宣伝写真の撮影も終了した午後、仕事場からの帰り道でみかは宗と隣り合ってESからの帰路に着いた。夏の日差しが照り付けるアスファルトの街路は既に眩暈がしそうなほどの暑さであったものの、帰り道は車で送る、というプロデューサーからの申し出を、二人で歩きたいから、という理由で丁重に断り、久々に帰国してきた宗にみかはあれこれと近況の報告をしていた。
「ほんでなあ、この間プロデューサーが……」
雑誌に載せるための宣伝写真を撮るから、という理由で宗が帰って来たことに、みかが胸躍らせたのは言うまでもない。どんな理由であれ、宗に逢えるとあれば、現在、ほぼ一人活動している状況では嬉しいもので、一方的にあれこれと聞かれてもいないことを話し続けてしまう。ほぼ毎日のようにしていた国際電話でも似たような話をしていたはずだが、それでも宗はそう、と頷いてみかのはなしを聞いてばかりで、以前のように喧しい、と叱ることはない。心ここにあらずといったようで、その様子を察してみかは、んん? と唸った。
「お師さん、何か考えごとしてんの?」
瞳を覗き込むと、厳しかった眦が僅かに緩む。一方で、みかが真正面から注いだ視線に対しては、ふいと顔を背け、逃げられてしまった。ふうむ、と顎に手を当てた宗は、やはり何か、様子がおかしい。
「な、どないしたん。さっきの写真撮影、やっぱりアカンところがあったんやろうか」
「いや、それに関しては何の問題もないから安心したまえ。寧ろ、しばらく会わない間に君が思った以上にスタッフなどとのやり取りに慣れていたことに感心した部分もある。そうではなくて……」
「んあ、ホンマ!? ごっつ嬉しい~」
褒められたことで、首を左右に振りながら喜んだが、それにはすぐに隣から、おいこら調子に乗るんじゃない、と忠告が飛んでくる。
「でも、そうやないんやったら何でそんな悩んでるのか余計気になるわ。おれでよければ相談に乗るから、一人で思いつめんと何でも話してほしいねんけど……」
仮に病などに掛かってしまったらそれこそみかもどう動くべきか考える必要がある。以前も突然、宗の様子がおかしくなったときに死病を連想してしまったのだから、などと無意識に膨らんでしまう想像を宗に告げると、今度は盛大にため息を吐かれてしまった。どうやら君に隠し事は出来ないらしい、と続けた宗は、それでも少しばかりの躊躇いを含んだ様子で、苦々しく口を退き結び、何か言うのを躊躇っている。
数秒、二人の沈黙を蝉の鳴き声が埋めたと思った矢先に、今度は宗の方がみかの視線をまっすぐに捉えた。
「影片」
「ん、んあ?」
「一度しか言わないから、よく聞いておきたまえ」
「な、なんや改まって……」
いざ一拍置かれて変な緊張が走ってしまう。大体、宗がこういう時は何か大事な話がある時だ。ごくり、と無意識に鳴る喉を抑えながら、みかは宗の言葉を待つ。
「今回はね、写真撮影に加えて、君に逢いたかったのも事実なのだよ」
「――え?」
「確かに仕事には全力を尽くすべきだし、それは僕にとって写真一枚とて例外ではない。だがね、とある行動を起こすことに対して、何らかの期待や偶然の報酬を抱くことは、決して悪しきことではないとは思わないかね」
相変わらずもって回った言い方にみかは宗の言葉の意味を半分ほどしか理解できてないような気になってしまう。だが背けられた宗の顔がよりバツが悪そうに歪むのを見て、その意図を解し損ねるほど、みかも愚かではなかった。
「へへ……なんや、ただ照れとるだけやん」
「喧しいのだよ」
「ほんなら、これから、マド姉ェともどもお茶でもしにいこか」
ここらへんでいいお店を見つけてん、とみかが手を引くと、宗はまだ不服そうな表情のまま、その後に続く。素直になれないこの人の相手をするのも、もう大分慣れた。たまには、みかの方から案内するのも悪くはない。期待された分、彼を楽しませることができるか、今日は腕の見せ所といったところだろう。