あらすじ
サーヴァントを応援したらみんなやる気アップするんじゃないかということで、応援するためにうちわを作るぐだ子ちゃん。
恋の好きと推しの好きはまたちょっと違うよね的な話です。
特にいちゃらぶなことは無いです。アーサーはちょっとかわいそうかも。
書いてる人はアーサーと山の翁がすきです
(支部投稿済み)
「応援うちわ?」
「そうだとも。人間、誰しも応援されて嫌な気はしないだろう?」
「まぁ、確かに」
そうだろう、そうだろうと頷く様子のダ・ヴィンチちゃんを尻目に、持っていた紅茶を一口煽る。
ここはダ・ヴィンチちゃんの魔術工房。呼び出されたから何か重要なことでも、と思ったのだがどうやらそうでもなさそうだ。
「でもなんでうちわ?」
応援されて嫌な気がしないというのは分かる。でもなんでそれでうちわなんだろう。
「いやね、君の国にはアイドルという分野が確立しているだろう?」
「? うん、あるね」
一応私も年頃の女子なので、有名なアイドルの曲を聴いたり音楽番組で彼らがステージで輝く姿は見たことある。そういえば友だちが好きなアイドルのコンサートグッズに、アイドルの顔写真がでかでかと貼られたうちわがあるとか言ってたような言ってなかったような。推しの顔が大きく印刷されたうちわをライブ中に胸の前で掲げ応援するのだとか。あ、そういうことでうちわ?
「応援用グッズみたいな……ってこと?」
「そういうこと。さすが話が早いね。まぁつまり、だ。サーヴァントたちの真価を発揮するのに、応援が有効ではないかという話さ」
「ええ~? みんな今でも十分強いのに、私なんかの応援でそんなに変わるかな?」
「それを調べたいからこそ、君に打診しているんじゃないか」
「でも、それでうちわ?」
「そ、うちわ」
「……声援とかでなく?」
「まぁそこは単純に絵面が面白そうだなという私の個人的判断さ」
「な、なるほど」
「あ、ご希望だったらチアリーダーの服装で応援してもいいんだぜ? マスターの応援が戦力増強に繋がるかが調べたいだけだからさ」
「うちわで! 作ります!」
ダ・ヴィンチちゃんからの代替案を即座に却下し、椅子から立ち上がる。このままではなんだか恥ずかしい目にあってしまいそうだ。
「そうかい? チアリーダーでも楽しそうだけど」
「……うちわで」
「分かったよ、そんな眉をひそめないでくれたまえ」
はいどうぞ、と部屋の奥からいろいろうちわやら蛍光色の眩しい何か、キラッキラのモール飾りを取り出して、机の上に広げた。
「材料はもう揃っているから。自由に使ってくれたまえ」
「私、こういうの作ったことないよ……」
応援うちわといえば「〇〇して♡」とかボード?で作ったりしてうちわに張り付ける……ことは知っているんだけど、さすがに作ったことはない。せっかく作るなら、ちゃんと作ってあげたいとは思うけど果たしてそれほどのクオリティのものができるかどうか。
「ああ、ボードを文字の形にカッティングしたかったらこっちで出来るから遠慮せず言ってくれ。それくらいのサポートはするとも」
「あ、本当? それは助かる」
「まぁ私も立香ちゃんに頼む手前、それなりの準備はしているからね」
「それなら私でもなんとか出来るかな」
「うんうん。まずはデザインを作るところからかな? 君の好きなサーヴァント一騎への応援をこの一枚のうちわに存分に込めたまえ!」
「好きなサーヴァント……」
「デザインが出来たらまた戻ってくるといい。私は今日一日この工房にいる予定だからさ」
「うん、わかった」
楽しみにしているよ、とダ・ヴィンチちゃんに念を押されて工房を出る。手には大きな黒地のうちわ。
「まさかここに来てこんなものを作ることになるとは……」
さすがにこんな大真面目な施設でこんなふざけ……好きなアイドルに向ける応援グッズ紛いのものを作ることになるなんて。
ひとまず部屋でデザインしよう。そう思って真っすぐ自室へ歩を進める。
「好きなサーヴァント、好きなサーヴァント……誰にしようかな」
好きなサーヴァント、と言われればみんな好きだしなぁと楽観的な考えが浮かぶ。
「うーーーーーん……」
一歩一歩マイルームに近づくほど、誰がいいか迷って迷って収集がつかなくなっていく。あのクラスのあのサーヴァント? こっちのクラスのサーヴァント? 最近よく頑張ってくれてるサーヴァント? あ、最近来てくれて戦闘もよく頑張ってくれてるサーヴァントとか……
「……誰に、しよっかぁ」
迷いはどんどんどんどん深くなる。蟻地獄がごとく、考えれば考えるほど誰にすればいいのか分からなくなる。
なんとなく、なんとなーくあたりはついてきたけど。やっぱり誰か一人となると難しい。
「おや、マスター。こんにちは」
「あ、アーサー。こんにちは」
「どこか行くところかい?」
「ううん、用事が終わって部屋に戻るところ」
「そうだったのか。お疲れ様、立香。……ところで、その手にあるのは?」
「あ、これ?」
アーサーが指さした先には、私がさっきダ・ヴィンチちゃんからもらった黒いうちわ。
「ダ・ヴィンチちゃんにもらったんだ。応援用のうちわを作ろうと思ってて」
「応援用? それはうちわ……だったか。それにはそんな用途もあるのかい?」
「ううん、本来は暑い時に扇いだりするのに使ったりするけど……今回の使い方はちょっと特殊かな」
「へえ」
感心したように顎に指を添えている。まぁ、馴染みがあるわけないもんね。
「ちなみにどう使うんだい?」
「え? えっと……何というか、これに飾りをつけて応援するのに使う感じかな?」
「あおがないのかい?」
「あおぐというか……胸の前で掲げるのかな?」
言いつつ、両手で持っているうちわを自分の胸の前で掲げる。
「こんな感じ」
「……なるほど?」
やっぱりというか、アーサーは想像がつかない様子。
「あ、えっとね。このうちわに応援したい人の名前とかを書いて飾り付けて、相手に見えるように掲げるの。うーん、士気を高めてもらうって言った方が分かりやすいかな?」
「あ、戦旗のような感じかな? フランスの聖女ジャンヌ・ダルクが掲げているような」
「そうそう、そんな感じかも」
ようやくイメージがついたらしい。まぁアーサーの時代にこういう文化そもそも無いだろうし、本当は実物を見てもらった方が早いんだろうけど。
「そんなわけで、現代風戦旗を私が作ることになったわけです」
「なるほど」
「いきなりダ・ヴィンチちゃんに言われたから最初は戸惑ったけど……いざ作ろうってなったらちょっと楽しくなってきちゃったんだ」
「もうイメージは出来ているのかい?」
「うーん、まぁまだなんとなくだけど……でも大体のあたりはついたかな」
くるくると持っていたうちわを回す。アーサーもつられるように視線がうちわへ。
「ダ・ヴィンチちゃんには最初だし、私が好きなサーヴァントを選ぶといいって」
「君が好きなサーヴァント……」
「みんな好きだから、迷っちゃうけどね」
「そう言われると僕らも嬉しい限りだよ」
「そうかな?」
「そうだとも」
アーサーが目を細めてゆっくり笑う。うーん、今日も眩しい。
「そうだ、まだ作業が残る君をあまり長く引きとめてはいけないね。歩こうか。部屋まで送るよ」
「いいの? ありがとう!」
そうして私たちは自室までの数分間の道のりを進み始める。途中今日あったことや他のサーヴァントの様子とか、今日のご飯のこととか。
数分間なんてあっという間の時間なのに、それが更に短く感じられて気づけばもう部屋の前だった。
ありがとう、と改めてアーサーにお礼を言う。
「これくらいどうということもない。君もマスターとしての業務で疲れもあるだろう。どうか、ほどほどにね」
「はーい」
「では僕はこれで失礼するよ、立香」
最後に流れるような所作で私の右手をとり口づけを残される。
「…………」
「じゃあね」
とっさのことで声も何も出せなかった私を置いて彼がさっそうと去って行く。残された私はただ無言で自分の右手を見つめるだけ。
「…………そういうとこだよ、本当」
誰に言うでもないことが自然と口から出て、後から追うように顔が熱くなっていく。それを誤魔化すように慌てて部屋へ駆け込むのであった。
部屋に入ったら一目散に机の上に紙とペンを叩きつける。椅子を引いて、ドカッと音が出そうな勢いで座り込む。
「と、とにかくやるぞ! やる気が上がるようなうちわ……頑張ってつくるんだから」
今私の頭の中に浮かぶのは一騎のサーヴァント。うん、この人にしよう。
早速サーヴァントの名前と「がんばれ」とか「大好き」とかそういう言葉を散りばめていく。
たった一騎のことを思い浮かべながら。きっと喜んでくれると信じて。
ただひたすら紙の上にペンを走らせる。
「なぁ、マスター」
「燕青、どうかした?」
今日はライダークラスのエネミーが出現する日。そういうわけでアサシンクラスの俺たちは朝からシミュレーションルームに集まり、ひたすら周回に周回を重ねる。と言っても、前衛に出てない俺や千代女、小太郎はマスターの横であぐらをかいているだけだが。
前衛では俺らアサシンクラスのリーダー格である山の翁と水着姿の牛若丸が武器をふるっている。それを俺たちは悠々と眺めているというわけだ。
「それ、いつまで使う気なの?」
「それ?」
それだよ、それ。そう言いながら俺はマスターが胸元で掲げているものを指さす。どうやら先週あのダ・ヴィンチに作るよう指示されたらしく、数日前からクエストに行くごとにそれを持参している。クエストに行くごと、というのはちっと違うか。一人のサーヴァントを連れていく時、と言った方が正しい。
「うーん。せっかく作ったうちわだし、もうしばらくは使おうかなって思ってる」
「あ、そう……」
「あ、燕青も作ってほしいとか?」
「いやぁ、俺は……そりゃ嬉しいけどさ? 作るなら先に別のやつに作ってやってほしいというか」
「? 別のやつ?」
ああ、うん。やっぱピンときてねぇよな。だよな。分かってたら最初からこういう感じにうちわ作ってねぇよな。
我が主は決して悪い奴じゃねぇ。善寄りも善寄りのお人だ。それは別にいいんだが、こうな、たま~に重要なことに気付かないというか。
難しいねぇ。そう思って頭をガシガシかく。
「燕青殿。もっとこう……直接。直接言わないと親方様には伝わらないのではないかと」
「そんなこと言ってもよお」
俺の脇で体育座りをしている千代女が苦言を呈しているが、俺だって直接言ってやりたい気持ちがあるのは同じだ。
同じだがよ……
「……なぁ、今日もいるよな、やっぱ」
「いるでござるな」
「さっき僕もお見かけしました」
千代女の向こうでこれまた体育座りをしていた小太郎も口をはさむ。
「俺から言うの、やっぱやめた方がいいんじゃねーの?」
「いえ、我ら三人の中でいえば燕青殿が一番の適役です」
「でもよぉ」
「僕らから言うのは気が引けるというか……燕青殿がそういったことを上手く、さりげなく伝えるのが一番適していると思うでござる」
「拙者たちでは表現が直接的と言いますか……おぶらあと、に包めないと言いますか」
「そこはもっと頑張れよなぁ」
当のマスターは前衛に指示を出すべく立ち上がってうちわを掲げながら声を張っている。
「がんばれー! そこだ! バスター、クイック、バスターで!」
天高く、空高く、高々と掲げられたうちわには端的に一言。
おじいちゃん、頑張って!
その裏には「晩鐘の鐘 鳴らして!」の文字。なんかすげぇきらきらした飾りや星やハートをかたどった飾りがついていて、文字さえ見なきゃかわいいもんだなと思うだけで済んだ。文字さえなければ。
「……いつ見ても物騒だよな、あの文字」
「物騒でござるな……」
「あんなキラキラした文字体なのに、なんでこんな悪寒感じちまうんだろうな」
「ライダークラスの方からは、あのうちわを見ただけでHPが減る気がする、という声が出ているようですよ」
「だろうなぁ……」
「でも正直僕らはそこまで被害を被っているわけではないですし……」
「いや被ってんだろ。明らかに被ってるだろ」
「まだあの方はいるでござるか?」
千代女は身体を捻って後方を確認する。一瞬視線を後ろにやると、すぐに態勢を戻す。
「いた?」
「いたでござる……」
「あいつも毎回飽きないねぇ。マスターが作ったうちわはあの一枚だけだってのに」
「まぁそれは……ショックが大きかったのでしょうね。主殿に想いを寄せているとなれば、尚のこと」
「アーサー殿……お気持ちお察しします……」
ちら、と後ろへ目をやる。あたりを木々が覆う中、シミュレーションルームの機関室へ続く扉と窓ガラスが異様な存在を放ちながらそこにある。
そしてその窓ガラスの向こうに、いる。
異世界から到来したというもう一人の騎士王、その姿が。立ち尽くしている。
生気のない目だ。目の前の現実を認めたくはないが、かといって今日は昨日までとは何か変わっているんじゃないかという淡い希望。それが今日もことごとく打ち砕かれた目。言うなればそう。
「……目が死んでんな」
「好きなサーヴァント一騎に作れ、という指示でしたからね。あの方とマスターとの関係を思えばそこに自分がこないというのは、なかなかこう、ショックじゃないかと……」
「親方様は、その……『推し』という概念においては一番にくるのが、翁殿だったそうで……」
「恋人の好きよりも、その『推し』ってやつの好きを優先したってことかぁ」
はぁー、と出たため息は一体だれのものか。
「そいやこの前刑部姫が言ってたな。好きなタイプと推し? は違うって」
「そうなのですか?」
「そーらしい。俺もよく知らないけど」
まぁなんでもいいけどよ。
「僕たちがどうこう考えるよりも、あの方が直接主殿に聞いてくれれば解決するのですが……」
「そうでござるな。正直なところ、我々には直接関係のない話」
「あんなうじうじやってんなら、さっさとマスターに聞いちまえばいいのによぉ。ずっとこのまんまじゃ、俺らの方がまいっちまう」
はぁ~あ、と今度は三人揃ってでかいため息がこぼれる。
「誰かどうにかしてくんねぇかな」
今も懸命に山の翁に向けてうちわを振る己の主を見て、ぽつりと漏らす。それに答えられる者はここにはいない。
「何だい、アンタ。またシミュレーションルームに行ってたのかい? 飽きないねぇ」
「ドレイク」
食堂に向かう道すがら、見慣れた蒼と銀色の騎士とすれ違った。
そりゃもう、騎士王なんて冗談かと思うくらいのひっでぇ面構えで、普段のヤツに比べちゃあ弱っちいたりゃあらしない。
「そんな毎日あの子のケツ追っかけたって、何も変わりゃしないだろうに」
「……分かっているよ。分かっているけれど」
「諦めがつかないって?」
「…………」
「ハーッ。アンタ、そういうとこしょうもないねぇ」
事情は把握している。この異世界の騎士王サマとマスターは恋人同士。んで、ダ・ヴィンチがマスターに戦力アップに繋がるとか何とかでうちわを用意させた。それを聞いたこの騎士王はもちろん、自分がそのうちわの対象として選ばれるだろうと思い込んでいた。まぁ、結果はこいつの思い込みで、あの子が応援したのは山の翁だった。笑いの種としては上々。アタシはそれを聞いてコイツの隣で大爆笑しながらジョッキを二杯飲みほしたのだから。
「で? 今日は何か変わってたかい?」
「……いや」
「いっそ聞いちまえばいいのにねぇ」
「……そういうものでもないだろう」
「そうかねぇ」
そんな情けない姿の騎士王サマにまた笑いが起きそうになるのを堪えつつ、アタシらは共に食堂へ足を向ける。
本来アタシは正義を振りかざすヤツなんて大っ嫌い。コイツのことも最初は気に入らなくて仕方なかったが、なかなかどうして顔を合わせる時間が長くなると見方も変わるというもの。特にあの子とコイツが恋人同士になってからは変わった。アタシは「正義を振りかざす生理的にムカつく男」から「マスターとの関係に悩むしょうもないバカ野郎」に考え方を変えた。何でかって、そりゃアンタ。こんな面白い姿の騎士王サマほど、酒のつまみにぴったりなものはないからさ。
という訳で「まぁ話を聞いてやるよ」という体で食堂へ誘ったが、実際はコイツの情けない姿を笑って酒を飲もうという狙いに他ならない。
本当にしょうもないねぇ。
この騎士王サマもそうだけどさ。コイツより何より、マスターに対して。
「マスター、ちょっといいかい?」
「あ、ドレイクさん。どうしたの、何かあった?」
ここはマスターのマイルーム。今日の部屋当番はこのアタシ、フランシス・ドレイク。マスターとベッドの端に腰かけて二人してタブレットでいろいろ見ていたが、ふと思い出して声をかけた。
「アンタ、いい加減例の『アレ』……出してやったらどうだい?」
「例の『アレ』って?」
「とぼけたって無駄さ。アンタが大事にだぁ~いじに締まってるやつ。あの引き出しの三段目に」
そう言ってベッドから少し離れたところにある、棚を撫でるように指さす。
最初こそ何が何だか分からないような顔をしていたマスターだったが、指をさした瞬間に弾かれたように両肩を跳ね上げ目を泳がせる。
「あ、えっと…………な、なんの、こと? よく、分からない、カナ」
「またまたぁ~。アンタが隠したってアタシには分かるってもんさ」
そう言ってベッドから立ち上がり、棚に近づいていく。「あっ! 待った! ドレイクさん待った‼」と叫ぶあの子の声は完全に無視して。
棚の前に立ち、上から三段目の引き出しに指を引っかける。手前に引けば難なく滑り出し、中に入っているのは一つだけ。
「ほらほらあった。これで、言い逃れはできないだろう?」
「…………う」
中身を取り出してあの子に見せつければ、それを避けるように視線と身体を明後日の方向へ向けてしまう。気まずさ半分、気恥ずかしさ半分ってとこかねぇ。
「……アンタもさぁ、そろそろ翁にだけうちわ振り続けんのも飽きてきてんじゃない?」
「そ、そんなこと……」
「あそこに入ってたこれ、完成まであと一歩ってとこじゃないか。気分転換にこっちを完成させてみたら?」
「で、でもそれは」
ちらりとこちらに視線を向けるが、アタシの手の中にある『それ』を見るとすぐ向こうへ帰っていく。
改めて今自分の手の中にある『それ』を見る。
人の顔ほどのサイズはあろうかという面を持つ、大きな大きなうちわ。黒い面に目立つようピンクや黄色などの派手な蛍光色の文字が並べられてる。その文字を順に読んでいくと「アーサー頑張って!」。裏を返すと「だいすき」の文字。
「だいすき」の文字。
「…………」
「…………」
「アイツも大概だけどさ、アンタも負けず劣らずだよねぇマスター」
「な、何の、こと、デショウ、カ」
「片言になってるよ」
「…………だ、だって無理だよ⁉ 私に、それをみんなの前で振れなんて…………やっぱ無理‼」
「はぁ、アンタさぁいい加減腹括んなよ。じゃなきゃずっとここに放置されてるこれがかわいそうってもんさ」
「で、でも……」
「最初に作ってたの、こっちだったんだろ?」
こくん、と頷く。恥ずかしくて仕方ないのか、枕を抱きかかえ半分顔を埋めている。
「あの騎士王サマの情けないとこ見てるのも面白いけど……さすがにそろそろ見てるこっちが哀れになってくるからねぇ」
「……アーサーの?」
「ああ。今のアイツの姿ったらそりゃもう、笑い飛ばすしかないくらいに沈んでるよ。酒のつまみには持ってこいだけどさ」
「……お酒の、つまみ」
「アンタとの関係に悩む騎士王サマの姿はねぇ、そりゃ普段から比べたら情けないもんさ。見てるこっちは飽きないけど」
「……そんなに、悩んでるの? 私といる時はそんな素振り見せないのに」
「アッハッハ! そんなねぇ、好きな女の前でウジウジ悩んでたらアタシが後ろからドタマぶち抜いてるよ。アンタがアイツの、アーサーのそんな姿を知っているほうが問題さ」
「じゃ、じゃあどんな風に悩んでるの? アーサーは」
「そうだねぇ」
うちわを片手で軽く振り回しながら、ベッドの端に腰かける。うちわが近づくと、マスターは「うっ……!」と声をあげたが何とか逃げたい衝動は抑えたらしい。先ほどと同じように隣り合って座る。
「まー、アイツもおおざっぱに見えて細かいとこは細かいしうるさいからねぇ」
「あ、分かる。アーサーって私のことには細かく突っ込んでくるのに、自分のことになると急に面倒くさがったりする」
「アッハッハ、そうそうそんな感じだねぇ。まぁ話しだしたらキリがないけど、アンタに自分は重荷になってないかとかそんな感じ」
「えっそんなことないのに」
「だろ? なんてったって、アンタはもうデレデレしっぱなしだもんね?」
「う……そ、そうです、ね」
あの子の柔らかい頬に人差し指を押し付けると、照れながらもそんな答えが返ってくる。
「全くさぁ、お互いちゃんと想い合ってるっていうのに……なかなか上手く噛み合わないもんだねぇ」
「だ、だってアーサーのことは確かに好きだけど、その。目の前にしたらそれどころじゃなくなっちゃうから……」
「ま、そこがアンタの可愛いところなんだけどね。でもたまには、アイツにもちゃんと言ってやらなきゃって話さ」
「うぅ……」
マスターは完全に枕に顔を鎮める。オレンジ色の髪を左右に振り乱しながら、さながら枕に頭を突進させているよう。
「そんなアンタに一番いい方法がこのうちわだとアタシは思うけどねぇ」
くるくると手の中で回す。文字はもう貼ってあるのだから、あとは他の飾りつけだけだ。デザインとか配置とかでもう少し考えなければいけないのだろうが、さしたる問題ではないだろう。
「じゃなけりゃ、アイツに直接言ってやんなよ。どうして翁へのうちわを自分が掲げたのかって」
「…………どっちも恥ずかしすぎるよぉ……」
「そんなこと言ってても仕方ないだろう? アーサーはうちわ気にしてウッジウジ悩んでんだからさ。そろそろ鬱陶しくて酒が不味くなりそうなんだよ」
「さ、さっきはお酒のつまみって言ってたのに……!」
「どんなに美味いもんでも、ずっとそればかりだと他のもんが食べたくなるもんさ。アイツ、最近このうちわのことばっかりだからアタシも飽きてきてるんだよ。察しておくれ」
「そんなぁ」
「ま、頑張んなよ。アイツもなかなか拗らせかけるから……アイツが何か動く前にやっちまった方がいいよ」
「…………うぅ、が、頑張っては、みる」
「ああ、頑張れ」
それから数日後、あの子がうちわを完成させたのか、アイツに直接何かを言ったのかはわからない。けれど、ひどく機嫌の良い騎士王サマが歩いているのを見て、やれやれとアタシはため息をついたのだった。
【届けたくて届けたくない】
終わり。
視聴してくれたり❤️飛ばしてくれたり、ありがとうございました!
('ω')('ω')(/・ω・)/(∩´∀`)∩🍓🍓🍌🥦🥒🍎🍟🍰🍜Hamburg steak