実はやらかしていたという話
強かった。
何がって、仮称ハンマーおじさんが。
……前に1対1で戦った時の仮称リッチは、無限湧きする普通ガイコツの一掃に黄色いビー玉が尽きるんじゃないかと思いながら何発撃ち込んだことか分からない程だったのが、あの、打面の尖ったハンマーで一撃だった。なぁにあれぇ。
「誰だ? 出てこい!」
しかもさして疲れてる風にも見えないんだよなぁ。ハンマーを右肩の上にかつぐようにして周囲を見回している。周囲には普通ガイコツが落とした結晶がゴロゴロ転がっているし、仮称リッチが落としたほとんど球体の結晶も拾う様子が見えない。
……当然の警戒か。何せあっちからしたら、突然雷が落ちてガイコツが一掃されたって認識だ。その隙を逃さず仮称リッチを一撃必殺したのは素直に強い。けど、そんな一撃を撃てる奴が近くにいて、正体不明とか、まぁ、うん。
なので、大人しくボスエリアギリギリの端っこに入っていたビルから降りて、姿を現すことにした。ただしこちらも警戒はしたまま、つまり左手でパチンコを持ったままだ。
「邪魔だった?」
「あ、んん? ……人間か?」
「人間だけど」
……いくら怪しいからって、その第一声はどうかと思う。いやまぁ、フード付きのスーツコート、それもサイズがあって無くてすっぽり全身覆う状態だから、怪しいのは否定できないんだけどさ。
ちなみに隠密とか素顔バレ防止、と思いながら強化したら、どうやらその辺の補正が付いたようだ。だから、声も細かい事は分からなくなっている。筈。もちろん顔も見えないし、風かなんかで突然フードがめくれる、という事故も無い。
右手は肩に担いだハンマーを掴んだまま、左手でつるりと自分の頭を一度撫でる仮称ハンマーおじさん。はー、と、どこか感心したような息を零して、そのまま物珍しい視線を向けて来た。
「いんや、助かった。ありがとうよ。正直仕切り直しも考えてたからなぁ」
「どーも」
「そんで、見ない顔だがどこの所属だ? それとも余所からの「流れ」か?」
……所属、と言われても、そもそも組織があるのだろうか? いや、あるんだろうな。仮称ハンマーおじさんが嘘をついている訳ではないだろう。何というかこう、極々当たり前のことを聞いている顔だ。
そしてそこに並んだという事は、たぶん「流れ」っていうのはこう、流れ者とかそんな感じだろうか。え、もしかしてこの仮称異世界を何とかしながら旅をする人とかいるのか。なんて余裕な生活。もといお財布に優しくない。
……しかし、ここで嘘を吐く理由も無いな。素直に答えるとしよう。
「所属?」
「……おいおい、あの規模でスケルトンを一掃しておいて? ハイリッチの体力もほとんど消し飛ばしておいて? 新人のふりは通用しねぇぞ。どう考えても黎明期からのベテランだろ」
「黎明期?」
「ははは。あのクソ発明が広まってこの『スポット』が出始めてからだ。俺達冒険者の常識だろうが」
「常識と言われても。……「最初」に巻き込まれて、ようやくもうそろそろ半年、ってとこだけど。ちなみに、これが他人との初遭遇」
スポットとか冒険者とか、うん、分からん。なんか色々知ってそうだなこの仮称ハンマーおじさん。本人の言葉を借りるなら冒険者。多分、先輩に当たるのだろう。
なので、教えて先輩! と素直に聞き返し、こちらの情報を開示して、首を傾げると……うん。なんか、固まってしまった。
かと思うと目をむいて、驚愕の顔に。
「……半年? はぁ!? はんとしぃ!? いや、初遭遇って事はおま、1人だけでここまでやれるようになったってのか!?」
「え、だって、説明書も案内もなかったし……」
「嘘だろ!? じゃあ一番最初に巻き込まれた時とか武器とかどうしたっつーんだ!?」
「なん……だろう? 突然景色が切り替わって、絶対持ってなかったものを持ってて、ナニコレって思ってる間に、気づいたら元の場所に戻ってた……?」
また素直に答えると、左手で自分の頭を掴んで天を仰いでしまった。いや本当、「最初」については自分でもよく分かっていない。今から考えると、「誰か」が攻略? 直前の仮称異世界に迷い込んで、そのまま「誰か」が攻略? したのだろうけど。
ちなみに、何故パチンコを使う事に思い至ったかと言うと、それは明快だ。何故なら、その次に巻き込まれた時、部屋に置いてきたはずのパチンコがまた手にあったからだ。
……その時の一般エネミーは、ここと同じくガイコツだった。のろのろしていたが、錆びついた剣を振り回してきたから、落ちてた小石をパチンコで撃って撃退したのだ。で、結晶が落ちたからそれを拾い、うっかり砕いて自分を強化してしまい、その後何度か巻き込まれる事で、今分かっているルールを把握した、という感じだ。
「半年、半年前っつーと……あれか、「英雄」サマの浅型『スポット』一掃の時に巻き込まれてそのままって感じか……? いやしかし、それであの威力だと……?」
先輩の筈の冒険者は自分の顎をがしがし触りながら何かぶつぶつと呟いている。……今回の一撃はだいぶ、威力的な意味で新人とは思えないものだったようだ。いや、そりゃそうだ。今出せる上限いっぱいの火力なんだからそりゃそうだ。
さてどこまでタネを明かすべきだろうか。身バレはしたくないが情報は欲しい。拘束されるのはノーセンキューだが助けは呼べるようになりたい。困ったな、そろそろ考え事から戻ってきてくれないだろうか。
と思ったのが通じたのか、左手を顎から離して腰に当て、こっちに視線を戻してきた。まだ若干疑いの目で見てくるが、1割ぐらいは信じるつもりになったのだろうか。
「そういやまだ名乗って無かったな。俺はギルド『アベンチャーエール』のマスター、ガンツだ。そのままマスターって呼ばれることも多いからどっちでもいい。ハートアームはこのクラッシュハンマー。お前は?」
「……無所属、新人。名前も、考え中? 呼ばれた事ないし。……ハートアーム?」
ギルドかぁ。と思いつつ名乗り返す? と……またしても天を仰いでしまうマスター・ガンツ。どっちで呼ぼうかな。
「……最初に持ってた武器だ。絶対持ってなかったものがあったんだろ? それだ。枠を食わない基本装備で、他のと違って強化上限も進化上限も無い、個人用のユニーク装備だ」
「なるほど。強化とか進化とか他のとかも気になるけど……それなら、これ」
左手をコートの下から出して、そこに握っていたパチンコを見せる。競技用のようなそのゴツい「武器」を見て……ゴン、とハンマーを落として、両手で頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
「…………進化も付与も無しか…………っっ!!!」
うーんこの。
……あれかな? こう、ゲームで言うと、初期装備かつ初期職業縛りでレベルカンストしちゃった人を見る感じかな?
おおう、例えてみると結構絶望的なことしてるな?
「……よし。中身がどっちか分からんが、お前」
「うん」
「ウチに来い。基本から色々教えてやる。つーか教えさせろ。存在自体がほぼほぼ爆弾とか危な過ぎて放置できん」
存在自体がほぼほぼ爆弾だって。わぁい。