一年前の自分に果たして、こんな未来は想像できていただろうか。
社員寮が隣同士というだけで、休日に上司と二人で出かけることが恒例になるとはきっと、夢にも思わなかったはずだ。
(もうすぐ一年になるのか……)
来瞳芳香はテーブルに頬杖を付きながら、徐にそう思った。目の前には、上司の最上春雪が本日六杯目の生ビールを口をつけている。
こうして呑みに行くと、最上は決まってビールばかり頼む。稀に、ハイボールやホッピーを挟むこともあるが、ほとんど生ビール。最早無意識の粋だ。料理に関してもこだわりはない。
ただ呑み屋や飲食店をよく知っていて、目ぼしい所があると必ず芳香を連れて行った。
端から見れば、最上と芳香の関係は世間一般の上司と部下の関係に照らせば、行き過ぎていた。それは芳香本人もよく理解している。だがそこに色恋沙汰は微塵もないのもまた事実だった。
入社後、一週間の研修を経て、初めて出勤した日のことを思い出す。
初出勤の日、それが最上との初対面だった。
実際は社員寮への引っ越しの折、面識はあった。ただその時のことを芳香はあまり覚えていない。後に最上から言われて初めて知ったのだ。
初出勤の日でさえ、正直なところ、あやふやだった。同期の霜村ミライとの同時配属で、いくらか気は楽だったが、緊張でそれどころではなかった。それでも、最上がホール回しのためにシフトが被っていたことは覚えている。
教育担当は最上ではなく、後に因縁の相手となる、店で最も古参の上司だったからだ。
「――本日づけで日下店に配属しました、新入社員の来瞳です。よろしくお願いします」
元来、芳香は感情を表に出さない。その日は緊張で輪をかけて無表情だったに違いない。まだ、営業用の笑顔を使い分ける術を持ち合わせていなかった。
「チーフの最上です。はじめまして」
最上とまともに会話をしたのは、休憩時間の時だ。
「は、はじめまして‼ 来瞳です」
「うん。寮、俺の隣だよね」