※長義さに。審神者名(八雲)出ます。
※イケメン女審神者と片想い長義のお話。
映画を観るちょぎさにのお話の予定。
他の本丸及び審神者のことを詳しくは知らないが、どちらかといえば八雲はあまり、刀剣男士たちとプライベートの時間を共にすることは多い方ではないと思う。それでも時折、余暇の時間を楽しむということもなくはない。ちなみに本丸総出での宴会などの時間は除く。同じ本丸内とはいえ、任務(しごと)の延長線上にある飲み会はほとんど強制(しごと)であるからだ。
しかし八雲とプライベートを過ごしたいという刀は少なくはなく、少なくないというかほとんどの刀がそう思っているに違いない。少なくとも長義はそう認識している。
長義が八雲の近侍となれる立場――いわゆる近侍組への参入を許されたのは彼が本丸に来てからしばらく経った後だが、それでも出世のスピードは本丸内でも随一だと言われている。本丸へやってきた直後に八雲へ恋をした長義は、とりあえずは仕事上でも信頼されるようになろうと決意した。だから最初は下心等もなく、彼女に最も信頼される刀は近侍だと思って近侍組を目指していたのだが――今になって、恋を叶える為にもこの選択は間違っていなかったなと思う。
積極的には刀剣男士たちと時間を共にしない八雲にとって、気安い関係になるのは仕事での関わりが多い近侍であり、そしてちょっとした時間に一緒に過ごそうと誘われるのは、少しでも気安い関係にある刀剣男士だからである。つまり、長義は近侍になってから、八雲と過ごす時間が増えたのだ。彼女のちょっとした時間を独占できる権利は、長義の一番欲しかったものである。
そしてこの日も、そういった流れで彼女の隣に座る権利を得たのだ。
「あれ、長義も今日は完全に非番なんだね。実は私も、今日は時間があるんだ。良かったら私に付き合ってくれない?」
昼食後にばったり廊下で会った八雲に誘われ、彼女と小部屋にやってきたのが三時間前。彼女が友人から薦められていたんだという映画を一緒に観始め、終わったのが二時間半後、それから、予想外にも感動しきってしまった長義がクライマックス周辺から涙が止まらなくなってしまい、ようやくなんとか落ち着くまで三十分かかった。
「長義、こういうのに弱かったんだね」
箱のティッシュを差し出しながら笑う八雲に、受け取りながらも長義は恥ずかしすぎて穴があったら入りたい心持である。ちなみに彼女の方は一滴も涙は流していない。
「すまない……取り乱してしまって」
「いやいや、良いことだと思うよ。感動するっていうのは人間らしい心の動きだし。でも意外だな、長義はもっとクールに物事を見ているのかと思ってた」
「……予想以上に、信頼していた女上司を失ってなお、彼女の意思を継ごうと奮闘している部下であり彼女のパートナーだった主人公への感情移入をしてしまって……あんなに頑張って世界を救っても
、もう彼女は戻ってこないと思うとやりきれなくなってしまった。俺だったら世界なんてどうでも良くなってしまって、そのまま滅ぼしてしまいそうだ」
「そ、そう……長義のパートナーになる人は大変だね……」
なんとなく、八雲は微妙な顔をした。
しかし、こんなに感動してしまうのは長義にとっても予想外だった。これまでに映画を観た本数は多いとは言えないが、このように号泣することはほとんどなかったように思う。今回のストーリーが特に胸に刺さったからかもしれないが、自分の反応には自分一番驚いているのだ。
「君はあまり楽しめなかった?」
「ううん、楽しかったよ。長義ほど感動は覚えなかったけれど、アクションも演出も派手で見ごたえあったよね」
そもそも、あまり映画を観て泣くことはないのだと思う。感動はしているんだけど、表情には出辛いから、冷血な人間だと思われてしまうかな、なんて笑う。勿論実際の彼女は冷血なんてことはなく、時折繊細な感情に憂いていることは長義はよく分かっていた。
「八雲はどういった話を好むんだ?」
八雲は考えるように、宙を見上げて応える。
「そうだね……サスペンスとかかな。推理物の謎が解かれていくのが面白いって思うし……あ、アクション系も好きかも。見ていてスッキリする」
一度言葉を切った彼女は、でも、と付け足した。
「ベタな感動ものも嫌いじゃないよ。でも、いわゆる現代ものって感情移入しにくくて」
そういう話は、政府に居た頃も聞いたことがあった。本丸に所属している審神者には、よくある話だという。審神者は現代から離れ、生活のほとんどを本丸という隔離された場所で行っているのだ。しかも若い年頃で審神者になった者も多い。だから、現代的な恋愛ものやいわゆるオフィスものなどはピンとこない者が多いらしい。
「どちらかといえばホラーとかファンタジーとか、たまにそっちの方が『あー、あるある』なんて思ってしまうこともあるんだよね。こんなことを言うと、改めて異質な場所で働かせられてるなって思うんだけど」
確かに彼女の言う通りだ。審神者用に作られた、審神者や本丸を舞台にした映画もわずかにあると聞いたことがあるが、それは現代に住む者たちには、ホラーもしくはファンタジーものと捉えられることが多々あるという。そもそも、本丸にはたった一人の人間である審神者と、あとは神の末席に位置する刀剣男士しかいないのだから、現代の基準では普通とはいえないのだろう。
「長義は、映画はよく見る?どんなのが好きなの」
尋ねられて、長義は首を捻った。
「実は、どれが好きかと答えられるほどの知識はなくてね。大抵はなんでも面白く観てしまうのだけれど。ああでも、読んだことがある小説を原作とした映画とかもあるんだってね。そういうのは、少しきになってしまうかな」
八雲は長義の回答に、なるほどと頷いた。それから、じゃあ、と提案する。
「今度は二人で、観る映画を決めよう。長義が気になっている映画を私もみてみたいから」
「あっ……うん、ぜひ」
思わぬ次のお誘いに、にわかに心が浮足立つ。
彼女はそうは思ってはいないかもしれないが、長義にとっては二人っきりで過ごせる貴重な時間がまた得られるのだ。楽しみだね、と笑う八雲に頷きながら、どんな映画が良いか調べなくてはと心の中で決意した。
……という、素敵な時間の後で。
長義が部屋に戻るなり押しかけてきた山姥切国広は、少し得意げに長義に袋を差し出す。彼は今日、懇意にしている他本丸の審神者へ使いにいっていた筈である。どうやらその際の土産らしい。
「これ、小説か?」
「ああ。あちらの本丸の本科から、あんたが好きそうな小説があるから持っていくように言われてな。ちらりとあらすじを聞いたが、良さそうだったぞ。あんたみたいなちょっと気障で拗らせてる美青年が、年下の強気でクールな少女に惚れこんで心酔し、敵とドンパチした挙句になんやかんやある話らしい。あんたはわかりやすくヒロイン像に八雲に似たところを求めるから、好みの作品を薦められやすくていいな」
「おい、ちょっと黙ろうか!偽物くんは声が大きすぎるんだよ!」
思わず叫んで、慌てて国広に掴みかかった。
好みを把握してくれているのは結構であるが、言いふらされると支障がでる。映画の件を知られたら、喜々として長義の好みドンピシャの作品を提示しておきそうだし、なんなら先に八雲にプレゼンしにいきそうである。映画の選定については、まずこの写しの彼を黙らせるのが先決のようだった。
おわり。
今日もありがとうございました!