<今回のお題>
マレウス×女監督生「どれだけの想いを注いだとしても、君は僕への愛を孕まない」を使って書く。
アスタリスクより以下、本文となります。
***
「じゃあ、僕はそろそろ帰るとするよ」
 お前と親しく話をするようになってから、僕はオンボロ寮へ頻繁に通っていた。
 涼しい夜風……と言えば聞こえはいいが、所謂すきま風に僕の黒髪が靡く。談話室でお前と話をすることは好きだ。お互いに他愛もない話をして、馬鹿笑いをする。まるで学生のようだと言えばお前に「ツノ太郎はうちの学生じゃん」と窘められてしまった。しかし僕らの間ではそれもまた笑い話に変わる。僕はお前とすることの全てが楽しいと感じていた。こんなにも高揚した気分は僕にとっては随分と久しいものだったのだ。
 時に、僕は孤高である。
 僕が人の子と好んで戯れるのはごく稀なことである。しかしお前とは何時だって一緒に居たいと思えた。お前の無邪気な明るい笑い声は聞いていて実に心地良い。太陽のような笑顔は僕には眩しすぎるくらいである。
 陰と陽。
 氷と炎。
 月と太陽。
 そんな風に僕と真逆なお前に好感を抱くのは決して不自然なことではないだろう。でも僕は孤高のマレウス・ドラコニアだ。例えば僕の生きる世界で恋人や伴侶だとか、そういった類の関係は不必要である。今のように話し相手として、同じ学園の生徒として一緒に居る時間を楽しめたらそれで良かった。それに僕はお前に多数友人がいることを知っている。だけど今こうして僕だけの為に時間を使ってくれるその事実で僕の自尊心は守られていた。今、お前と過ごすこの時間は僕だけのものだ。誰にも譲らない。僕がこうして何かに執着したことも、記憶の遥か昔から手繰り寄せねばならばい程に、僕にとっては古いことだった。
 楽しい時間は刹那的なものであるということを教えてくれたのもお前だった。
 何時だって退屈だった僕の景色に極彩色で彩りを与えたのは間違いなくお前なのだ。きっと僕はお前に好感……というよりも感謝を感じている。こんなにも充実した時間を与えてくれるお前に僕はとても感謝していた。
 談話室の柱時計が間もなく二十二時を指し示す。
 僕がオンボロ寮を尋ねてから早二時間。消灯の時間になる前に戻らねばリリア達が煩いのは目に見えていた。お前との楽しい話も一瞬間が開いて、僕はさっきの言葉を切り出した。
「じゃあ、僕はそろそろ帰るとするよ」
 その言葉にいつもなら満面の笑顔で見送ってくれるはずのお前の顔が曇る。心配になった僕が顔を覗き込めば、お前はぷいと顔を背けた。
「どうした、何か僕に話し足りないことでもあるのか?」
 それは僕なりの冗談だった。
 どうして今日は笑って見送ってくれないのだろう。せめてお前の笑顔を見て帰りたいのに、視線さえも合わせてくれないお前に僕はほとほと困り果てていた。
「そんな風にいじけたお前をそのままにしては帰れないではないか」
「そうだよ、帰っちゃいやだよ。ツノ太郎」
 僕は驚きのあまり目を見開いた。
 いじらしく僕の制服の裾を摘まんで離さないお前の意図が読めない。
「……それは、寂しいという感情か?」
 僕の中で知識として記憶している感情の名前を出すと、お前は俯いたまま小さく頷いた。
「なあに、お前には毛玉の相棒がいるではないか」
「グリムじゃなくて、ツノ太郎がいいんだもん」
「今夜は随分と我儘なのだな」
 僕の存在を求める言葉に無意識に心拍が上がる。小さく華奢な肩に腕を回して、僕はお前を抱き寄せた。さらりと揺れる黒髪が僕の頬を擽る。こんな我儘もたまには悪くないと思っているのも事実であった。好ましいと思っている人間に頼られるのは嫌いじゃない。
 僕に寄りかかりながらお前は窓枠に浮かぶ月をぼんやりと眺めている。お前の鈍色の瞳に映る下弦の月が美しくて見惚れていれば、次第に三日月の銀縁が滲んで僕は慌てて視線をお前に戻した。
「どうした」
「ツノ太郎は優しいね」
「……お前にだけだ」
 月明かりにお前の黒髪を梳き透かしながら、僕はただお前の気が済むまで肩を貸していた。
 お前には帰るべき場所があるというのは風の噂で聞いている。所謂ホームシックになったのではないだろうか、なんて考えが浅慮であることはすぐに気付かされた。
 お前の小さな手が僕の手に重なる。
 その手をきゅっと握れば、同じ力で握り返してくれる感覚に僕は嬉しくなった。
 その瞬間、部屋に漂う空気が微かに色付いた気がした。僕がお前に対して思っていることが、お前の今の心とほんの少しだけリンクしていると考えるのは愚考なのか。僕がお前に対して抱く感情は感謝である。果たして本当にそうだろうか。
 お前にとっての僕はただの話し相手で、僕にとってもいつかお前が教えてくれた【ともだち】というものなのかも知れない。
 だけど僕はお前の笑顔が好きだと思う。どんな時でも笑っていてくれないと嫌だし、その笑顔を曇らせるものは僕が全て焼き払ってしまいたいとさえ思える。僕にとってお前という存在は最早必要不可欠だ。そしてお前も僕と同じ気持ちだと良いと願うこの感情が感謝とは思えなかった。
「ツノ太郎の手はおっきいね」
「お前が小さいだけだろう」
「私を優しく撫でてくれるこの手が大好き」
「僕もお前の笑顔が好きだ。だからどうか泣かないで欲しい」
 冷たくて柔い頬にそっと触れる。
 そうして僕らが視線を重ね合えば時間が止まったような気がした。
 微かに震える薔薇色の唇に触れてみたいという衝動が込み上げる。その感情の名前を僕はもう知っていた。だけどお前にどれだけの想いを注いでも、お前は僕の愛を孕まない。それがこの世の何よりも恐ろしく思えたのだ。それでも見つめ合う僕らに纏わりつく空気はどこか甘く芳しい。
「どうか教えてくれ、お前の唇を奪いたいと思うこの衝動の名を」
「つのたろ……っ」
 知らないふりをした。
 とっくにこの気持ちが恋だと分かっているのに、僕はお前に意地悪をしたのだ。お前の潤んだ瞳が細められて、やがてゆっくりと瞼が閉じられる。その刹那、僕はお前に口付けた。触れたお前の唇は震えていて少しだけ冷たい。このままお前の全てを喰らってしまいそうになって僕は我に返る。名残惜しく離れていく唇には僕の痕が確かに色濃く残っていた。
「ツノ太郎……ねえ今夜はずっとここに居てよ」
 蕩けた目で僕を欲しがるお前に、僕の抑えていた欲望がどんどん膨らんでいく。塵のような僅かな理性で僕は最後の駆け引きをした。
「では答えよ、僕はお前にどうして欲しいのだ」
「いっぱい、いっぱい愛して欲しい。ツノ太郎がずっと生きてきた中で一番好きだと思える恋人にして」
 恋も愛も不要なはずの僕が感じるお前へのこの衝動に名前を付けるなら、それはきっと「恋慕」なのだろう。
「ならば、千年生きると誓ってくれ。どうか僕を置いて逝かないと約束して欲しい。もう孤独な生は飽きたのだ」
 何が孤高だ。僕はずっと一人ぼっちだったじゃないか。
 孤高だなんてただの見栄張りで、僕はずっと心に抱える孤独を誤魔化していた。確かに僕にはリリアもセベクもシルバーもいる。それでもこの心の隙間風が止むことは無かった。僕はこの学園に来るようになって、茨の谷に居ては知ることがなかったであろう感情を多々知った。こうして誰かを恋い慕うという感情も、きっとここでお前と出会わなければ知り得なかったものだ。
「良いよ。ツノ太郎……私の時間全部あげるから、ずっと一緒だよ」
「愚かな人の子よ。僕に愛されるという本当の意味を知らないのだな」
 僕はお前のシャツのボタンを一つ外す。お前は自らを暴こうとする僕の手を止めようとはしなかった。
「だったら教えて。ツノ太郎が私を愛した証を、痛いくらい私に刻んで欲しい」
 ああ、どうしたら僕らは永遠になれるだろう。
 いつかお前との離別が訪れるのだとしたら、僕は宵闇に紛れてお前を隠すに違いない。
 僕の背に回されたか細い腕に、どうしようもない愛しさが込み上げる。
 此処に来て良かった。お前と出会えて良かった。
 
 もう僕は一人じゃない。
 月夜に照らされて、再び僕らはキスをする。 
 まるでそれは仮初の永遠にも似た、長い口付けだった。
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マレウス夢…No.1
初公開日: 2020年05月31日
最終更新日: 2020年06月02日
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コメント
マレウスと女監督生の夢小説です。
誤字脱字はデフォです。
間が開いている時は考えているかトイレ行ってます。
多少の解釈違いは大目に見てください。
ゆっくりマイペースに書きます。
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