第25回目くりんばワンライ
お題【糸】【いってらっしゃい】
他の刀剣男士には見えない糸が見えている。青色の信頼の糸、黒色の忠誠の糸、赤色の恋慕の糸。それは俺の小指から出ていて、辿っていくと兄弟や審神者、大倶利伽羅にたどり着く。
恋慕の糸。赤くふわふわと漂っていて大倶利伽羅の小指に繋がっている。
大倶利伽羅とは八つ時に一緒に菓子を食う仲だ。繋がりといってもそれくらいなので、始めはこの指から出る糸が、何故赤く、何を表す糸なのかわからなかった。
水まんじゅうが出た時だった。大倶利伽羅が水まんじゅうを黒文字楊枝でつついて反応を見た。それを見たとき、腹がぐっと煮え、大倶利伽羅の水まんじゅうを握り潰したくなった。
ずんだ餅が出た時なんて、やけに機嫌のいい大倶利伽羅が憎かった。
この黒く重たい感情はなんなのか。晴れない感情を時間遡行軍にぶつけたりもした。審神者に心配をかけ、兄弟を不安にさせた。大倶利伽羅も何かあったのかと聞いてきた。しかし、赤い糸とこの感情のちぐはぐさを説明することはできなかった。
本丸で流行っている審神者の持ち込んだ漫画に恋愛漫画があった。俺は内容よりも絵を見るのが好きだったので、恋愛漫画も読んでいた。
ヒロインが叫んだ。
「この気持ちに名前をつけたら、恋をしていることを自覚してしまう!」
背筋がざわめき、手が震えた。何か、今、俺の中に響いた言葉だった。
漫画を閉じ、布を被った。自室でよかった。なんだか顔が熱いのだ。
黒く重たい感情に名前をつけるとしたら、嫉妬。
何故嫉妬するのか、大倶利伽羅をひとりじめできる時間を菓子に邪魔されたからだ。なんて心が狭いんだ。
この心の狭さは余裕のなさや焦りで、そしてひとりじめできる時間を大切にしていたからだ。
この赤い糸に名前をつけるのなら、恋慕の糸。
俺は大倶利伽羅に恋をしている!
だから今、顔が熱い。自分の感情に気がついた今、まともに大倶利伽羅を見ることが出来なさそうだ。
ぼーん。ぼーん。ぼーん。八つ時の時計の音がする。今日も大倶利伽羅と菓子を食べるからそのうちこの部屋へやってくる。大倶利伽羅が。
「あっ、無理だ」
戦場で駆け抜けた時ですらこんなにも心臓が鳴らなかった。口から心臓が出そうだと漫画でヒロインが言っていたが、その時はわからなかった。今、握手して分かち合いたいほどわかる。
とん、とん。と足音がする。この角部屋に真っすぐやってくるのは、約束を忘れず菓子をもってやってくる大倶利伽羅しかいない。
背水の陣。ここから逃げることはできない、隠れる事すらできない。それならば立ち向かうしかない。
「入るぞ」
「ぁあ!」
ひっくり返った声を咳払いで隠して、障子を開けた。
大倶利伽羅だ。約束をしたのは大倶利伽羅となので、当たり前だが大倶利伽羅が立っている。俺と赤い糸が繋がり恋慕している対象の大倶利伽羅。目と目が合うと時が止まってしまったかのように視線がそらせない。大倶利伽羅かっこいい。
「顔が赤いが、どうかしたのか」
「ど、どうもしない」
畳に置いてある恋愛漫画をちらり見て、納得した顔をした大倶利伽羅は勝手知ったる他人の部屋、座布団を出し座り始めた。大倶利伽羅のすることをまじまじ見てしまう棒立ちの俺が阿呆のようだった。
「食べないのか、あんた好きだろう水まんじゅう」
ここでふと思い出した。糸は互いに思い合っていないと繋がらないことを。
兄弟との青色の信頼の糸、審神者との黒色の忠誠の糸、大倶利伽羅との赤色の恋慕の糸。
「おっおおおおお大倶利伽羅」
「なんだ」
「……好きです」
「……そうか」
「みみみ水まんじゅうが!」
「そうだな、落ち着いて食べてくれ」
柔らかいものでも喉に詰まらせたら大変だ。そう言って大倶利伽羅が微笑んだように見えた。
「ヒエッ……」
喉から変な音が出て、俺の呼吸は止まってしまった。
他の刀剣男士には見えない糸が見えている。青色の信頼の糸、黒色の忠誠の糸、赤色の恋慕の糸。それは俺の小指から出ていて、辿っていくと兄弟や審神者、大倶利伽羅にたどり着く。糸は互いに思い合っていないと繋がらない。
それは大倶利伽羅と両想いだということだ。まだ信じられないのでしばらくはそのまま要観察。水まんじゅうを見るたびに握り潰したい気持ちが沸き上がらなくなったら、恋愛漫画のように告白してみようと思う。
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くりんばワンライ書くマン
初公開日: 2020年06月06日
最終更新日: 2020年06月06日
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お題【糸】【いってらっしゃい】