別に好き勝手やってるわけじゃない。今日は早く下校して、駅前のCDショップに寄って予約してたCDを取りに行って、家でゆっくり聞こうと思っていたのに。まぁ、CDは逃げないから。でも、押し付けられた仕事は今日中にやらなければ。うちの担任は学年中でめんどくさくて有名なのだ。
日誌をぺらぺらとめくる。記入者名の所は私の名前ばかりがよく目について、なんだか情けなくなってきた。誰の得になるって言うんだ。自分の仕事くらい自分でやれ。どこかで誰かが楽をするから、こうやって私みたいにカワイソウナヤツが出てくるんだ。
悶々と考えていると、何だかやっぱりとってもとーっても自分が情けなくなってきて、喉の奥がぐぅ、と苦しくて熱くなる。あぁこれは、泣くやつだ。だって、泣きたくもなるじゃないか。こんなに頑張っても誰も見てくれない、誰も褒めてくれない、慰めてくれない。
がこん、と音を立てながら机に突っ伏した。学校の机は湿気った木の匂いがする。こんなに悲しいのに涙が出ない。
『あれ、また残ってる』
「...へ、あ、にのみや、せんせい」
『お前いつまでこんなことやってんのよ』
「いつまでって」
『暇人扱いされちゃって』
「べつに、今日は暇人じゃないです」
今の今までひとりぼっちだった教室に二宮先生が来るとなんだか、心がじわじわしてくる。きっとこれも泣きそうになるやつだ。それでも、私から涙は出てこない。
泣けないから、大丈夫と声をかけてくれない。
なんで私は上手に泣けないんだろう。
『いっつも偉いね、頑張ってて』
「...そんなこと言ってくれるの先生だけですよ。」
『俺だけ?』
こくん、と頷くと先生は笑った。先生は少しおかしな所がある。本当なら可哀想と思うところで「よかったね」と言うのだ。俺だけでよかったね、と。
よっこらしょ、と大袈裟に言いながら隣の席に腰かける。いつも隣にいない先生が隣にいるみたいだ、否、隣にいる。
『俺だけでいーでしょ』
「味方一人だけですか」
『足りない?』
「...多分、足りる」
先生は、私の手元にあった日誌を取り上げて、私を抱き寄せた。大丈夫、そう言われているようだった。
『ほーんとに、泣くのが苦手なんだねぇ』
「涙出てこないんです、いつも苦しくて泣きそうになるのに」
『泣かないとだめよ』
「でも」
『じゃないと助けに来ないよ、俺』
泣いてくれなきゃわかんないよ、俺の前だけではいいんだよ、と言われるとひどく安心して、じわじわと顔を埋めていた先生の服が濡れた。