「うーん」
瑛二は自分の部屋でクローゼットの中身をベッドの上や床に広げ唸っていた。
いわゆるきれいめやカジュアル系の多い瑛二の洋服は兄から贈られることもあってかどれも洗練されて質の良さがうかがえる。
しかし――。
「違うんだよなぁ」
その中でも淡いグレーのパーカーを広げてぼやく。今までの自分の服装では今回のミッションは達成されない。
「どうしようかなぁ」
「瑛二、ちょっといい?」
こめかみに手を当てうんうん唸っている瑛二の耳にノックの音と天の助けが聞こえてきた。
「あ、ナギ。待ってて」
「……なにこれ? ファッションショーでもするの?」
楽譜を手に持っていることから何か曲のことで話したいことがあったのだろう。
しかし、開いた扉の先にある惨状に思わず呆れ顔になってしまうのは仕方のないことだ。
「うーん。ファッションショー……。ある意味間違ってないんだけどね」
いつもの困り顔の笑顔で場を切り抜けようとはするが、煮詰まっている今誰かにアドバイスをもらってもいいのかもしれない。
そう思いいたった瑛二は年下のファッションリーダーに尋ねてみた。
「ねえナギ。どうすれば俺っぽくならないかな?」
「――つまり、瑛二は最近身バレして大変だからどうにかこうにか変装スキルを身に着けようってことでおっけー?」
「おっけー」
ベッドに腰かけ、床に正座している自分に問いかけるナギに頷くしかない。
そうなのだ。以前の自分はメンバー内でも地味でそれこそ「鳳瑛一の弟」ということもあまり信じてもらえないような環境だったため普段の買い物や友人と出かけるにもなんの苦労もなかった。HE★VENSとしての活動がありがたいことに世間に浸透するのと比例して今までなかったプライベートで声を掛けられることが多くなったのだ。それはそれで嬉しいことだとは実感している。エンジェルにも認知してもらっていることに喜びを感じるし、新曲の感想を直接伝えてもらった時なんかは天にも昇りそうな気持ちだ。
ただ一方で、スーパーのタイムセールに行こうとしている時や現場に急いで行こうとしている時に話しかけられると少し困ってしまう。だから、自意識過剰かもしれないがそういう時にスムーズに事が行えるように変装スキルを身に着けようと思ったのだ。
「ナギはそういう時はどうしてるの?」
自分よりメジャーデビューするのが早く、オーラもあるナギなんて大変じゃないか。
暗にそういう気持ちを込めて尋ねると「参考にならないと思うけど……」と前置きをされ言われた。
「確かにナギのキュートなオーラは変装しても隠せないけど、そんなときはしーってやるとみんな頷いてそっとしてくれるよ」
人差し指を唇に当てる仕草をする姿はとても可愛らしい。可愛らしいが、確かにHE★VENSの中でもナギにしか使えない技だろう。
思えばHE★VENSの面々を思い出すと、カリスマ性あふれる瑛一や綺羅。神聖な雰囲気のあるシオン。上手く場をあしらうことのできるヴァンやナギ。大和にいたってはそういうことに左右されない芯の強さがある。
「俺が一番地味で話しかけられやすいんだろうな~」
「そういうのじゃないと思うけど、瑛二は優しいからみんな話しかけやすいんじゃない?」
ナギのフォローに頷きつつ、だんだんとこれも芸能人の宿命なのかという気持ちも湧いてくる。
「これで瑛二が変装でもヤンキーっぽいかっこうとかヴァンみたいにハデハデな服装とかしたら逆に瑛一が大変かもよ? 『瑛二が反抗期になった!!』って」
「確かにそうかも」
ナギのおどけた言い方に思わず吹き出してしまう。
過保護な兄は変装とはいっても瑛二がそんな恰好したら慌ててしまうかもしれない。
「あ、でも逆に『イメチェンか! イイ!』とも言いそうだよね」
「あ~」
「俺がどうしたって?」
なんでも褒める兄はその可能性もある。そう二人で笑いあっていると上から魅力的なテノールが降ってきた。
「に、兄さん!」
「げ。瑛一!」
いままで話していた本人が来ると何も悪いことをしていないのに気まずい雰囲気になる。その気まずさから洗いざらい今までの自分の悩みを話してしまうと、少し思案した後「任せとけ」と一言残して部屋から出ていってしまった。
「どうしよう……。ナギ……」
「まあ、本人が任せとけって言うならいいんじゃない?」
残され不安そうな瑛二に対してもうこの話題に飽きたのかナギは肩を竦めた。
「瑛一って時代が時代なら教祖になってたと思うんだ」
そう零したナギに瑛二は何度もうなずく。
その二人が観ているのはとあるテレビ番組のインタビューに答えている瑛一の姿があった。
『瑛一さん、最後になにかメッセージはありますか?』
『メッセージか。……そんなメッセージとも仰々しいことではないんだが、俺たちHE★VENSはエンジェルたちに最高のパフォーマンスを届けるために日々レッスンを重ねている。普段の俺たちも気になるとは思うが、折角なら舞台の上の俺たちに注目してほしいな』
インタビュアーに問いに対して嫌みのない答え。
「瑛二、これから変装いらないね」
「ほんとだね」
呆れるような笑えるような。グループリーダーのすごさを改めて感じた二人だった。