貴方は瑛音で『新しい関係なんかいらない』をお題にして140文字SSを書いてください
お題は↑
140字は守れないよ!
「おとやん、鳳のお兄ちゃんの方と仲いいみたいじゃん」
 それは、楽屋で落とされた大きな爆弾だった。
 芸能界の兄的存在である寿嶺二からそう言われて、音也は飲んでいた水を思わず吹き出してしまう。
「え! あ、そ、そうかな?」
「そうだよ~。なんだか一緒にいること多いみたいだし、れいちゃん嫉妬しちゃう~」
 噴き出した水を拭いだした音也と一緒に目の前の机を拭きながらおどけたように嶺二が話しかける。
 今日の音也は、嶺二と我関せずというようにソファーに寝転んでいる蘭丸の看板番組に出演する日だ。毎回用意された楽屋ではなく、嶺二と蘭丸のいる楽屋に入り浸っている音也は今日ばかりは自分の行動を恨んだ。
 以前から勘の鋭い先輩と思っていたがここまでとは……。
「う~ん。そんな自覚なかったなぁ」
 嘘だ。
 以前は瑛一に付きまとわれていることの多かった音也だが、最近では音也の方からも瑛一を誘うことも増えてきた。そのことについてどう表現していいか自分でも分からない。
「ねえ、本当に?」
 ふとに音也の手を掴み覗き込む嶺二に思わずどきりとしてしまう。
 嶺二の心配ももっともだ。何故なら、音也と瑛一の出会いはあまりいい印象を与えないものであったからだ。特にトキヤなんていまだに音也が瑛一と会うことを良しとはしていない印象もある。
「うん。ってか、れいちゃんそんなに俺と遊びたかったの? 照れるな~」
 慣れ親しんだ仮面を付けておどける音也に嶺二は大きなため息をこれ見よがしに吐く。
「も~。おとやんがそういうなら大丈夫だと思うけど、何かあったらこの寿先輩にちゃんと言うんだよ!」
 めっというように人差し指を立てて言い聞かす彼のあまりにも年上とは思えない行為に苦笑交じりにわかったと伝える。
「失礼します。みなさん、そろそろ出番です」
 天の助けというように、スタジオの準備ができたことをスタッフが知らせに来た。
「はーい、今行きまーす!」
 そんなスタッフの声を受けて、まず嶺二が楽屋から出ていく。
 芸歴が長いだけあってというべきか、だからこれだけ長く芸能界に入れるというべきか。嶺二は一番にスタジオ入りをし、セットの確認やスタッフとの打ち合わせを念入りに行う。
 それに続くように楽屋を出ようとした音也の腕を誰かが掴んだ。
「えっと……」
 五センチほどしか違わないが、一七〇センチ台と一八〇センチ台ではやはり威圧感が違う。その灰色と深紅の瞳に見下ろされ、たじろいでいる音也に大きなため息が降り注ぐ。
「お前は頼るのが下手くそだからな……」
「うっわ!」
 そう言ってガシガシと音也を撫でて蘭丸も楽屋を後にする。
「もーセットがぐちゃぐちゃになったじゃんー」
 慌てて楽屋の鏡でセットを直していると自分の赤い瞳とかちりと目が合う。
「それにしても、みんな心配性だよね」
 鏡の中の自分に言うと鏡の中の自分も苦笑いをしている。
 仲いいもなにも、大丈夫もなにも、自分と瑛一がどうにかなるわけないのだ。
 彼はただ音也が珍しいから、ただ自分の理想の音楽を奏でる仲間が欲しいから音也に構っているだけだ。
 分かっている。今までもずっとそうだった。
 施設にいた時から、その境遇からか自分に対して心を砕く人間は大勢いた。通っている学校の教師・近所の住人・同級生たち。しかし、そんな人間に限って音也が己の理想とする姿とは別の一面を見せるとみんな興味を失って離れていくのだ。こちらがどんなに相手を信頼し気持ちを向けていたとしてもだ。彼らは「可哀そうな一十木音也」に「親切にしている自分」に酔いしれたいのだ。それが悪いとか傷付いたとかはもうどうでもいい。そう思う時期はもうとうに過ぎ去った。
 ――きっと瑛一だってそうだ。
 いま音也を構い倒していたっていつかは離れていく人間だ。今は珍しいだけで、これで慣れたり新しい関係を築こうとしたとたんに離れていく。
「新しい関係なんかいらない」
 そうぽつりと呟く。
 こちらがどう思っていたって人の心は変えることはできないし、期待したところで落胆が大きくなるだけ。いまの音也にできることといったら少しでもその時期が遅くなるように構われたり、たまには自分から構ったりして適度に刺激を与えることだけだ。
 そのために、タイミングを計って瑛一を構ったり、構われたりしている。
(本当ずるいなぁ、オレ……)
 矮小な自分が嫌になる。
「あの……一十木さん大丈夫ですか?」
 あまりに音也が遅かったからか呼びに来たスタッフと鏡越しに目が合う。
「ごめんごめん、さっき蘭丸先輩からぐちゃぐちゃにされちゃったんだけどだいじょうぶかなー?」
 そうしゅんとした顔でスタッフに尋ねると「大丈夫ですよ」と安心したような顔を見せる。
「よかったー。今行くね!」
 そう言って音也は「一十木音也」の表情で楽屋を後にした。
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