──この服、柊羽に似合いそう。
デパートのメンズフロアに置かれた一体のマネキン、それを見た瞬間に思った。マネキンがまとう服は、俺の金銭感覚で、手が届くちょっといい服、の範疇だ。
タグを見て、これなら家で洗えるなとつい確認してしまってから、柔らかい生地を指先で撫でる。手触りの良さと、体に添う柔らかな初夏向けのサマーニットは、色も柔らかい水色で、きっと柊羽に似合う、とますます感じる。これ、絶対柊羽に似合う。確信に近いほどの気持ちは、俺の胸をひっそりと高鳴らせた。
「英知、待たせたな……熱心になにを見てたんだ?」
「あ、柊羽」
良く知った声に呼ばれて、見つめていた服のタグをちょっと慌てて離す。離しても、柊羽の視線は待ち合わせていた俺じゃなく、俺が熱心に見ていた……ように見えてしまっていた服へ向いている。
デパートの他のフロアで撮影があった柊羽を、次の仕事が一緒の俺が迎えに来たのだが、まだお茶をして行くくらいの時間はある。撮影も押していなかったので、ここで少し立ち話をしても大丈夫だろうと踏んで、正直に答えた。
「柊羽に似合いそうだなあって」
「俺に?」
「うん、きれいな水色で、すっごく似合う……と、俺は思うんだけど」
話していて、本人を目の前にすると、その気持ちは更に加速する。着て欲しい。この柔らかくてきれいなサマーニット、絶対に似合うから。──と胸を高鳴らせるほど思ったところで、ふと、考えついたことがある。
「柊羽、これ、俺からプレゼントしていい?」
今日は何の日でもない。何でもない日。誕生日やクリスマス、プレゼントがセットになっているような記念日じゃない。でも、何でもない日にプレゼントしてもいいだろう。思わず期待に満ちた目で柊羽を見ると、彼は長いまつげを揺らしてきょとんと目を瞬かせ、優しく笑った。
「いいのか?」
「もちろん!」
オーケーらしい答えに、返す俺の声はついはしゃいでいるのが自分でもわかった。楽しみだな、これ着た柊羽かっこいいだろうなあ……とにこにこしながら、棚にある同じ服を探す俺に、柊羽はくすぐったそうに笑いながらついてくる。
「俺は英知に服を選んでもらって嬉しいが……英知もそんなに嬉しいのか?」
「そりゃ、俺がいいなって思ったもの、着てくれるの嬉しいよ!」
「そうか、それなら」
あ、あったあった。棚の一番上に他の色のバリエーションと並んで畳まれているサマーニットをすぐに見つけて、サイズを確認する。柊羽のサイズを手に取る俺の肩に、柊羽は手を置いて、そっと囁いた。
「お前が好きなときに着せて、好きなときに脱がせてくれ」
低く優しい声のささやきを、頭がうまく認識できなかった。好きなときに、着せて、好きなときに、脱がす? 俺が?
数秒固まった俺は、肩から柊羽の手と重みが離れて言って、ようやく我に帰る。我に帰ったら、そういう話をされたのだとやっと認識できて、かっと頬が熱くなった。
「し、しゅう……それって」
「わかってもらったみたいで良かったよ、英知」
爽やかに微笑む恋人に、余計に頬が熱い。俺は頬の熱さを誤魔化すように、サマーニット片手に足早でレジに向かった。後ろに柊羽がついてくる気配がするけど振り返らずに、お願いします、とレジにいた店員さんへ差し出す。
「すみません、着ていきたいので、タグ切ってもらえますか?」
できたーー
あとは文庫ページメーカーにいれて、画像変換して、誤字をさがして、なかったらアップして終了です。
宿題めちゃくちゃ遅くなってごめんね