色々説明をしてもらおうという話
そもそもの事の始まりは、空間を繋げる技術の開発が成功したことだった。
細かい理屈は数式の塊と論文の山なのでおいておくとして、つまりはワープもしくは瞬間移動が「道具」として使える形になった。つまりポータルの事だ。大変と普及が早かったのは、それだけ便利だったという事だ。
なの、だが。空間を繋げるとはつまり、空間を歪める、という事でもある。空間が歪めばどうなるか。本来なかった力がかかって、空間が歪んだ結果、文字通りの意味で、世界に「皺」が出来たのだそうだ。
何だか実は知らないだけで随分とファンタジーだったらしいこの世界には、宇宙を含めて世界を巡る「力の流れ」というものが存在するらしい。そしてその「力の流れ」がその「皺」に溜まって出来たのが、あの仮称異世界……『スポット』と、いうのだそうだ。
そしてその『スポット』が出来れば、それに巻き込まれる人もいるし、そこから生還する人も出てくる。となればもうちょっと広く知られていてもおかしくない筈なのだが、ここでその人たち……マスター曰くの「黎明期」に「冒険者」。当時は「生還者」とも呼ばれていたらしい……に、待ったをかけた「存在」が居たのだそうだ。
これこそが実は随分とファンタジーだなぁと思った理由なのだが、そのものズバリ、近所の神社に祀られている神様だ。他にも、伝承が残ってる妖怪とかも含む。仏教だと仏様か。教会だと天使になるのだろうか。
まぁそんな「明確な人外」達が「冒険者」に伝えて、大きく情報を広めるのを阻止した内容は何だったか、というと。
1.『スポット』(=「世界の皺」)を認識する人間が増えると、内部の状況が現実(=通常の世界)に影響してしまう
2.『スポット』内の状況が現実に伝わらないように、記憶や存在のあれこれを操作しているのは自分達である
3.自力で生き残った人間は『スポット』及び「力の流れ」への耐性が出来ているので、例外的に記憶を持ち帰れる
……そりゃ伝えられんわ。伝えたら最悪、「居なくなった」人達が全部、死んでしまうという事だ。一体人口が何割減る事か。
そして、『スポット』を攻略した際に「居なくなった」人達が戻ってくるのも、この神様や妖怪たち、「明確な人外」のお歴々が必死に何かこうアレコレ記憶や空間や因果律や、そんな感じの物を操作してフォローしているお陰らしい。
なお、そういう事になって、フォローを頼んできた神様達の「上」が居て、これが「世界の意思」と言うらしい。……創造神より上ってどういう事だろう。我考える、故に我ありの究極か?
さてまぁ人間の発明で空間が大変な事になってしまいつつある訳で。ここでその「世界の意思」から追加爆弾。もとい情報があった。
何でも『スポット』は放っておくとその深度を増して、どんどん厄介になり、最悪世界に穴が開いて……そのまま、シャボン玉が割れるみたいに、世界終了してしまうらしい。
広大な宇宙を含めた世界が、こんな小さな星の動き一つで終わるものなのか? という疑問はあったらしいのだが……逆に、小さいところで動きがあるのがダメなようだ。
「大きい皺ならどうにかなるが、細かすぎて対処できないんだと」
「蟻の穴から堤も崩れる?」
「そういうこった」
と、いう話を、時間と場所を指定され、夜中に部屋を抜け出して駅と反対方向のぽつんと建ってる感じなバーでマスターから聞いた。ちなみにバーの名前はギルド名と一緒。ギルド本拠地兼カモフラージュされた集合場所なのだそうだ。
眠い所に情報をぶちまけられて、ちょっと処理が追い付いていない感じだ。が、仮称異世界は『スポット』で、自力で生還しないと内部での記憶は持ち帰れなくて、『スポット』はガンガン潰していかないとまずい、というのは理解した。
他は……名前や呼び方関係で、結晶は魔石、攻略は踏破、ボスはコアエネミー、中ボスはウェッジエネミー、魔法と魔術は別、パチンコで撃っているのはどちらかというと魔法。こんな感じか。
「はいマスター」
「んだ、新人」
「ギルドの必要性について解説お願いします」
「そーだな、まだ基礎知識だけだからな」
さてそんな感じで「冒険者」達は『スポット』の踏破を行う事にしたのだが、無償で命はかけられない。その辺は「世界の意思」も分かったようで、いくつかの報酬や便利システムを作ってくれたのだそうだ。
その1つが「ギルド」であり、所属している「冒険者」同士で『スポット』の進捗状況を共有できるようになった。つまり、助けに行ったり、「後は任せた!」とかが出来るようになる訳だ。
ちなみに報酬の代表格は、魔石を現金化できる事。マジか。
「俺だとそうだなぁ。月に3つ『スポット』を踏破して、本業越えてる」
「『スポット』長者?」
「凄腕の「流れ」になると年収が億に届くとか聞くな」
「ひぇ……」
ちなみに売った魔石は元々「力の流れ」が狂って溜まったものなので、世界に戻して元通り流すのだとか。それで世界自体の強度が戻る事で、少しでも世界終了を遅らせられるのだとか。
他にも報酬として、スキルを手に入れられたり、装備を強化したり出来るようだ。進化は強化に入る。ファンタジーだなぁ。
そして「ギルド」の機能として大きい物はもう1つあり、本拠地周辺の『スポット』を集めて溜める事が出来るらしい。つまり、周辺が平和になる、という事だ。
「とはいえ、ギルドの増強には大量の魔石が要るし、強化毎にコアエネミーが落とす球の魔石が絶対必要だ。特に重要な機能になると、コアエネミーの中でも一定以上強い奴が落とす真球の魔石が必要になる」
「うわぁ、レア度高そう」
「実際高い。入手難易度も市場価値も、売値という意味でもな」
「うわぁ」
で。マスター達の『アベンチャーエール』も頑張ってギルドの増強に努めているのだが、この片田舎ではどうしても人手が足りない。そうなると集めきれなかった『スポット』はその辺に出現し、巻き込まれる人が出る、と。
そして『スポット』は難易度によって、浅型と深型にざっくり分けられる。もっと細かい数字の区分もあるけど今はそれで十分との事。そして、手が足りない「冒険者」はより緊急性が高く、報酬も良い深型にかかりきりで、浅型まで手が回らない、のだそうだ。
で。ちまちまこの半年弱、月一ペースで攻略……踏破していた『スポット』は、あれは全部浅型になるらしい。なるほど、あれで難易度は低いのか……。
「ギルドに登録すると、便利だぞー。万一があっても仲間で助け合えるからな。装備の強化も出来るし、時間が来る前に撤退するとかも出来る。つーか、普通はギルドの仲間内で紹介されて「冒険者」になるもんだ」
「へー」
「ウチは良心的だぞー。ノルマも無ぇし、基本は個人主義で不干渉だ。地元密着型、これでも一応、一般被害の多い浅型の踏破がメインだしな」
「ほー」
「後、装備の作成もやってるから、お前のそれで撃ち出す弾とかも多分作れる。それに、スキルの入手はギルドでないと無理だしな。枠今何個開いてるか把握してないだろ」
「してない」
ちなみに枠とは、今まで仮称で装備枠と呼んでいたものらしい。ボス、もといコアエネミーが撃破されると、その時『スポット』にいた全員が貰えるようだ。
……おんぶにだっこで枠だけ増やす奴が居そう。とは思ったが、人手がとにかく足りない「冒険者」界隈だ。スキルが増えればやれることが増えるので、役に立ちさえすれば別にいいらしい。
まぁ、そもそもの「最初」もそうだしなぁ。具体的にはこのフード付きスーツコート。これが無いとやってられない。
「で。説明もしたし出来ればウチに所属してもらえるとありがてぇんだが?」
「弾は消耗品だから換金が大変魅力的」
損がある訳でもなく、説明も聞いたし他の「冒険者」にも興味がある。
という事で、晴れて無所属から、ギルド『アベンチャーエール』の所属になったのだった。