ながめさんは吹雪の夜に、賭場で錆びたロケットを拾った話をしてください。
煙草と、酒と、男女の体臭、それを覆い隠そうとするかのような強い香水の匂いが混ざり合って、息も詰まるような空気が此処には充満している。
ピークの時間を過ぎて悪臭も治まれば良いのに、どうもこの空気は賭場にはじめから備わっていたかのように、ずっと停滞したまま変わらない。
あと1時間程度の辛抱。背中に張り付いたシャツの不快さから気を逸らそうとして、機嫌の良さそうと言われる顔を振り上げた。
テーブルを片付けていてふと下を見ると、ロケットペンダントが落ちている。客の忘れ物か、と思ったが、男も女も見栄を張る連中が、ここまで錆びたみすぼらしいアクセサリーを身につけてくるとはあまり思えなかった。他の従業員には何も言わず、さりげなく、ポケットにペンダントを滑り込ませた。もちろん、監視カメラの死角になるところで。
星のない夜更け、いつも通り帰路につく。コートのポケットをまさぐると、先ほど拾ったロケットペンダントが指先にふれる。どう見ても汚らしいし、貴金属的な価値はありそうにない。だけど、なぜだか心惹かれてしまった。爪で押すと、緩慢にロケットの蓋が開いたが、中には何も入っていなかった。とくにがっかりはしなかった。
子どもの頃少しのあいだ住んでいた町と、そこで大昔にあったという生贄の祭りのことを思い出す。今は本物の生贄ではないが……それを模したぬいぐるみを使って、祭りは開かれていたらしかった。
あの時、その生贄用の、みすぼらしいぬいぐるみを、こっそり盗んで持って帰ったのだった。叱られると思っていたが、翌日になっても、翌々日になっても、祭りの日当日になっても犯人探しも、お咎めもなく、ただ代わりの新しいぬいぐるみが用意されただけだった。
あの盗んだぬいぐるみは、どうしたのだったか。
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