私たちが天使と呼んでいる存在が縦しいるとして、それは本当に天使なのだろうか。
 私たちは思い出すこともできぬ昔日に、食べることなど罷りならぬと言われた果実を口にしてしまった。そうして髪は色をなし、私たちの知る天地を返してしまったのだ。
 私たちは楽園を失った。恥を知り、年を取り、争いを起こした。
 然り而して、私たちの見上げる空は、天地の返ったその上からやってきた使いは、果たして私たちの知る天使だったろうか。(「そして私は天上に堕つ」より)
↑これがベースの話です。
天使って何やってんの
「暑い」
 私が生きていたとしたら、第一声はそんな凡庸に溢れた言葉だっただろう。
 天から射す光のなんと眩しいこと。まだ7月のはじまりだというのに蝉が生命の燃え盛る様を矢鱈と喚いている。
 そして人間の一日も始まったばかりだ。日と気温が上り続ける午前に、命知らずな人間たちは陽炎を散らして歩いている。地上に慣れない私は蝉の交尾欲求の発露に耳を塞ぐしかできないけれど、彼らは摂理に従い滴り落ちる汗を拭く間も惜しんで、黙々と目的地に向かっているようだった。
「今日が初めて地上に降り立つ日だっていうのに。最悪だわ」
 そう独り言を漏らして口を噤む。
 ――いつもそう。何でもかんでも口にして、あなたの悪い癖。もうすぐ一人前なんですから慎みを保ちなさい。それから……
 彼の小言を思い出して、近くを歩く人間と同じ顔になってしまう。
 でもこの独り言は仕方ないと思うの。私としては月に照らされて金に輝く小麦の上に降り立って、沢山の人間が嘆美の声を上げるのが理想だったから。
 それがなに⁉ 輝くどころか熱を反射して揺らめく地面と苦汁と辛酸を舐めたような顔で歩く人間! そして初めはそれを唖然と眺めていた私! 人こそ沢山いるけれどただの歩行者天国じゃない!
 一頻り駄々を捏ねて、ふと我に返る。「どうして日本なんかに来てしまったのかしら……」
 黄金小麦と賛美こそ期待していなかったものの、当初の予定では人間が眠っている夜のヨーロッパそのどこかに降り立つ予定だったはず。それなのにいざ来てみれば炎天下の朝で歩く人は軒並みアジア顔、看板に書かれているのはどれも漢字と平仮名ばかり。居場所がわからなかった私でも使用言語で国だけは特定することができた。
「まあいいわ。どこに来たって結局やることは変わらないもの」
 小言を言われる心配のない独り言を合図に上空へと浮かぶ。
いつの間にか1時間過ぎてたので配信終了します。ありがとうございました。
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