郁涙ちゃん
世界には音が溢れている。
足音が刻むテンポも音も、人それぞれだ。例えば涙が今履いているショートブーツはかかとが固く、部屋へ戻るまでの廊下を歩くと、スニーカーを履いている郁と立てる音が違うのがよくわかる。身長がだいぶ離れた郁の歩幅と涙の歩幅のテンポも違う。涙の歩幅が狭いぶん、郁よりもテンポが速い。涙の立てる音は固く高く、テンポは速く。郁の立てる音は軽く静かに、テンポは遅い。
「──あれ」
立ち止まった拍子に、思わず小さく声を上げてしまった。隣の郁が不思議そうに涙の顔を覗き込んでくる。
「涙?」
身をかがめて、覗き込む身長差だ。
歩幅の差によるテンポの違い。差を耳で追っていたのに、部屋の前で立ち止まった今、郁は、ぴったりと涙の隣にいる。それに気付いて、不意に速くなった鼓動は、きっと涙だけだ。今の郁はいつも通り、涙が急に立ち止まったことで心配していたとしても、その胸の鼓動は平常だろう。
「いっくん、大好き」
おそろいになるといい、少しだけそう思って、正直な言葉を隣にいる郁へ伝えた。
おしまい
あとで文庫メーカーにしてアップします
みやびさんか??リクエストありがとうー
おうちで二人遊びして過ごすだいりつ
「大、ちょっと俺の部屋で遊ばない?」
だーいーちゃん、あーそーぼー、と家に押しかけてくる中学生の翼を思い出すような、誘い方だった。部屋で一度読んだことのある小説のページをなんとなくめくっているだけで、特に何かしているわけでもなかった大を誘い出した里津花は、にこにことしてやけに楽しそうだ。何かいたずらでも仕掛けられそうな気すらする。
大の予感は、少しだけ当たっていた。ほんの数歩で着いた里津花の部屋の前、やけに勿体ぶった仕草で、どうぞ、と手のひらで、閉じたドアの先を示される。俺が開けていいのかと目で問うと、里津花は優しく目を細めて頷く。間違いなく、この中に何か仕掛けがあるのだろう。わくわくとした隣からの期待感には気づかない振りをして、大はドアを開ける。そして、目を見開いた。
「──すごいな」
思わず口から漏れた感想に、隣の里津花が、やった、と小さくはしゃいだ声を上げる。大が見た里津花の室内は、見たことのない淡いグリーンのラグマットが敷かれ、その上に淡いピンク色のカバーがかかったクッション。それから色とりどりの、種類がバラバラの花の入った花瓶。それから一つのトレーには乗り切らなかったらしく、ティーセットの乗ったトレーと、サンドイッチや焼き菓子などのいわゆるアフタヌーンティーでよく見る組み合わせで、いつもの里津花の部屋とは様子が違う。
「買い出しに行ったら、花屋さんが、急にお休みになるからって安売りしてたんだ。大とピクニックしたいなあって思って……」
ピクニック。里津花の言葉を音に出さずに反芻する。そういえば今年、ゆっくりと腰を落ち着けて二人で桜を見ることがなかった。ランニング中に桜の変化を話したりはしたけれど。
「どうかな、俺と遊んでくれる?」
何か思いついたら書き足す
「ライブの‪MC中、翼のヘッドセットマイクの調子が悪くなっちゃって、身長が同じだし〜ぐらいの気持ちで志季に肩組んで顔近づけて志季のヘッドセットマイクで喋るしきつば‬って存在しそうじゃないですか…?」
しそう してる
ライブ稼働も回数を重ねてくると、定番のトラブルというものもある。例えばマイクの調子が悪くなって音が乗らない。歌の最中じゃなくMCの最中でまだよかったと思いながら、翼は音を拾わなくなった自分のヘッドセットのマイク部分を軽く指先で小突き、仲間たちとファンからの視線に、音が入ってないアピールをしてみせる。周囲を見回しながらの動きだったので、すぐ隣の立ち位置だった志季が、翼の視界に入った。話途中だった話題を拾って繋げてくれる里津花の声は、会場中にきちんとスピーカーから響いた。大の相槌も響いている。耳になじんだリーダーの低音も──他のみんなのマイクは生きてんな、と思いながらまっすぐに見た志季と、まっすぐに視線が合う。あ、そうだ、志季って俺と身長一緒だし。思い立ったまま体は動く。視線を合わせたままで、動くなよと意思が伝わっていることを祈りながら志季へ歩み寄った。肩を抱き寄せられるほど距離を詰めると、立て続けのパフォーマンス後らしく、志季のつるりとした頬を汗が顎に向かって伝うのも見えた。汗をかいてひっそり息を整えているのに、顔だけはしれっとしている男と肩を組んで、口元のマイクへ顔を寄せる。
「志季、ちょっとマイク貸して」
やっと俺の声がマイクを通して会場に響く。その音声にかぶるように、リッズたちの悲鳴が上がった。
これで合ってる???
英柊食べたい
ごめんえいしゅは宿題にさせてください…手が疲れた
そろそろ終わります。ありがとうございました!
またね
「おうち時間をとことん楽しくしてやろうと意気込むおくいつばさくんと少し仕事に余裕が出来たという事でたまにはのってやるかとめちゃくちゃ協力的になるたかむらしきさんのしきつば読みたいです…」
「いらっしゃいませ!」
コーヒーでも淹れよう、誰かがいれば一緒に淹れてやって少しおしゃべりに付き合ってもらうか……と開けた共有ルームのドアの向こう、家の中では聞く類いのものではない挨拶を向けられて、志季は一度開けたドアを閉めた。
「ちょ、ちょ、志季!なんで閉めんの!」
「いや、寝ぼけているのかと思った。何をしているんだ、お前」
慌ててドアを内側から開けた翼の姿を、足元から視線で撫で上げてやる。翼は顎先を軽く上げて、ふふん、と笑ってから、すっと表情をよそ行きの笑顔にした。
「いらっしゃいませ、お一人さまですか?」
「……そういうプレイか?」
「プレイって言うな」
ネクタイのないカジュアルな白いシャツ、細身のジーンズ、長い黒のギャルソンエプロン。髪を左サイドだけピンで留めた奥井翼は、店員然として俺を共有ルームの中へエスコートした。
「おうちタイムを楽しくしようっていう翼くんのおうちカフェだっての。で、おにーさん、一人?」
「ナンパか。おひとりさまです」
「こちらのお席へどうぞ」
座り慣れたダイニングテーブルへ案内される。座り慣れた自分の席へ腰を下ろすと、お冷やが出てきた。メニューでも出てくるのかと思ったがそこまでの用意はないらしく、にこやかに立つ顔のいい店員を横目で見上げながら、お冷やを一口。柑橘系の香りがする水で喉を湿らせる。
「いつもの」
常連ムーブで言ってみると、翼の口の端が笑いそうになってむずむずとしたのがわかる。思ったよりノってくるなこいつ、などと思っているのだろう。それでもしれっとした顔と声で、かしこまりました、と翼はカウンターキッチンの内側へ入っていく。しばらくして香ってくるコーヒーのにおいに、思わずほっと息を吐いた。
仕事がひと段落したのもあるが、翼の遊びにノっている間に、無意識に入っていた力が抜けた気がする。翼の「楽しくしよう」という考えは、たしかにこういうときに大切なものなのだろう。今日は翼の遊びにとことん協力するか、と志季はこっそりと唇を緩ませる。
「お待たせいたしました、ブレンドでございます」
「ありがとう」
店員が、いつもの志季のマグカップに淹れたコーヒーをテーブルに置く。戻す手へ向けて志季が差し出したものを受け取った翼は、二つに折り畳まれたメモに目を瞬かせた。
志季は素知らぬ顔で、運ばれてきたコーヒーへ口をつける。渡したメモを開いた店員は、一瞬で店員の役を殴り捨てた。
「電話番号渡してんな!」
ファーストキスする柊英
今のこれは事故だったと思うし、もともとの距離が近かったのには下心がなきにしもあらずだったけど、いや俺はそうだけど柊羽はどうだったか知らないし、インスタにアップするための自撮りをたまにはしようというのはお仕事の範疇だったし、真面目に二人で画角に収まる角度だとかを話し合っていた。柊羽がインカメラ撮影のため、腕を伸ばして何回かシャッターを押してから、俺も撮ってみよっか、と提案しながら横を向いたのは無意識だった。顔の近さを忘れての、無意識だった。話をするときに人の顔を見ましょうとは小さい頃に言われたことのある話だし、って言い訳が俺の頭の中を半分使ってぐるぐる回っている。もう半分は、向いた瞬間に近すぎてぶつかった柊羽のくちびるが柔らかかったな、ってことだ。俺ってやつは。俺ってやつは!謝らなきゃ、と焦りながら、ごめん、しゅう、と声に出すと、動かしたくちびると、さっき柊羽とくちびるが触れたんだなと思ってしまってぐわっと顔が熱くなる。──その頬を、柊羽の手のひらに両側から捕まえられた。
スマホがラグの上に落ちて、とすん、と音を立てるのを、ほとんどそっちに意識を向けられないながらも聞いた。
「英知」
珍しく焦った柊羽の声がして、長い淡い色の睫毛にふちどられた薄い色の瞳が近づいてくる。少しぶりに触れたくちびるは、少しだけ震えて、俺に押し付けられた。
カット
Latest / 80:19
カットモードOFF
05:48
ななし@4e7735
ハート押してみた
50:22
ななし@f855ae
うおーッ!!!! 郁涙ちゃん最高…大好きで爆萌しました…(みやびです!)
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向き
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マシュマロ
初公開日: 2020年04月13日
最終更新日: 2020年04月13日
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郁涙、だいりつ、しきつば、英柊、しきつば、柊英
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