今日は珍しく、ジークと二人きりでのミッションだ。特に珍しい理由はなく、久しぶりに手にした短剣の使い心地を確かめたいだけで、それには大人数で出かけても……というところに、討伐対象も中型種が一体だけ、という、肩慣らしにはちょうどいいミッションの依頼があっただけの話である。
「さて、サクッと片付けちまおうぜ」
 ジークも気楽なものだった。メイベルはこくりと頷いて、手にした短剣を握る。作ったばかりの短剣は、キースの持っているものと同じ型のものだ。しかし、普段使わない武器を持って、いきなり使いこなすのは不安がある。せっかくお揃いの武器を作ったのだから、少しでもキースに良いところを見せたい。
「つーか、珍しいじゃん、短剣なんてよ」
「色々使えたほうが便利だし……練習も兼ねて、ね」
 流石に、キースの兄であるジークに、そんな下心丸出しの本心は言えなかった。ジークは察しているのかいないのか、ふうん、と意味ありげな顔をして、崖の上から噴水広場へ飛び降りた。慌ててメイベルも後を追う。
 周囲には小型のアラガミが集まってきていた。大鎌よりリーチが短い分、間合いを取るのが難しい。昔、今よりずっと体が小さい頃は、大型の神機は扱えず、短剣ばかり使っていた。けれど、自分の死角をカバーしようと大鎌を使うようにしてから随分経つし、勘を取り戻すのは難しい。普段、感覚に頼って戦うタイプなだけに、いつもの調子で動けないのは辛い。集中していないと不意を取られそうだった。
「練習って言っても、いつもとあんまり変わらねえじゃん」
 しかし、ジークからするとそうでもないらしい。広場の周りのアラガミを片付けた後にそう言われて、メイベルはううん、と曖昧に返事をした。
「たまには、キースのやつに稽古でもつけてやってくれよ。あいつ、いつも運動不足だからなあ」
「はは……そう、かも」
 ジークがそういうのも無理はない。大体一日中、キースは神機保管庫に閉じこもって、神機の整備をしたり、研究したりで、外に出て来るのは食事とトイレの時だけ、という具合だった。兄としては心配なのだろう。
 しかし、稽古をつける……というのは、なんとも迷う話だった。キースが神機の整備や研究をするのは、好きでやっていることだし、それは結果として、ハウンドの皆の稼ぎのためになることでもある。その時間を削ってまで、戦闘訓練を……というのは、良いような悪いような、メイベルにとっては判断が難しい話だった。確かに、いざという時に、戦闘能力が高くて悪いことはない。けれど、どちらかと言えば……恋人として言うのなら、キースには危ないことはして欲しくはなくて、本人が好きで、皆のためになることをしている方が良いような気がする。しかし、運動不足というのも健康に悪いし、ジークの言うこともわからなくはないのだった。
「おーい、聞いてるかー?」
「え、う、うん」
 ぐるぐるとキースのことを考えているうちに、ジークが心配して声をかけてきた。一応、今はミッションの途中なのだ。ぼうっとしているのはまずい。
「まあ、キースのことは考えといてくれよ。とりあえずミッション終わらせちまおうぜ」
「そうだね」
 二人は神機を握る手に力をこめて、中型種のいる方向へと駆け出した。
 ミッションは予定通り終了し、ジークとメイベルは艦へと帰還した。いつも通り、メイベルはいの一番にキースの待つ神機保管庫へと早足で向かう。心配は……そんなにしていないと思うけれど、早く行かないと怒られる気がして、いつもそうしている。
 神機保管庫の扉をノックして、開けると、そこにはキースがいくつものモニターとにらめっこして、何かの分析をしているようだった。
「ただいま、キース」
「あっ、先輩! おかえり〜」
 振り向いたキースは、まるで太陽のような、キラキラした笑顔でメイベルを出迎えてきた。持ってきた短剣を差し出すと、嬉しそうににこにこと笑う。
「俺とお揃いのやつじゃん! どうだった?」
「うーん、まだちょっと、慣れないかも」
「えー、そうかなあ? 先輩だったらすぐ使いこなしそうな気がするけど」
「そんなこと……今度、キースと一緒に練習したいくらいで」
「えっ……それはちょっと……荷が重くない?」
 ジークから言われてもいたから、ちょっと誘ってみたけれど、キースはあからさまに嫌そうな顔をした。予想はしていたけれど、そこまで嫌そうにされると悲しい。しょぼくれた様子のメイベルを見て、キースは慌てて返事をした。
「うーん……ものすごく手加減してくれるなら……いいよ。たまには練習しないといけないのは……わかってるし」
「良かった。じゃあ、明日にでも」
「は、はやくない!? 心の準備ってのが……」
 了承してくれた嬉しさに、明日にでも、と言ったのが良くなかったらしい。今度はキースが暗い顔になってしまった。
「あ……ご、ごめん、いつでも良いよ。急がなくても……」
「いや……大丈夫、そうだよね、最近ミッション行ってないから、先輩も気にしてくれてるんだよね……」
「そういう訳でも……いや、そう、キースが最近運動不足かなって」
「そんなことないでしょ! いつも夜は先輩と……」
 と、キースが言い返そうとしたところで、ノックもなしに神機保管庫の扉が開いた。
「おーい、キース、神機の整備頼むわ……って、何赤くなってんの?」
 ハンマーをかかえたジークが入ってきて、キースとメイベルは真っ赤な顔で、なんでもない、と返事をした。ジークは何かを察したらしく、ニヤニヤ笑って、キースにハンマーを手渡す。おい、ほどほどにしろよ、と言い残して、ジークはその場を去っていった。
おしまい。
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