それに気づいたのは、きっと最近の事。
感じていた視線が無くなったりだとか、相手を見た時に目が合う回数が減っただとか。
気のせいだ。そう思っていた。
思っていたけれど、気が付いてしまったからいけない。
こういうのを放っておけない質だから、俺は確認することにした。
まずは、じっと見つめて観察してみる。
ふっと視線が合った時ににこりと微笑んで手を振るのはいつもの事。
でも、今までは目が合った瞬間ぱっと花が咲いたように嬉しそうな表情をしていた。……そう、思う。
「どうしたの、楽?」
なんて、こちらに駆け寄ってくるのはいつも通りで、まるで俺が見ていたのが幻想のように思えて来た。
龍は誰にでも優しい。そして、気遣いができる。だから、視線が合って手を振るのも俺だけじゃない。天にも、一緒になった他グループの相手にもする。駆け寄ってくるのは俺と天ぐらいだが、天にも同じ行動をするのだ。
そう、俺だけじゃない。
そのことを噛み締めて、俺はなんだかムッとした。
何だこれ。
自分の内から湧いてくる感情に、首を傾げる。
だって、龍が俺の事を好きだって気付いて嬉しかった。
初めて親友って言えるぐらい気が合って、心も許して笑い合える相手が俺の事を好きだって思ってくれてる。それはすごく幸せな事で嬉しいだろう?
龍が男を好きになれる人間だと知って驚きはしたが、嫌悪は無かった。むしろ、俺以外の誰かの物になって仲間として、親友としての時間が減ることが無くてほっとした部分があった。
そう、俺のそばにずっといてくれると思って、ほっとしたんだ。
……なんだそれ。俺、龍の事物凄く好きだったのか。
俺が男を好きになるなんて、思ってもみなかった。でも、この感情はきっと嫉妬と不安。
龍の一番が俺じゃなくなるのが嫌で、俺じゃない誰かが一番になることに対する怒り。
認めてしまえば、ぐるぐると回っていた思考がクリアになる。
そうして、俺は龍に向き合った。
「なあ、龍。おまえ、俺の事好きだろ。恋愛的な意味で」
「それは……楽の気のせいだと思うよ?」
困ったように眉を下げて微笑む龍に、俺はカッと血が上る。
「じゃぁ、今まで俺を見て何で嬉しそうに笑ってたんだよ!?何で、俺が近くにいると顔を赤らめて……なんであんな顔して俺を見てたんだよ!?」
胸倉をつかんで叫ぶ。龍は目を見開いて口を開いた。
その表情を、瞳孔の動きまで見逃さないよう見ていたけれど、龍の口からは俺が期待した言葉は出なかった。
その代わり、引き結んだ唇と一緒に眉を歪め、その黄金の瞳が陰る。それを隠すように俺から顔を反らした後、龍はいつもの表情に戻った。
「仲間を見つけたら嬉しくなるだろ?楽に見つめられたらドキドキするって、前にも言ったじゃないか。」
俺の反応、そんなに変だったかな……ちょっと恥ずかしいね。照れくさそうに頭をかく龍は、「TRIGGERの十龍之介」だった。
っだよ、それ……。
「俺の事、好きだって顔してただろ!?違うのかよ!?」
掴んだ胸倉を引き寄せて、逃げられないよう視線を合わせる。
龍の瞳の奥が揺れた気がした。
「や……だなぁ。好きだったよ。楽の事」
シャツを掴んだ手に、一回り大きな手を重ねられそっと咎めるようにゆっくりと手をひろげられた。
それは、龍に抱いた執着心を解かれるように。
俺の頭の中に、警鐘が鳴り響く。
ダメだ。嫌だ。これは……聞きたくない。
「今も、TRIGGERの八乙女楽として、仲間として、大好きだよ」
俺が龍から感じていた気持ちは、絶対にこれじゃない。
「大好きだったよ」なんて、過去形にはしてやらない。
お前がそう言うつもりなら、俺を好きだって言わせてやる。
【青天の霹靂を覆す】