「まったく、こんな量をどうしろというのかね」
机の上に置かれた大量のリボンと厚紙の土台、加えて部品ごとにバラバラになったブローチを見つめ、宗はその量に圧倒され、ため息を吐いた。どうしよう、お師さん、と何やら切羽詰まった様子でみかが電話してくるから何事かと駆けつけてみれば、この有様。事情を聞かずしてその場面に出くわせば、恐らくただのガラクタが並んでいるようにしか見えないが、よくよく見てみれば机の上の部品はいずれも色や形が整っているものばかりである。統一感のある青や白といった配色を前に、そのいずれも身に纏っていない目の前の男は、間抜けた声で、んあ、と鳴き、現れた宗をやっと助け船が来た、というように出迎えた。
「来てくれてありがとうなお師さん……おれ、こんな量一人でやるかと思ったら眩暈してもうて」
「それにしてももっとやり方というものがあるだろうに……全く、いくら舞台の為に小金を稼ごうとしてるとは言え、時間的余裕がない癖に無理な仕事を何でもかんでも引き受けようとするんじゃないよ」
僕らには他にもやることが沢山あるのだからね、と忠告をすると、ごもっとも…とみかは肩を竦める。
「せやけど、ちょっとは足しになるかと思ってん。おれ、大分忙しくなってきたから今までみたいに校内でまとまった時間を取ってアルバイトするわけにもいかんし、これだったら隙間時間にでもできるかなあ、思うて」
「それで最後の最後になって人手が足りないから手伝って、などと僕を呼び出しているようでは、まだまだ爪が甘いのだよ、全く」
「んあ~、本当それは申し訳ない……!」
みかが両手を合わせてペコペコと頭を下げると、宗はぷい、と顔を逸らす。今回、みかが引き受けたのは、ES内の主要アイドル達の誕生日を祝う際に使うバースデーコサージュの製作で、それこそ全部で四十人分以上の個数を作らねばならない。一応、作り方も材料も全て決まっているので、あとは手を動かすだけではあるのだが、あろうことかその作業をみかは〆切三日前まで放置していた、というのだ。そこから急ピッチで作業を進めて、何とか半分まで完成したところだったが、そこで残り時間があと半日となってしまい、急遽残りは宗と一緒に仕上げるという選択肢を取った。
デザインや衣装制作等、創作性のある作業であれば喜んで引き受けるが、ただの単純作業にこの世界の斎宮宗を駆り出すとは、一体彼は自分を何だと思っているのか。そんな風に思わざるを得ない状況に、また一つ宗はため息を吐いて、机の端に置かれていたいくつかの完成品のうちの一つを手に取った。みかが先に作業していたと思しきそれは、どれも少しずつ――1cm単位程度のずれが認めらて、以前よりは多少進歩したものの、やはり人に贈答するものにしてはやや焦って不器用さが見て取れる。こういう所は相変わらずだ、と思いつつも、宗は切り出されたリボンを黙って土台となるブローチの裏側に貼り付け、丁寧に一つ一つの形を作っていった。そうして手際よく二人で黙々と作業していると、みかがちらり、とこちらを見るなり、うわ、と声を上げる。
「お師さんの作ったの本当に寸分たがわず、全く同じなんやね、さすが~!」
次々に宗の手から離れていく完成品に、舌を巻いて喜ぶみか。何だかこういう光景を見るのも久々だ、などと思うが、今はそんな感慨に耽っている場合ではない。
「ノン! 君が喋ると気が散るのだよ! 口ではなく手を動かしたまえ」
「やった、お師さんから叱ってもらえた~。嬉しさのあまり指にリボンが絡まりそう」
「ええい、喜ぶな! しばらく見ないうちにまた歪に戻ってしまった、とでもいうつもりかね?」
「んふふ、でもホンマにこうやって一緒に作業するのが楽しくてなあ。昔はしょっちゅう一緒にやっとったのに」
そういいながらみかは引き続き、手元のブローチにリボンをするり、と巻いていく。言われてみれば、このような作業は学院にいた頃には毎日一緒にやっていた。主に作業は宗が担当して、みかはその補佐をする形ではあったが、今はこうして偶然にも二人で同じ作業をする、といったような流れになっているわけで、本当にたった一年程度で人の立場というのは随分とわかるものだ、などと思ってしまう自分がいた。だが少し顔を上げてみかの動きを見ているだけで、無意識にその動きだと完成品はあと2mmはズレる、今度は4mmズレる、などと思考を割いてしまう自分は、相変わらずのようで。無駄な考えを排除すべく、宗は自分の手先に集中した。
そしてどのくらい時間が経っただろうか。特に時間を気にせずに作業に没頭し、何とか土台部分のブローチにすべてのリボンを巻き終えた後、みかが最後の一つを完成させ、机の中央に置いた。
「ふ~、終わったあ!」
カン、と微かに金属質の音を立てて手から離し、みかはぐっと、背筋を伸ばして両手を大きく天井へ向ける。何とか完成したバースデーコサージュの、青と白の山の中で、向かい側から作業を手伝っていた宗も、ふう、と息をついた。完成品を袋の中に集めていると、んあ、とみかがまた妙な声を出して、切り出しを行っていたリボンの軸を見つめていた。
「ちょっと余っとる」
彼の言う通り、軸にはほんの50cmにも満たない長さの青いリボンが僅かに残されていた。あまりにも短すぎて、特に何かに使える、というわけでもない。
「お師さん、これ使う?」
「無理だね。この長さでは、人形たちの部品を作るのにも短すぎる」
「せやねえ。勿体ないけど捨てるしか……あ!」
みかがパチン、と手を打って、何やらその余ったリボンをくるり、と自分の小指の先に結び付けた。そして不意に宗の方の手も取ると、そこに同じようにするり、と一回、先ほどの作業で慣れたと思しき手つきで、リボン結びを施す。
そうして二人の小指にリボン結びが出来て、ぱっとみかは宗を見つめた。
「どう? 幸せの青いリボン!」
あまりにも自信に満ちた瞳でわくわくと見つめられて、宗は反応に戸惑う。それを言うなら、幸せの赤い糸だろう、とは思っていたものの、何だかここでそう言ってしまうと逆に負けたような気がしたので、(おそらくみかもそれは理解していて言っているのだと知れたため)、敢えて口にはせずに、僅かに口角をあげるに留めた。
「……悪くないのでは?」
「ホンマ!? やった!」
みかが盛大に喜んで両手を上げると、つられて宗の指先が結ばれた方の手も引き上げられる。
そんなことよりも早くリボンを届けたらどうかね、と笑うと、せやった、はよせんと、とみかはそのリボンを結んだまま、後片付けを始めた。
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ヴァ版ワンライ治療室
初公開日: 2020年05月30日
最終更新日: 2020年05月30日
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コメント
お題:リボン
ヴァ版ワンライ治療室
テーマ:宣伝写真とりあえず書いてみよう
岩尾葵
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