元々の部品が銃床ストックだけとか、引金トリガーだけになってもいい。どうかお願いします。その銃を直してください」
 サンジにはフーディーの背中しか見えなかった。
 サンジより小柄で、炎に怯えて泣き出す子供の背中は、そこにはなかった。
 あの銃はフーディーの父親の形見で、ということは彼の父親はもう死んでいて。フーディーは恐らく全身に酷い火傷の痕があって、ということは彼はその傷の激痛を乗り越えた過去があって。
 そういうものを差し引いても、眼前に在るその背中は、サンジの同年代の子供とは思えう程、しっかりとした意志と決意に満ち満ちていた。
 それは、サンジにとっては、認めたくはないが大人の背中であり。
 先程サンジが抱えた胸の中のモヤモヤが、何故だか急に気恥ずかしくなった。
「……わかった。それでいいかい、オーナー」
「ああ」
 金を払うのはオーナーだと最初から見当をつけていたのだろう。銃鍛冶は会計についてフーディーではなくオーナーに許可を取り、返事を聞いてから何度か頷いた。
「まだ店に帰るな。二時間くれ。うちの部品の在庫と照らし合わせて――足りねえのはもう一軒の銃鍛冶に問い合わせる。諸々の見積もりはそれからだ」
「わかった」
 頷いたオーナーが踵を返す。サンジはその後を追うため一歩踏み出し、そしてフーディーを思い出して半歩後退り振り返った。
「よろしくお願いします」
 フーディーは銃鍛冶に向けて深々と頭を下げていて、
「ああ、引き受けた」
 何を感じ取ったのだろう。銃鍛冶はサンジに対するより余程誠実に、フーディーへと返していた。
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テキストライブで地の文がここまで続くのほんと尊敬します……!すごい……!
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Saya
うおおコメント気づきませんでした。ありがとうございます。
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初公開日: 2020年04月12日
最終更新日: 2020年04月26日
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サ夢になりきれなかったもの。ゾサではありません。
一万字を越したのでなんとなくファイルを分けました。
前:https://txtlive.net/lr/1585918889401
【ゾサ】願いごと
https://twitter.com/1132dw/status/1278291305857085…
Saya
剣戟アクション(打ち合い無し縛り)
これをゾサでhttps://twitter.com/morgensOP/status/1286422…
Saya
ゆにば行く宿伏になるはず
企画の遅刻参加したいと思っているけど間に合わなかったら普通に投稿予定。ゆにばに行ってひたすら食べまく…
あぼだ