大きく膨れ上がった風船ガムが、弾けた時から好きだった。時の流れに身を任せてずっと仲が良いまま。それ以下も、それ以上も、なかった。初めてキスをしたのは藤原先輩だった。その時も雰囲気に、流れに、任せたままで、藤原先輩のこと、好きだったのかも、ちゃんとは覚えていない。
放課後、オレンジ色の空、ゆるやかな風が巻き込むカーテンの中、校則で持ち出してはいけないスマホをポケットから出し、イヤホンを刺した末澤が、片方のちっこいのを渡してくる。
「うわ、いけないんだー、」「今日は部活生も少ないし、先生もそんなおらんしええの。」「……末澤って、何聞くの?」「んーと、なぁ」
右耳から末澤が好きだと言う曲が流れてくる。クサいラブソングかと思えばチルソングっぽい、イケイケなアップテンポ。
「あ、オザケン?」「知ってるん?」「うん、この曲しか知らないけど」「これ、俺好きなんよなぁ」
身体をゆらゆらと揺らせて、ときどき当たってくる同じ背丈の肩の、体温が熱くて、ドキドキする。
「……」「……」
無言の空間。お互いの息を吸う音と、吐く音しか聞こえない。右耳のオザケンが『心がわりの相手は僕に決めなよ』と歌う声色が心地いい。背中側では、下校時の生徒たちの「ばいばーい!」という声が聞こえた時、ずっと黙っていた末澤が『あのさ、』と口を開ける。
「……ん?」「……っ、藤原先輩のこと、ほんまに好きなん」「…え?藤原先輩……?、 な、なんで今、先輩の話…」「この前、……チューしてたやん、」「なっ、なんで知って、」「………っあんな、見えるとこでしてるからやん………」
藤原先輩とのキスは、そんな特別なことでは無いけれど、私にとっては隠したいものだった。それを、末澤に知られていることが、なんか、嫌だ。