足音が聞こえた。
廊下に響くようなそれではなく、もっと荒々しい、単純に言えば走っているような足音が。
「モーさん!!!」
「うおわぁ!?」
急に人の部屋に駆け込んできたあげくに急に叫ぶな!
「いっきなりなんだよマスター…」
心を落ち着けながら聞けば、かえってくる返事はたった一言。
「出かけよう」
は?
◆
朝、いつも通りに起きて準備して、朝食を摂っていると。
「藤丸くん、あとで管制室に来てくれないかな?緊急ではないんだけど」
ダ・ヴィンチちゃんからそう言われた。
「微小特異点?」
「まあ似たようなものなんだけど、それの更になりかけって感じでね。」
カルデアベースを彷徨海ロビーに移した後も、たまに微小特異点が発生している。
当然定期的に対応はしているわけだけど、ここまで緩い呼び出しは珍しい部類だ。
「じゃあ食べ終わったら行くよ」
「うん、よろしく~」
レイシフトをしてみた結論から言えば、驚くほどにあっけなく調査は終わった。
町の近くの森の中に古い墓地があって、多めのゴーストが湧いて巨大なものになる兆候が出ていた。
それに引き寄せられるように魔獣も集まった結果、調査に引っかかることになったらしい。
解決策もいたってシンプルで、まばらな集団から戦闘をして数を減らしていく方法をとった。
幸い、偶然管制室の近くにいたので調査に付き合ってもらった二人は戦闘の相性が良く、そう苦労せずに片付けることができた。
「ああもう!なんで私がこんな雑魚掃除に付き合うハメに!」
「お互い暇だったんだから仕方ないだろ。喋ってる間に働け」
「原稿のアイデア出しの休憩中だったんですけど!」
……式さんの売り言葉に邪ンヌの買い言葉って感じで、軽い口論は起きてたけど。
戦闘自体は苦労しなかった。
「マスターちゃん、この借りは後で体で払ってもらいますからね」
「…つまり?」
「原稿のアシスタントに決まってるでしょ。作業に入ったら呼びますから。問答無用で。」
「うん知ってた!了解」
「マスターも大変だな、こんなメンドいののアシスタントとか」
「はぁ!?」
戦闘以外は……ノーコメント。
◆
「まあ顛末は分かった。んでそれがどう出かけるって話に繋がるんだよ」
「その微小特異点がさ、消えるのに丸1日くらいかかるらしいんだよ。それまでは残ってるってことなんだけど」
「おう」
「街にさ、良さそうなお店があったんだよね。食事できるお店」
───なるほど?
「話が見えてきたじゃねえか。その店に何かあったんだろ」
「オススメメニューが出ててさ」
「ああ」
「──チキングリル。お酒もある」
「よし!!」
「そしてここからも大事なんですが」
「あん?」
これで終わりだと思ったらもう一つあるらしい。
「代金は俺が持ちます」
─────ってことはつまり。
「ディナーはチキン!」
「マスターの[[rb:奢 > おご]]りってことか!よォし!!!」
◆
「「乾杯!」」
紆余曲折を経て件の店に席を取り、二人での夕食が始まった。
「思った以上にイケてるな、これ!ナイスだぜ、マスター」
「気に入ってくれたみたいで良かったよ」
例のチキングリルは想像以上の出来で、酒の方もよく合う。
「しかしお前の[[rb:奢 > おご]]りってのは珍しいじゃねェか。ちゃんとリソース貯めてんのか?」
「それなりには、ちゃんとね。でも今日は出し惜しみするときじゃないさ。なにより、
「オレの誕生日」「キミの誕生日」
…だもんね」
「毎年よく飽きねえな」
「まさか。でも、今年は運が良かったよ」
今年も俺が作ることになるかと思った、なんて言っているからには、裏で何か準備してたのかもな。
「作ってくれるんならそれはそれで悪くないけどな」
実際、コイツの作るメシはそれなりに旨い。
悪くないってのは正直な感想だ。
「まあ、俺じゃあチキンでそれほどの物は作れないと思ったから。本当に運が良かった」
元々、『ディナーはチキン!マスターの奢りな!』なんて文句は、リソース回収か何かに付き合った時の冗談みたいな一言だったんだが。
───まったく、よく覚えてるもんだ。
ひとしきり食い終わって、落ち着いてウイスキーを味わっている頃。
まあ酒を入れているのはオレだけで、マスターはノンアルコールなんだが。
「…んん~~……」
ノンアルコールのはず、なんだが。
「マスター、お前は酒飲んでねえだろ…」
「場酔いしたかも……」
「ンなテンション低い場酔い聞いたことねえよ……」
場酔いってその場の高いテンションについていくようなヤツだろ。
これは違うんじゃねえのか…?
「あんま無理すんなよ?」
「ん、ありがとう……」
相変わらず、こういうとこで心配させるマスターだ。
「ホント、お前はオレがしっかりしてなきゃどうしようもないな」
「…うん、そうかも」
……コイツ、酔うと素直になるのか?
マスターはなんだかんだで弱音を吐くことが少ない。
それはマシュやダ・ヴィンチに対しても───オレに対しても。
オレたちは中でもマシな方かもしれないが、それでも少ない。
だからこそ心配にさせられることもあるんだが。
「モーさん、今俺のこと考えてるでしょ」
「!…ああ、まあな」
「優しいなあ、モーさんは」
実は色々気を使ってくれてるでしょ、とか。
こういう所はなんだかんだ優しいよね、とか。
一個一個挙げられると否応なく恥ずかしくなる。
「だぁッ、やめろそういうのは」
「あはは、ゴメンゴメン」
でもね、と続けてマスターは語る。
キミのそういう優しさに、ちゃんと助けられているんだよ、と。
「ありがとうね、いつも」
普段よりもより穏やかに柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
◆
「ほらマスター、帰るぞ」
「ん、そうだね。…ちょっとシャキっとする」
店を出た俺たちは、町のはずれの方に移動して帰還処理を始めてもらった。
マスターも、この様子なら多分平気だろう。
ただ、これを言えるとしたら今しかない。
「マスター、一回しか言わねえからよく聴け」
「──うん」
場酔いはほとんど飛んだようで、マスターはしっかりした目でオレを見た。
「優しさに助けられてるのはお前だけじゃないってことは、覚えとけ」
「……うん」
「心配だって時にはしてる。…深くは突っ込まねえが、ちゃんとオレもに──オレたちにも、頼るときは頼れ」
「……うん。」
「あと……今日のメシは美味かった。ご馳走さん」
オレなんかの誕生日を憶えて、出会って以来忘れずに何かで祝ってくれる物好きには、たまには素直に感謝してやるとしよう。
「うん、お粗末様でした。それから改めて……」
「誕生日、おめでとう」
ひとまず完成です!!!
テキストライブの方これで終わります。
ありがとうございました