タイトル「夜明けを君と」
お題
・照明を落とす
・I love you
・寂しがり屋
あらすじ
一人月を見ているへし
明かりを持った光忠
「月が綺麗だ」
明かりを吹き消す
「今日の月は綺麗だから」
手を長谷部に這わせる
満月の南中 0時=子の刻
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光忠が目を覚ましたのは、春の夜も随分と更けた頃合いだった。眠りは浅い方ではなく、普段ならば朝の五時までぐっすりと眠れるし、夜中に起きてしまうことがあってもすぐに眠れるのだが、今日はなんだか目が冴えてしまって、目を閉じることさえ煩わしかった。
朝餉の支度のために早い時間に寝入ったのはいつものことなのだが、今日は待機番で出陣もなく、それにかまけてうつらうつらと昼寝をしたのがいけなかったのだろうか。そんなことを考えながら数度布団の中で寝返りを打ったところで眠気が戻ってくる気配はなく、ただ無為に時間が過ぎてゆくのみだ。
壁に掛けた時計を見やれば二本の針はほぼ真上を少し過ぎたあたりを指差して、日付はどうやら超えたらしいことを光忠に教えている。朝餉の支度の時刻まで起きているには少し長いし、今眠らなかったら明日の活動に支障が出てしまうだろう。仕方なく布団の上で身体を起こして、枕元に畳んで置いた戦装束の一番上の眼帯を手に取った。こういうときは温かいものを胃に入れてやると寝入りやすいというのは、顕現してまだ間もないころ、眠り慣れない頃に初期等の加州くんが教えてくれたことだ。
慣れた手つきでパチン、と後頭部の留め具を留めたら持ち運びのできる小さな行燈を取り、油をたっぷりと吸った灯芯にマッチを擦って火を移す。太刀の目は夜の闇に弱い。わずかな灯りさえあれば全く見えないというわけではないが、灯りひとつない新月の夜でも確実に敵の急所を掻く短刀や脇差と比べたら、夜の太刀の目というのはやはり頼りないものである。
小さく火を灯した行燈を片手に部屋の外へと出れば、案外と外の空気は冷え込んでいた。日中は屋外で作業をしていれば汗ばむような日もある近頃だが、やはり日が落ちればまだ肌寒い。裸足の足裏に触れる板張りの廊下はひやりと冷たくて、敷居を超えた瞬間に光忠は小さく肩を震わせてしまう。
光忠の部屋は、厨からは少し離れた場所にあった。濡れ縁を辿って角をふたつ折れたところで、光忠は少し離れた場所に自分と同じく浴衣姿の背中があるのを認めた。縁側に座り込んで中空を眺める男の横顔が恋仲の男によく似ている、と思ってひとつ瞬き。間違って声を掛けたりなんかしたら恥ずかしいので、黙ったままそのまま数歩進んで、ようやく確信を持ってから声を出す。はせべくん。
「光忠。どうしたんだ、こんな時間に」
夜の空を見つめていた長谷部くんは僕に視線を寄越すと目を細めて、それから当然のようにぱしぱしと、ここに座れと言うように自分の隣を手で叩いて言った。その彼の手にはお猪口があり、徳利も用意されている。
「少し目が冴えちゃってね。君は寝酒かい」
「ああ。ほら、お前も見てみろ」
彼の示した場所に腰を下ろして裸足を庭先に放り投げて座れば、長谷部くんは爪の短く切り揃えられた指をななめ上に向かって真っ直ぐに伸ばした。山のほうを向いた見慣れた裏庭は、夜なので暗いことには暗いのだが、しかし今日は随分と庭木が落とす影が強いように思う。手に持った行燈は脇に置いて、素直に彼の指差したほうを見上げれば、ああ、と合点がいった。まん丸に肥えた月が、空の真ん中で静かに白い光を灯している。
徳利を持ち上げれば空のお猪口を差し出され、手に持った徳利を傾けてとくとくと澄んだ酒を注ぎ入れた。いくら飲んでも顔色すら変わらない長谷部くんと違って僕はあまり飲めないたちなのだが、日本酒に特有の甘い香りは嫌いじゃなかった。
「ほら、見てみろ」
「ああ、満月。どおりで明るいと思った」