ぼちぼち書いていきます
やっぱこの配信画面なんかしっくりこないな
結果的にワンドロになったわね
「せ、せんぱい、せんぱい」
夏服の薄い袖を引っ張られると同時に、焦りの滲んだ声が右から聞こえてきた。目を向けてみると、隣席の後輩が愕然とした表情でノートパソコンのディスプレイを凝視している。
「た、大変です先輩。矢印が分身してます。しかも多重影分身ですっ!」
「んん? どれ、ちょっと見せてみ」
震える手でマウスを動かしている後輩が、目に涙を滲ませながらそう言った。しかし横から覗き込んでいる俺の目には、見慣れた表計算ソフトがごく普通に稼働しているようにしか見えない。マウスカーソルも一つだけで、どこにも異常は見受けられなかった。
「ん~……?」
「ど、どれを信じたらいいんでしょうか……!」
どう見ても正常だ。しかし後輩は今にも泣きだしそうな様子で、声も震えてしまっている。はてどういうことだろうか、と首を傾げたとき、ぴんと来るものがあった。
「なあ、もしかして矢印以外も分身してないか」
「……はっ! ほ、本当です! 全部ぐちゃぐちゃです! 画面がすーぱーバグってます!」
「うんうん。バグってるのはお前の方だな」
「へ?」
「疲れすぎだ。目が、というか頭も体も限界に来てんだろ。……課長!」
振り返って、課長席に向かって声をかけた。が、デスクの上には丸々と太った三毛猫が香箱座りしているだけである。我が親愛なる課長、最近ついに自前の毛髪が全滅した五十代のおっさんの姿はどこにもなかった。
「ボスなら今日は星の並びが悪いと言って日没前に帰ったぞ」
ひげをもひもひと揺らしながら、三毛猫が低く渋みのある声で喋った。我が営業一課の名物、猫の課長代理だ。ちなみに喋れることは部外秘になっている。もしも世間に知られたら大変なことになるらしい。
「いつの間に……あ、じゃあ課長代理、ちょっと休憩逝ってきます」
「え、休憩? 休憩するくらいなら帰ろうぜ。もう夜だよ夜」
もう仕事したくないんだけどオーラを全身から立ち上らせる課長代理だった。俺としてもその意見には全面的に同意するところしかない。素直に頷いて、後輩の肩を叩いた。
「じゃあ帰ります。よし、業務終了! オラさっさと電源を切れ!」
「ええっ!? で、でもまだ終わってな――」
「焦点合わないくらい疲れてるのに仕事続けたってロクに進まねーよ。さっさと帰るぞ」
「……はっ! 本当です! 先輩も分身してます!」
「こりゃ重症だな」
呆れた様子の課長代理と、眠そうに目をこする後輩を連れて事務所を出る。オフィスビルを脱出したら、向かう先は繁華街だ。
「俺は酔っ払いに絡まれる前に帰るぞ」
「おつかれっしたー」
「おつかれさまでしたっ!」
ぼてぼてと短い足で夜の闇に消えていく課長代理の背を見送ってから、後輩と並んで歩きだした。
「……やー、びっくりしました。ほんとに全部分身してたんですもん」
「脳味噌を動かしすぎたな。ちゃんと糖分補給してたか?」
「す、水分とカフェインなら」
「ダメだな。甘いものを食え甘いものを。脳は糖分が無いと動かないんだ」
「甘いもの、ですか」
そう言った直後、ぎゅごるるる、と後輩の腹から盛大な音が鳴った。
「……」
「……パフェなら居酒屋でデザートに出してるところもあったよな?」
「うう。こんな時間に食べたら太っちゃいますよぅ」
「お前はちょっと太った方がいいだろ」
「へっ? ……え、えーと、それってどういう」
「ん? ああ、デスクワークったって体が資本だからな。健康的に太ってる方が良いんだよ」
「あ、そーゆーことですか。……私はてっきり先輩がミケポ好きの変態だったのかと」
「お前なんでミケポなんて単語知ってんの?」
その後、俺達はふたりでパフェを食べた。酒の入っていない状態で食べる居酒屋のパフェは、些か以上に甘すぎた、とだけ書いておく。
「この時間に毎日こんなの食べてたらミケポ間違いなしですね」
「大丈夫だ。仕事でちゃんとカロリー消費できるから」
「うう。ブラック企業です……」
その後、俺の教育的指導によって後輩は毎日おやつを持ち込んで仕事中に貪るようになったものの、激務によって摂取量以上のカロリーを消費し続けた結果理想的なダイエットに成功したのは、また別の話である。
「ぜったい理想的じゃないです……」
「ブラック企業は嫌だ……」
結果的にワンドロになりました。
後で手直しした後ちゃんと投稿用に編集します。