吠えろグロテスク
概要です
まだ王子としての顔を保ててる時期です
響く慟哭とは異なる声に困惑する殿下
You、それ恋じゃない?????わかる
相手を傷つけるものかどうかの判断(大事だね)
「これは、お前を傷つけてしまうかもしれない」
クロードの立場悩むなーでもハッピーエンドなら両思いか脈アリくらいにしとく?うーんわかる
グロテスク=こいごころ
最後はハッピーにしようね、はい!
腹の奥底に、到底人に見せられないような獣を飼っていた。
ある時分を超えて、正確にはとある出来事を経て産声を上げたその獣は、きっと鳴かないだけで内に存在していたのだろう。身体中に遺憾無く馴染んで、そしてその顔を奥深くに潜ませることで変わらぬ王子の姿を保ってきた。
クロード=フォン=リーガン。
士官学校で級長として同じ立場にある彼。どうにも掴みどころがなく、風のようにその身を軽やかに踊らせる。いつからだったか。彼の姿を見るたびに困惑が浮かびあがり、表層に出る前に押し留める。何に起因して、どのようにこの感情が反応を示しているのか。
今日も書庫でいつも通り本を読み漁っていたクロードがこちらを見つけ、片手を上げる。その拍子に揺れる三つ編みと金の髪飾り、そしてディミトリを認めて微笑む目尻に、喉が渇いた。
獣が疼く。
奴を喰いたいと、今日も深遠で唸る。
憤怒、慟哭、憎悪。
死者たちの、彼らの無念をこの手で晴らさんと語りかける声に耳を傾けて生きてきた。
それは復讐心で、殺したい相手は明確である。クロードはレスターの者であれには無関係だ。ここ一年ほどで突然出てきた嫡子と言えど、それ以前でファーガスに関与はしていなかっただろう。会話の折に窺うように話題を振るが、それらしい手応えはない。何かを探っているディミトリに猜疑心の塊と自称する彼は気が付いていても特に何かを告げることはなかった。
そもそも浮かぶのはいつも頭に響く憤怒や慟哭、憎悪のようなものではない。けれど体の中の獣はそれらを増幅した時と変わらず喉を鳴らして空腹を訴えてくる。原因は異なるはずなのに同じ結果が生み出されて、読み解くには材料が足りなさすぎた。あるものと言えば獣を喜ばせるような、仄暗く渦めく名前のない感情だけだ。
「そういえば、あんたのとこの先生。この前猫に好かれるためか知らんが猫の手をして鳴いてたんだよ。中庭で」
探していた本を片手に呼ばれるがまま隣に着席し、時折クロードが振る話題に相槌を打つ。身振りでの感情表現も豊かなクロードはこんな感じでさ、と手を丸くしてにゃーんとなく。先生の真似なのだろうが、ディミトリの見た事のないあの先生の姿は正直似ているのかよくわからない。基本的に真顔だが案外お茶目な部分もあるあの人だ。修道院の様々な場所で寛いでいる犬や猫たちに魚をやっている姿も見かけたことがある。そのうち歩いていれば見かけられるかもしれない。
「ディミトリもやってみろよ。ほら、こんな感じで」
細さを感じさせながらも弓を弾く男のしなやかな手が伸びる。書物を支える手に触れようかと瞬間。目の前が白に染まる。
「さわる、な!」
素肌と、籠手が打ち付ける音がやけに響いた。数えるほどしかいない人の目が全て背に突き刺さる。ぞわりと衝動的に駆け巡るものを抑え切れず、立ち上がった拍子に椅子が倒れる。熱く、いつ沸騰するかわからない脳を自制できないまま待てと名前を呼ぶクロードの静止も跳ね除けて、全部振り切るように置き去った。
触れれば壊れる。
夜が明ければ朝が来ると同じ曲げられない世の摂理としてディミトリに刻まれている。王家に引き継がれるブレーダッドの紋章。その影響か腕力は人より優れ、裁縫でもしようものならハサミすら握り潰してしまう。常に何処かで戦いが行われているフォドラでは力を持つもの、紋章を宿すものが優秀だと認められてきた。確かにこの力は戦では役に立つ。だが、本当にただ触れたいだけのものでも、容赦なく破壊してしまう。
ディミトリは、どうしようもなく怖かった。士官学校での課題で、それ以前より国で槍を持ったあの時からその手は夥しい数の人を殺してきているというのに。クロードを壊してしまうことは、血の気が失せて苦悶に満ちた表情で恨み言を吐く姿を妄想しては指先が震えた。
どれくらい時間が経過したのか。どの道順で自室に戻ってきたのか記憶にないほどで、靴も脱がずに寝台で膝を抱えてただ怯えていた。
軽く扉を叩く音が転がる。ディミトリ、と呼ぶ声はクロードのものだ。書庫で突っぱねたというのに、ディミトリの借りた本を届けにでも来たのか。隠したがりなはず男の心配の色が見えて、一層獣が暴れ出しそうになる。どうにか絞り出した声は、今にも泣き出しそうなほどに揺れていた。
「俺はお前を壊してしまうかもしれない」
「壊す? ああ、王家の剛腕の力か。確かにそれは物凄いらしいな。実際どこまでの物なのかはハッキリとは見ていないが、演習で握った槍の柄を潰したのは衝撃だったな」
「今度はそれがお前の腕かもしれない」
「ディミトリ、あんたは俺が嫌いなのか?」
「違う!」
衝動的に叫んだ言葉に、自分自身が驚愕する。二元論で語れる世界ではないけれど、嫌いではなく、むしろ好ましくすら思っている。その重さは測りきれないが、輪郭は薄ぼんやりとその姿を表した。
「なら、大丈夫だろ。多少加減を間違えたって、こっちも鍛えてるからな」
「その細腕でか、」
「おっと、王子様に素敵な贈り物をすべきか? 昨日手作りした特製の毒薬とか」
茶化すようにしながら、ディミトリの様子が戻ったことに胸を撫で下ろしている。そんな雰囲気を感じたのは都合のいい妄想だろうか。気が付けば自然と笑みが漏れ、腹奥の獣は小さく吠えたきり形を潜めていた。
そろそろ開けてくれよ、ともう一度鳴らされた扉を開き、茶会に誘えばいいだろうか。未だ持て余した気持ちの果ては見えないが、当座のところは彼の笑顔が見たい心の声に従ってしまおう。
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