『駆け出しの画家の山姥切国広と、幼馴染の大倶利伽羅がタコ焼きを焼く話』
一人暮らしをするのに買った電化製品と言えば、炊飯器くらいだ。まあ米があればなんとかなるだろうという考えで。
それを獅子王に話したら、タコ焼き機は必要だろ? と引っ越し祝いに頂いた。
炊飯器とタコ焼き機。ちぐはぐなのになんだか安心するラインナップだ。
「本当に炊飯器とタコ焼き機しかないんだな」
一番に家に入れた大倶利伽羅には箸もないのかと呆れられて、ショッピングモールに買い物に来た。どうせ大倶利伽羅も入り浸るのだから、食器は二人分買うつもりでいる。
雑貨屋の棚には大中小様々な茶碗があって、正直どれがいいのかわからない。一度手にしてみて、触り心地や重さを確認してみる。
「大倶利伽羅の茶碗はこれくらいか?」
「自分のを買いに来たんじゃないのか。どうして俺のを聞く」
「大倶利伽羅もしょっちゅう家に来るだろ。茶碗は必要だと思ったんだが、来ないのか」
「行きます」
大は小を兼ねるからって、小丼を茶碗代わりにしようと提案したら、すぐに豚になるぞと言われて戻す。
大倶利伽羅は黒い茶碗を買って、俺は白地に青い放射線状の模様が入った大きめの茶碗にした。
「これ、他のやつに使わせるなよ」
「大倶利伽羅がそうしたいならそうする」
大倶利伽羅はあまり納得していないようで、難しい顔で店員から新聞紙に包んでもらった茶碗を受け取った。
「箸はどうする。プラスチックか?」
「使い捨ての割り箸でいいかと思うんだ……が……。ダメらしいな」
「せめて、竹の箸にしてくれ」
洗い物は極力減らしたいから、使い捨ていいと思ったんだけどな、大倶利伽羅は気に入らないらしい。
百円ショップで何膳か入った竹箸を買って、大倶利伽羅の機嫌は少し上向いた。
タコ焼き機を使って昼飯にしようという案は大倶利伽羅の機嫌をさらに上昇させたようで、一階の食料品売り場でタコ焼きの材料を買う。
卵、小麦粉、油、長ネギに紅ショウガを籠に入れて、ボイルタコでまたもめた。
「こっちのタコの方が大きい」
「どれだけ食べる気だ。そんなグラム数要らないだろ」
「いっぱい食べたい」
「節約しろ」
結局ボイルタコは小さいものになってしまった。
帰ってきてタコ焼きを作ることになった。手洗いうがいをして、準備完了。大倶利伽羅が百円ショップで買っていたボウルに卵と水、小麦粉を入れて混ぜているのを見る。もう少し混ぜておいてくれと渡されて箸でぐるぐる混ぜるが、どうも大倶利伽羅がやっていたときのようにうまくいかない。俺がやるんだ、こんなものかと思いもした。大倶利伽羅はレジ袋から長ネギを取り出して洗っている。
長ネギを切るところで気が付いたが我が家には包丁がない。
流石に大倶利伽羅も笑って、この家にはなんでも持ってこないと……と呆れられることになった。
「キッチン鋏ならあるぞ」
「今回だけだ。今回だけだからな」
大倶利伽羅は器用にキッチン鋏で長ネギを小さく切っていく。
「包丁欲しい」
「今度買っておくから」
「どうせあんたは使わないんだから俺が買ってくる」
ボイルタコもキッチン鋏かーーと大倶利伽羅は呟いていたが、まあ今回だけらしいので我慢してもらう。
大倶利伽羅に紅ショウガを入れてもらってさらに混ぜる。紅ショウガの赤色が小麦粉に馴染んでいって桃色になっていく。それが面白くて混ぜながら見つめていた。
「国広そういったちょっとずつ変化するものが好きだよな」
「そうかもしれない」
「昔、絵具を混ぜるのも好きだったじゃないか」
「絵具を混ぜるばかりで絵を描かないから教師に注意されたな」
「結局俺が国広の分の絵も描いたぞ」
「そうだったか」
全く記憶にない。大倶利伽羅は小学生の時から一緒だ。まさか大学を卒業して一人暮らしをしても近くにいるとは思わなかった。それくらいの腐れ縁なのだ。人に聞かれたくないこともお互いたくさん知っている。大倶利伽羅が言うのならそうだったのだろう。
タコ焼き機に電源を入れた。ボコボコ凹んでいる板が温まって、大倶利伽羅がボウルから桃色になった液を流す。
「そんな一気に流すのか、溢れたりしないか?」
「誰がやってると思ってるんだ」
「大倶利伽羅」
「……溢れたか?」
「ぴったりです、大倶利伽羅さまー」
小さく切られたボイルタコを入れていいと言われたので、一つ一つ入れていく。ぷくぷくしてきた液に沈んでいくボイルタコはなんだかお風呂に入っているようだ。
「これ、楽しいな」
「獅子王に感謝だな」
「毎週やりたい」
「それはちょっと……」
大倶利伽羅はタコ焼きを焼いたことがあるんだろうか、器用に箸でタコ焼きをひっくり返していく。半分やっていいと言われたので、横目で大倶利伽羅の手つきをみつつやってはいるが、ふんわり丸にならない。
助けをもとめて大倶利伽羅を見るが、目線で自分でやってみろと言われてしまった。
一人真剣になってタコ焼きと向き合うのが面白くなってきて、一つ、また一つひっくり返す。力を入れすぎているのか緊張しているのか、箸先が震えてしまう。
「できた」
「一番最後は花丸満点だな。できるじゃないか」
「毎週やったら上達すると思わないか」
「飽きるからやめておけ」
茶碗にタコ焼きを盛って、ソースをかけた。これも大倶利伽羅がいつの間にか籠に入れていたものだ。花かつおは予算の関係で断念したので、踊る鰹節を見ることは叶わなかった。
「美味しいな大倶利伽羅」
「国広は猫舌じゃないから、すぐに食べられていいな」
「大倶利伽羅の唇は薄いからな、きっと熱がすぐに伝わってしまうんだ」
「そういう問題なのか」
大倶利伽羅の唇は俺のたらこ唇と違ってかなり薄い。描くときに注意するポイントだ。
「で、画家さんは仕事あるのか」
「数件イラストの依頼が来ている。大学の先生の手伝いをすることにもなっているんだが、相手が小さい子ばかりらしくて、俺にできるのか心配だ」
ああ、一生大倶利伽羅を描くだけの仕事がしたい。大倶利伽羅画集が欲しいのは俺なのだ。
「あんた子供に何故か泣かれることがあるからな」
「何もしてないのに」
「何もしてないのにな……」
ハッとなって、タコ焼きを放り出し、床に置いてあったスケッチブックを取り出した。タコ焼きをふーふーする大倶利伽羅を描き記しておきたくて、今見た一瞬の出来事を描いていく。
大倶利伽羅の顎、大倶利伽羅の髪、大倶利伽羅の唇。半分に割れたタコ焼きと黒い茶碗、箸。伏せる大倶利伽羅の目を描いて、一枚出来上がった。
「また俺か」
「俺は大倶利伽羅を描くのが好きなんだ」
「描くのが好きなのか」
「ああ」
だが、もちろん大倶利伽羅も好きだ。でもそれはもう少し大倶利伽羅を描けるようになってから伝えたいと思う。