<今回のお題>
リドル×女監督生「やあ、また会ったね」から始まって「また必ず会えると知っているから」で終わる話。
アスタリスクより以下、本文となります。
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「やあ、また会ったね」
オンボロ寮・玄関先。
私が監督生を務めるこのオンボロ寮は、かなり古びた建物だ。慈悲深い学園長のご厚意で身寄りのない私はグリムとここに住まわせてもらっている。壁はヒビだらけだし、床は有り得ないくらいに大きな音で軋む。建物自体だっていつ崩れてしまってもおかしくない程のオンボロ具合である。そんなオンボロ寮にせめて彩りをと思い立ち、ある日私は玄関先に花を植えた。きっと魔法が使える人なら花など一から世話しなくても花畑のひとつやふたつくらいすぐに作れるのだろう。しかし、異端中の異端である私は魔法が使えない。花だって種まきからして、ようやく近々花が咲くであろうといった所まで育ててきた。
「リドル先輩! おはようございます」
それをリドル先輩は種まきから見守ってくれたのだ。苗の成長が鈍くなった時には図書室から本を借りてくれて、一緒にあれこれと試したりもした。最初こそリドル先輩は私のオンボロ寮玄関花畑作戦に魔法を使おうとしてくれた。だけど、それは私が丁重にお断りしたのだ。何故なら、私は花とは一から自分で育てないと意味がないと思っている。毎日水を上げて、陽当たりや花の生育を考えながらこまめに手入れをする。その積み重ねがあるからこそ、花が開くときの感動はひとしおであるのだ。
「今朝も早くからご苦労なことだ」
「とか言って、リドル先輩もちょくちょく見に来てくれるじゃないですか」
「ここはハーツラビュル寮と校舎への通り道だからね! 嫌でも毎日キミが世話しているのを見てたら、その……ボクも愛着が湧いたというか……」
リドル先輩はもごもごと言い澱む。それが照れからくることを私は随分前から知っている。一緒に花の世話をするようになってから、今まで知らなかったリドル先輩を知れた。いつも怒りんぼで厳格なハーツラビュル寮長。そんなリドル先輩が初めて朝露に濡れた若葉を見つけた時のはしゃぎようは、きっとハーツラビュル寮生たちには見せられないものだろう。
「先輩、見てください! もうすぐで開きそうなんです」
私が指差すのは、リドル先輩が球根から植えたチューリップだ。蕾の色からして、きっと赤い花が開くであろうそのチューリップは、間もなく開花と言わんばかりに蕾を大きく膨らませている。ここ最近の穏やかな天候のせいか、他の花々の成長も目覚ましいものがあった。
「リドル先輩の髪色みたいに、真っ赤な赤になりそうですよ」
「薔薇の手入れは慣れているけれど、チューリップは初めてだったから実はここまで育つか不安だったんだ」
「ふふ、だから毎日いらしていたんですね」
「そ、そりゃあ植えっぱなしで君に任せっきりも良くないと思ったからね」
そう言ってリドル先輩はつんとそっぽを向いてしまう。そんな素っ気ない仕草も私の胸を高鳴らせることに、果たしてリドル先輩は気付いているのだろうか。こうしてリドル先輩と親密になってまだ日は浅いけれど、一日ごとに確実に絆を深めていることを私は確信していた。
「明日には咲くかな」
リドル先輩は優しく微笑む。
「咲いたらいいですね」
そうして私たちはそっと手を繋いだ。お互いに緊張しているのが重なった手のひらから伝わる。どこかくすぐったくて、むず痒い。誰にも秘密な甘酸っぱい恋は、確かに私とリドル先輩の間に芽生えていた。
でも、私たちは気持ちを伝えあったわけではない。こんなにも近くにリドル先輩を感じているのに、実際はほんの僅かに手が届かない。それに万が一告白して、この関係が壊れてしまったらと思うと、とてもじゃないけれど恐ろしくて言えなかった。
友達以上恋人未満。
それが私たちにはちょうどいいのだ。
明日にはリドル先輩のチューリップが咲くと思うと、楽しみで仕方なかった。真っ赤なチューリップはきっとリドル先輩にとても良く似合うだろう。それを見て笑うリドル先輩は、とてもきらきらとしているに違いない。
ああ、早く明日になればいいのに。こんなにも明日を待ち遠しく思ったことは生まれて初めてだ。明日を焦がれて授業中も上の空になっている私をグリムが揶揄う。だけどそんなことも気にならないくらいに、私の心は真っ赤なチューリップでいっぱいだったのだ。ぼんやりと過ごす今日は特別長く感じる。早くリドル先輩の笑顔が見たい。私はそれ一心であった。
朝、目が覚めて私はパジャマのまま玄関先へ走り出る。眩しい朝日に照らされて、玄関の花々は見事に咲き誇っている。その中でひと際情熱的な赤で私の目に映るのは、リドル先輩のチューリップだった。深みのある濃い赤は、まさにリドル先輩を模しているようだ。朝露に濡れて輝く真っ赤なチューリップの綺麗さに感嘆していると、背後に人気を感じて振り返る。そこに居たのは、このチューリップを植えた張本人だ。
「おはようございますっ! 先輩、早く見てください!」
私が急いたようにリドル先輩の袖口を引っ張って、プランターの前へ引っ張っていく。
一秒でも早く見せたかった。リドル先輩に開花したチューリップを見てもらいたかった。きっとリドル先輩は笑ってくれる。私はそう信じて疑わなかった。
「……咲いてしまったんだね」
リドル先輩の声色が暗くなって、私は違和感を覚える。リドル先輩の顔を覗くと、先輩は唇を強く噛み締めていた。
「先輩……?」
「花は咲いたら枯れるしかない。ボクはそれが嫌なんだ」
昨日、リドル先輩は確かにチューリップの開花を楽しみにしてくれていた。どうして急にこのようなことを言うのだろうか。私は不思議で仕方なかった。
「先輩、どうしてそんな悲しいことを言うんですか」
「どうしてなんて愚問だね。キミと花の世話をしながらずっと思っていたことさ」
花はいつか枯れる。
それは自然の摂理として当たり前のことである。花が迎える一瞬の旬を大切にするために、私たちは毎日手入れをして水を上げていた。だけどどうやらリドル先輩は違うようだ。
「それよりもキミ、早く着替えた方がいいんじゃないのかい。間もなく始業の時間だよ」
「あ、あの、放課後……またここに寄っていただけませんか!」
そんな悲しいことを言わないで欲しい。リドル先輩は毎日ここへ通ってくれるほどにチューリップの開花を楽しみにしてくれていたはずだ。
「もう、ここには来ないよ。花だって咲いたし、ボクもそこまで暇じゃない」
「リドル先輩……っ」
そのまま私を一瞥すると、リドル先輩は背中を向けた。
ご覧頂きありがとうございました!
続きは後ほどpixivにupしますので、興味のある方どうぞよろしくお願い致します