うちの長谷部くんは、お腹が減ると無意識に藤の花を口にしてしまうという、少し特殊な癖を持っている。……とだけ書くとなんだかすごくお耽美な幻想を抱かれてしまいそうだが、実際にはそんな素敵なものじゃない。
初めて僕がそれを目にしたのは、彼が顕現してまだ間もない頃のことだった。初陣から赤疲労のマークをつけて帰ってきた日の夜だ。
明日の朝餉の支度ののちに湯浴みを済ませた後、時刻はもう深夜と呼んでも差し支えない頃のことだったと思う。少し夜風に当たってから眠ろうと思い中庭に出た僕が目にしたのは、俺はもう寝ると言って湯浴みの後はさっさと床に就いたはずの長谷部くんの姿だった。そこまでは良かった。戦の後は、身体が疲れていても妙に目が冴えて眠れないことも珍しくないものだから、少し声を掛けるだけにとどめて、そのまま自室に戻ろうと思っていたのだ。
けれども、驚いたのはそこからだった。
長谷部くんは随分とふらふらとした覚束ない足取りで、引き寄せられるように中庭の藤棚へと吸い込まれていった。そうして彼は中空に藤の咲き誇るのをぼんやりと見上げたかと思えば、おもむろに吊り下がって夜風に揺れる美しい花房に手を伸ばし、そのまま力任せに引き千切ってしまったのだ。そしてその行動に驚き、立ちすくむ僕のことなど知らない彼は、あろうことか引き千切った藤の花房に、がぶり、と大口を開けて[[rb:齧 > かぶ]]り付いたのである。
まるで茹でたトウモロコシに齧り付くように花の部分だけを綺麗に食べ尽くすと、長谷部くんはまた手を伸ばし、ブチ、と繊維の引き裂かれる音をさせながら花房を乱暴に引きちぎる。そうしてまた、手掴みに藤の花を口元へと運び——。
長谷部くんは、部屋の戸を開け放したまま、あろうことか濡れ縁から裸足のまま庭に降りたのだ。僕はしばらく驚きに立ちすくんでしまって、しかしふらふらとした足取りで中庭を
空腹になったり、疲労が限界に達すると、長谷部くんは突如としてふらふらとした足取りで引き寄せられるように中庭の藤棚へと吸い込まれていく。そうして彼は中空に藤の咲き誇るのをぼんやりと見上げたかと思えば、棚から吊り下がる美しい花房を手掴みにして力任せに引きちぎり、まるでおにぎりでも食べるみたいにがぶりと藤の花房に[[rb:齧 > かぶ]]り付いてしまうのだ。もはや、情緒も何もあったものではない。
この間なんか、ニンニクマシマシの豚骨ラーメンのスープに淡い色をした花弁をこれでもかというほどレンゲで押し込んで浸して、脂でギトギトにして食べていた。それを見て失神しかけた僕の気持ちを誰か察してほしい。
もちろん、政府にも報告済みだし、検査を受けに行ったこともある。藤はマメ科の植物であり、生で食べると微量ながら毒性のあるものだ。それを案じた主が長谷部くんに検査を受けさせたのだが、長谷部くんは藤の毒を解毒できる特殊な体質であること以外のことは何も分からなかった。解毒できることと、衝動的に藤の花を食べてしまうことに因果があるかも分からないし、
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へし燭書きます
初公開日: 2020年04月08日
最終更新日: 2020年04月09日
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藤を食べる長谷部くんと僕