「俺は山姥切国広。足利城主長尾顕長の依頼で打たれた刀だ――」
 そこは何もない空間だった。
 初めて人の身を得た山姥切国広が見たのは、風変わりな姿の女性だった。
 巫女のような紅袴。そして女性の身でありながら白い狩衣を纏っているが、何よりも目に留まったのは、人でありながら本来、人の耳が備わっている箇所からは、栗毛色の髪と同色の長い兎の耳が垂れ下がっていることだ。
(こいつは……人間か?)
 ボロボロの布越しに、山姥切は目の前の女性を凝視する。当の本人はその視線に気づいていないようだった。
「はじめまして、山姥切国広。私が貴方の主。不束者ですが、よろしくお願いします」
 主だと言いながら、へり下った彼女の振舞いに山姥切は呆気に取られた。
 その会話が一種の契約成立を意味していたのだろう。ただ何もない白い空間が一瞬にして、日本家屋の一室に様変わりした。
 六畳ほどの空間には、文机と姿見だけが出ていた。
(何だ、ここは……)
 突然の空間転移に、山姥切が辺りを見回していると、近距離で声が上がった。
(何だ⁉ 敵襲か⁉)
  思わず本体に手をやったものの、そこにいたのは姿見を前に呆然としている彼女の姿。後ろ姿を見て気づいたが、臀部には兎の尾が生えている。
「え……なっ、え……何で兎⁉」
「あんた、元からその姿なんじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ! ちゃんと人間でした‼」
 その言葉がむしろ山姥切には驚きだった。
(そもそも気づいてなかったのか……)
 だが、当の彼女は途端に黙りこんでしまった。
 『人間でした』
 その言葉に気づけるほど、その時の彼はまだどこまでも付喪神だった。
 
 
カット
Latest / 60:13
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
刀剣乱舞二次創作で「はじめまして」
初公開日: 2020年04月21日
最終更新日: 2020年04月21日
ブックマーク
スキ!
コメント
うさ耳本丸に初期刀として顕現した山姥切国広のお話。
七夕の夜に
人事異動で離れ離れ、新型コロナの影響で会えない上司部下が、七夕の夜にオンラインでやり取りする話。
六合九里
創作上司×部下で「はじめまして」
部下♀視点で、初めて上司♂に会った時の話。そんなに続かないです……。
六合九里