30分タイムアタック始めます!!
「あなたがこのメッセージを聞いている頃には僕は死んでいると思います……」
 ううん、何かが違う。首をひねって今のデータを削除した。コンピューターの前で独り言をつぶやくというのはなかなか恥ずかしい。どうしてこんなことになってしまったのだろう。原因は何だったんだろう。考えれば考えるほど頭にもやが掛かってわからなくなってしまう。
「僕はもう死んでいると思います。君に最後の望みを託そうと思います」
 なんだか、芝居がかっているな。これも消す。
「君が世界で最後の人になると思います」
 違う。最後の人なんて事はあり得ないんだ。
「僕は死にます。君がこの声を聞いてくれると信じています」
 違うなぁ! 満足にいくものができない。これも違う、これも違うと音を吹き込んでは消して吹き込んでは消した。ボイスレコーダーとかの機材だったらもう面倒くさくなって最初の言葉で終わっていたかもしれない。けれど僕が扱っているのはコンピューター。最新の薄いパネルではなくて、もっと何百年も前のものだ。正四面体のボディに黄ばんだ白いプラスチックのキーボード。コードでつながれたマウスはクリックするたびに軋んだバネみたいな音がする。そんな古くさいものを使いながら僕は、次の人に向けてメッセージを残しているのだ。
 この役目が終われば僕のすべてが終わる。そう信じていた。だから、何回も吹き込んでは消して、吹き込んでは消してを繰り返しているのかもしれない。少しでも自分の寿命を引き延ばそうとしているのかもしれない。無意識に。どれだけ時間を稼いだところで終わりの瞬間はやってくるというのに。人間というのは本当に浅ましい生き物だ。
 なんだかんだ言って僕も生きたいっていう願望があったのかなぁ。しみじみ思うとどうしてだか涙がこぼれそうになる。勝手に回想を始めて感傷に浸りかける。いけない。僕には時間が無いのに。これが、最後の仕事。
「新人類の皆さん、こんにちは。僕は最後の人類です」
 これだ! そう思って言葉を続けた。
「僕は、今までの人生の中で後悔したことはありませんでした。愛したい人を愛し、やりたい仕事をやり、好きなことに金を使い、増やしたいだけ家族を増やしました」
 今までの人生の振り返りなんて必要なんだろうか。いや、必要だ。それは僕自身が決めたことだけど。
「僕は、最後の最後まで生きようとしました。けれど、それは過ぎた願いでした」
 これはさっき思ったことだ。
「みんなが死んでいく中で、僕は逃げて逃げて逃げました。生きたいから、死にたくないから」
 これは。ずっと思っていたことだ。ずっとというのは語弊がある。数日前から、のほうが正しいかな。
「逃げた先に、この場所にたどり着きました。そう、人類研究所です」
 人類研究所。実に奇妙で気味の悪い施設。ここはずいぶんと昔に閉鎖されたようだったけれど、人間は住んでいた。博士だ。引きこもり故にウイルス感染はしていなかったようだ。この研究所は時間を置き去りにしていたみたいだ。何もかも設備が時代遅れで、食料は自給自足。完全に属せと隔離された場所だった。かつては人間の遺伝の研究をしていたみたいだったようだが、とっくの昔に廃業したみたいだった。
「僕は博士と出会い、生きながらえました。しかしそれはすぐに終わったのです」
 博士を殺してしまったから。いい人だった。彼は僕に料理を振る舞い、寝床を与え、友達のように接してくれた。だからこそ良心の呵責に耐えきれなかったのだ。僕はウイルス感染者だ。ゆくゆくはこの人も発症してしまうのだろ。せめて人の形をとどめているうちにと殺したのだった。
「僕は、最後の人類です。だから、この声が届く頃には人類は新しいものへと生まれ変わっているのでしょう」
 僕が。最後の人類という確証はない。確証を得る前に記録媒体、ニュース記事の概念が消し飛んでしまったから。僕は無我夢中で逃げ続けていた。周りのことは顧みず、走って、走って、時に奪い合い、殴り合い、殺し合い、それで、生き延びた。
 もしかしたらウイルスの抗体を持つ人間がいるかもしれない。だから、最後の願いをその人に託したかった。ここまで誰もたどり着かないかもしれない。それでも、何か、僕の生きた証を刻みたかった。肉声なら壊れない。そう思ってコンピューターを弄ったのだった。
「僕からの願いは。たった一つです。どうか、争いのない世界へ」
 タイムリミット。
 足先に違和感を感じた。どろどろとプールに浸っているかの感覚だ。最後は自ら命を絶とうと思っていたのに、残念だ。
 音声ファイルを保存してコンピューターの電源を落とした。なるべく配線を踏まないように足を上げる。ここからなるべく遠いところへ。溶けた体が機械を故障させてしまったら元も子もない。
 思考が緩んできた。
 ドアを開けて、飛び出して、ドアを閉めようとしたらバランスを崩す。
 ここで終わりか。
 冷たい床の感覚を感じながら一体化するような気分になる。最後は安らかに眠れるがせめてもの神からの褒美なのだろうか。
 ゆっくりと体がほぐれて。
 僕自身も。
 消
  え
   る
     。
 
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「褒美」「音」「コンピューター」
初公開日: 2020年06月04日
最終更新日: 2020年06月04日
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