二郎は合い挽き肉をボールに投げ込むと用意してある全ての材料を混ぜ込み手を突っ込んだ。十回回したら十回掴んでそこから捏ねる。にいちゃん秘伝の美味しくなる技。そして粘り気が出て色が変わったらひとまとめ、肉の真ん中に十字を書けば大体きれいな四等分だ。昔はこの残りひとつが問題になり、ひとつを三等分にしてみんなで食べたり、逆に二等分にしてお弁当用にしたりと工夫を凝らしたものだ。二郎は四等分した一つを手に取り息をついた。随分、懐かしく思うものだな。御年二十八歳。山田二郎はいま、ヨコハマにいた。
 
それはもう色々あったのだ。気に食わない野郎との出会いから数度、顔を合わせるたびにもやもやは増えていって爆発したのはバトル関係ないプライベートの街中。存外普通にしゃべって普通に飲み物を奢られ、普通にさよならしそうなその瞬間。口から出た言葉は「もっとアンタを知りたい」だった。
散々言葉でこねくり回し、リズムで程よく味付けされてた。
形を整えたハンバーグを見ながら二郎は思う。つまりこいつと一緒。少しのクールタイムでそれらは全て旨味に変わる。あの一言に銃兎は笑った。もうよく知ってるんじゃないですかって笑った。
 その日の夜こそ、本当のクールタイムだ。冷蔵庫のなかほどに冷え切った頭で自分が知ってる入間銃兎を繋ぎ合わせていく。気に食わない。心の底から気に食わない、…が、綺麗で、ちょっと面倒見がよくて、必死で、むかつくが。
「好きだ」
二郎の頬が一気に染まった。頭がゆだるほどに熱く目の前すらチカチカする。
「す、すきだあ?!」
急いで飛び起きたせいで汗が目に入ったようだ。じくじくと痛む目はやっぱりしょっぱかった。
あつあつの鉄板は派手に音を立てている。じゅうじゅうバチバチと油をまき散らしながら冷えたハンバーグのたねに焼き色をつけていく。
入間銃兎を見かけるたびに挙動不審になり、とにかく濁して三郎に相談したら秒でバレた。散々笑われた挙句足を引っ張るなと言われたがその心配はまったくなかった。ちゃんとステージで向き合えたのはそれだけ真っ直ぐ向かってきてくれたからこそだ。そうして、結局また二郎は彼に惚れていく。
尊敬する長兄にもバレたとき。流石に頭も冷えたし、肝なんて極寒だ。
やっぱりダメだよなあなんて空を見上げながら歩き回り結局ついたのはヨコハマの地。
足任せで見つけた海沿いの公園で見つけたのは今、まさに自身を悩ます入間銃兎だった。
「おや?」
こいつは、そう、面倒見が良いんだ。
「どうしたんです?…珍しい顔をしてますね」
察しが良くて、頭もいい。
じわりじわりと二郎の思考が溶け出して、促されたベンチでとうとう決壊した。
「お前は、あくまでお前だったら好きになっちゃいけねぇやつ好きになったらさ、どうする」
「好きになっちゃいけない人、ですか」
入間銃兎は少しも迷わなかった。
「どうにかなるならどうにかすればいいですし、どうにもならないなら思うだけ思えばいいじゃないですか」
「は?」
「『好き』でいるだけなら何も問題ないでしょう?」
二郎の頭がカッとなった。苛立ちにも似た感情でぐつぐつの煮えていく。何か言ってやろうと視線を向けた。
そこにあったのは、ただ遠い場所を穏やかに見つめる入間銃兎だった。
ここに来るまで沢山の言葉をぶつけ合った。沢山のリズムで歯向かいあった。
だからこそ分かるものも確かにあったのだ。
「なあ」
「はい」
「アンタんこと好きなんだけど。どうにかなるかな」
「ははは、私ですか。そうですね、思うだけなら自由ですと返します」
焼きあがったハンバーグはふたつ。残りのふたつは冷凍庫に入れた。銃兎の冷蔵庫は何もないが冷凍庫は最近ぱんぱんだ。全部二郎が作ったものだが。
思うだけなら自由ならばと二郎はとことん思いつくした。その様子を見ていた兄弟はそのうちに手を貸してくれるようになり弟はこうして銃兎の家を、そして長兄はヨコハマに萬屋の支店を作ってくれた。自分がヨコハマに行くより仕事がしやすい、とは長兄の言葉であるが確かにそれはありそうだ。碧棺左馬刻の視線は結構やかましい。
こうして家に来て色々しているときに鉢合わせたこともあるが「思うのは自由」という免罪符と冷凍庫を見せたら何も言わなくなった。都合がよかったようだ。これには銃兎のほうが驚いていたけども。
少し甘いケチャップのソースをかけて、できあがり。
テーブルに運ぶうちに玄関のドアは開いてすぐに銃兎の声がした。
「おかえり」
「ただいま。…わ、ハンバーグですか」
「出来立て。はやく食おうぜ」
銃兎が足早に入っていった寝室には枠に入った男の顔。二郎はそのまま視線を逸らすと湯気を上げるハンバーグの前で銃兎を待った。目を輝かせた銃兎は確かに二郎の前で手を合わす。
「いただきます。手作り…すごいですね」
「銃兎が好きなケチャップソースのやつ」
「ほんとにすごい」
ハンバーグにフォークを突き入れる。ぎゅっと詰まったそこからは思いが滴っていた。
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00:44
てんまる
コメみてますのでご自由にどうぞ
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ハンバーグ書くよ(たぶん二銃)
初公開日: 2020年05月03日
最終更新日: 2020年05月03日
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二銃です
苦手な方はご遠慮ください
雨【左銃+一銃】
※左銃と一銃同軸※三人で同棲してる ※苦手なものがある人は見ないように
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てんまる
青いSS書くよ
二銃になるので苦手な人はご遠慮ください
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ワラう
掌編小説。一応書ききれたみたい。
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文字河童