リドル×女監督生
お題・・・「何も分かっていないんだね」始まる話。
アスタリスクより以下、本文です。
***
「何も分かっていないんだね」
 リドル先輩がため息混じりに呟いた。
 ここはナイトレイブンカレッジ、ハーツラビュル寮の談話室。
 明日の小テストに向けてリドル先輩が勉強を見てくれると言うので、私はお言葉に甘えてお世話になることにした。赤を基調としたハーツラビュル寮の談話室は、まさにハートの女王が好みそうなインテリアで埋め尽くされている。趣のある……と言えば聞こえは良いが、所謂オンボロな私の寮とはまるで違う。そんなハーツラビュル寮もエースとデュースのお陰で今となってはすっかり行き慣れた場所だ。
「キミは一体授業中に何をしてるのかな」
「ひぇ……現状分からないところが分からないといったところでして……」
「予習と復習はしてる? このままでは進級も怪しいだろうね」
 リドル先輩の鋭い視線とお言葉に、私はひたすら萎縮しきっていた。リドル先輩が仰る通り、間違いなくこのままでは進級は危うい。こういう時はうちのオンボロ寮の先輩に聞くのが妥当であろう。しかし、うちにいる先輩と言えば随分と長い時をあそこで過ごしている足の無い方々ばかりで、正直言うとあまり当てにならない。それを聞いたリドル先輩が私に救いの手を差し伸べてくれたと言うわけだ。
「魔法が使えないのであれば実技は仕方ないとしても、座学くらいは自分の努力で何となるだろう。怠慢な自分を恥じてこれからは勉学に勤しむべきだね」
「ごもっともです……」
「さあ、教科書の次のページを開いて。さっき解いた問題の応用だ」
 ペンを握って早一時間と半分。
 容赦のないリドル先輩は休憩という言葉を知らないらしい。私の遅れを取り戻すために一生懸命教えてくれるのは有難いが、そろそろ集中力も限界である。勉強を始める前にリドル先輩が淹れてくれた紅茶は、きっと口を付ける前に冷めてしまっただろう。お願いした身分でこれを言うのは違うかも知れないが、本音は少しで良いから休憩が欲しい。
「……で、ここはこれをこうして……って、ねえボクの話聞いてる?」
「は、はい! すみません!」
 壁掛け時計はもう間もなく二十二時を示そうとしている。普段ならそろそろ就寝の時間だ。あまりの眠気に視界がブラックアウトしかけて、リドル先輩の声で引き戻される。蔑むような目のリドル先輩に、私の睡魔も何処かへ消え去った。まずい、リドル先輩の前で居眠りだなんてこれは間違いなく首が跳ぶ。リドル先輩がマジカルペンを握り直したのと、私がぎゅっと強く目を瞑ったのは殆ど同じようだった気がした。
「ほら、目を開けて。何時まで固まったままでいるつもり」
 リドル先輩の声が聞こえて恐る恐る瞼を開く。すぐに視界に飛び込んできたのは、湯気が立ち上る温かな紅茶だった。それから真っ赤な苺のタルトが一ピース。きょとんとした顔でリドル先輩を見れば、先輩は顎でタルトを指し示した。
「紅茶に砂糖は二つで良かったね?」
「先輩……っ、これは……」
「まったく、休憩が欲しかったら言えば良いじゃないか。ボクもそこまで鬼じゃない」
 ぽとん、と私のカップに角砂糖を落としながらリドル先輩が言う。
「今日はここまでにしよう。あまり詰め込み過ぎるのも良くないことは、ボクが身をもって知っているからね」
「はい、ありがとうございます!」
「どうぞ」
 差し出されたティーカップに口を付ける。華やかで芳醇な香りは一気に疲れた心を解してくれた。フル回転で働かせた頭に優しい甘みが心地良い。すっかり気の抜けた私を見遣ってリドル先輩は呆れた様に笑った。
「キミは本当に分かりやすい。見ていて飽きないよ」
「先輩それどういう意味ですか」
「このボクが褒めているんだ。素直に受け取るといい」
 テーブルに散らかした教科書を片付けながらリドル先輩は言う。素直に受け取れと言われても、何を素直に受け取ったらいいのか分からない。褒め言葉にしては少し苦い。でもそれがリドル先輩なのだろう。
「タルト、早く食べないとクリームが溶けて台無しになってしまうよ」
「え、食べていいんですか? これ」
 確かハートの女王の法律で許可無くタルトを食べてはいけないといったようなものがあった気がして、思わず私は躊躇する。
「もしかしてキミ、ハートの女王の法律第八十九条を意識しているのかい」
「だってここはハーツラビュル寮ですから、郷に入れば郷に従えと言いますか……」
「素晴らしい心掛けだ。しかしこれは寮長であるボクが君のために用意したタルトだ。つまり君にはこれを食べる権利がある」
 苺のタルトよりも甘い囁きに、無意識に自分の肩が跳ねたのが分かった。とん、と教科書の束を整えながら、リドル先輩はクスリと人の悪い笑みをする。もしかしたら食事の行儀のまでも何か言われるのではないかと緊張しながらフォークを持てば、リドル先輩に先を促される。優しくタルトにフォークを刺して、ぱくりと頬張る。真っ赤な苺は甘酸っぱくて、心成しか少し切なくなった。
「先輩は食べないんですか?」
「ああ、それが最後の一切れだからね」
「いただいて良かったんですか? このタルトはリドル先輩の好物では……」
「気にすることはないよ。それに何かを独り占めするのは好きじゃない」
 無言でタルトをつつきながら、私は何処となく居心地の悪さを感じていた。
 リドル先輩はとんでもなく怖い。それが私が最初に抱いたリドル先輩への印象だ。しかし今はどうだろうか。自分の寮生でもないのに後輩であるというだけで私の勉強を見てくれる。更には労いのお茶とタルトまで用意してくれた。リドル先輩はきっととても面倒見が良いのだろう。だから私にも気遣ってくれる。ただそれだけだ。
「オンボロ寮では不便もあるだろう。何かあればうちを尋ねてくれて構わないよ」
「お気遣いいただきありがとうございます。その時は是非お願いします」
 ついにタルトは残り一口といったところで、私は食べる手を止めた。
「あの、リドル先輩も……どうぞ」
 おずおずとタルトの皿を勧めると、リドル先輩は目を丸くして驚いていた。その後すぐに肩を小刻みに震わせて、先輩は珍しく爆笑した。
「キミはやっぱり面白い」
「えっ、私……何か違反しちゃいましたか?」
 私の右隣に座ったリドル先輩は、口端を上げて告げる。
「そうだね、君は違反した。首を跳ねたくらいじゃとても償いきれないくらいの重罪だ」
「そんな……っ」
 私が一口残したタルトを、リドル先輩は自分の口に入れる。それからリドル先輩の髪で私の視界が深紅でいっぱいになった、その次の瞬間。私の唇に柔らかくて熱いものが触れた。
 驚きと戸惑いで声が出せない。体感では随分長く熱が点されていた気がする。やっとのことで解放されて、恐々薄く目を開けるとリドル先輩の長い睫毛が震えていた。
「キミはボクの心をこんなにも揺さぶってくれる。このボクの心を奪ったのは大変な重罪だ」
「リドル……先輩……」
「この言葉の意味はもう……お分かりだね?」
 有無を言わせないリドル先輩の眼差しに、私は頷くことしか出来なかった。
「今日の復習はこれで終わりだけれど、明日の予習もしないとだ」
 唇に残っているのは熱い感触と、僅かに香る苺の甘酸っぱい香り。
 何だかくらくらと眩暈がする。
 やっぱりリドル先輩は怖い。私が知らなかった感情をどんどん暴いてしまう。いっそ首を跳ねられた方が分かりやすかったくらいだ。でもどうしてか、口付けられて嫌じゃなかった。きっとそれが私の答えなのだろう。 
「さあ休憩は終わりだよ」
 身体中が脈打っている。それがリドル先輩へのときめきなのだと気付くのに、然程時間は掛からなかった。ぼんやりと上の空でいる私に、リドル先輩は止めを刺した。
「せ、先輩……」
「明日の予習は……そうだね、ボクの部屋でしようか」
 ここはハーツラビュル寮。厳格なハートの女王の法律は絶対だ。つまり私の返事も一つしかないのである。
「……はい、リドル先輩」
 私のその返事に、至極満足したようにリドル先輩は微笑んだのだった。
おわり
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リドル夢…No.1
初公開日: 2020年04月29日
最終更新日: 2020年05月01日
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コメント
リドルくんと女監督生の夢小説です。
誤字脱字はデフォです。
間が開いている時は考えているかトイレ行ってます。
多少の解釈違いは大目に見て下さい。
ゆっくりマイペースに書きます。
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