何故異世界と呼ぶかという話
実は日常のそこかしこに非日常な仮称異世界が転がってると知ってしまって、しかも被害者が既に多数出ていて、これからも出るのが分かってて、そして自分だと何とか出来そうだという事で、しぶしぶ命がけで仮称異世界を何とかしている。
……これが魔法少女とかなんとか戦隊とかならまだ使命もあっていいんだろうし、見られるつもりは無いものの、見栄えって奴も良かったのだろうけど……残念ながら、詳細不明の大きなコートに身体を隠したパチンコ使いだ。
あ、申し遅れた。名前は青井。青井鳶。あおいとびと読む。
「……えーと」
さてこの仮称異世界。脱出の方法は、2つある。
1つはその中にいる全員が一度かつもれなく脱出できる方法。つまり、この仮称異世界の主だかボスだかを撃破した時。もちろんこの撃破するのは誰でもいい。この方法なら、この後仮称異世界に巻き込まれる人も居なくなるから、大変安全だ。
……主だかボスだかは、そう呼びたくなるぐらいには強いから、直接戦うとなると大変というか、正直命がけだが。
「……うわ」
もう1つは、時間経過。仮称異世界に巻き込まれてから、何もしなければ1時間。それだけの間を生き延びれば、巻き込まれた時の巻き込まれた場所に戻っている。これも体感だが、まぁ間違いない。
その辺をうろうろしている、まぁ、雑魚? 一般エネミー? を倒したら残る結晶を「残り時間を延長する」と思いながら砕くと、戻るまでの時間は伸ばせる。戦えるなら、時間制限はどうにかなる、という事だ。
……直接火力が低いわりに弾数に限界があるので、割と長期戦になりやすい遠距離武器持ちとしてはありがたい。
「……面倒な……」
とまぁここまでは条件の確認だ。これはどんな仮称異世界でも共通の「ルール」のようだ、というのがこの数か月で分かった。解説してくれる親切な誰かさんや説明書のような物はないから、全部体感で推測でしかないけど。
で。その主だかボスだかは、それぞれの仮称異世界の一般エネミーから推測できる。獣系ならそのまんまでかい獣だし、ロボなら指揮官系だし、あとは……鬼っぽいのが居たか。見事な大鬼で、いくら撃ち込んでも平然としているタフさでものすごく苦労した覚えがある。
そして現在いる、この仮称異世界の一般エネミーは、ガイコツだ。……つまり、ファンタジー的に言えば、アンデッドだ。今のところ腐ってる奴は見た事が無いのは救いか。こういう場合のボスは、大抵の場合、武装したガイコツか、豪華なローブのガイコツか、なのだが。
「えーと……仮称、骨玉? 骨大玉? ……特大骨玉でいいか」
……まぁ、こういう場合もあるよねー。というか、何というか。今回のボスは、こう……無数の骨を寄せ集めて固めた、多分ビルの3階部分ぐらいまでは高さのある、特大の骨の塊だった。
武器と戦い方がスナイパー的な感じなので、出来れば突出した個の方が良かった。一撃で済むから。使う弾の数は少ない方がいい。何せお小遣いのほぼ全てをつぎ込んでもカツカツなので。
だが、残念。目の前に居るのは、どう見ても端から削っていかないとどうしようもない奴だ。下手したら部位破壊扱いで、玉葱の皮をむくみたいにしないといけない奴だ。つまり、大出費は、避けられない。
「嫌だなぁ……。嫌だけど、やらないとなぁ……」
はー。と息を吐いて、コートの内側にいくつも並ぶポケットの内、1つに手を突っ込む。そこから取り出したのは、黄色いビー玉だ。あの100均とかで売っているビー玉を、色別でポケットに入れている。これが、パチンコで撃ち出す弾だ。
いろいろやってみた結果、メタリックな光沢が無い、均一に同じ色で、透き通ったビー玉が一番威力が出る事が分かった。なので調達先は少し離れた駅前ビルの100円ショップ。……これでも結構、学生にとっては大きい出費だ。
それを、ぐっと右手で握りこむ。そのまま仮称、ボスエリアのギリギリまで移動して、近寄ると更に大きく感じる骨の塊を見上げた。その頃になると、右手から小さく、パキパキ、パチパチ、そんな、火花が散るというか、ヒビが入るような音が聞こえてくる。
「まー嫌だけど仕方ない。腹くくろう。なにいつもの事だ、全体攻撃を連打するだけのお仕事です!」
そう自分に言い聞かせて、仮称ボスエリア……不自然に開けた、円形の広場へと踏み込んだ。それに反応して、仮称、特大骨玉がガシャガシャと動き出す。いや、こっちへと転がりだす。
ここで右手で握っていた黄色いビー玉を、左手で持っていたパチンコにセット。びっしりと内側に細かいヒビが入ったビー玉を構えて、思い切りゴムを引き伸ばした。狙いは、とりあえずど真ん中。
一見無意味に見えるが、撃ち出すのはもちろんただのビー玉じゃない。いや、ビー玉自体は普通に売っている、普通の色付きビー玉だ。けどそれを、この仮称異世界で、パチンコを武器にした状態で、こうやって握りこんで「力を溜める」と、どうなるか、というと。
「とっくに死んだ骨同士で伝染してけ!」
自分に返ってこないように、また、無いとは思うが「他の誰か」を巻き込まないようにそう条件を付けてビー玉を打ち出す。ただのビー玉。ヒビが入るまでは確かにただのガラス玉だったそれは。
ガッシャァアアアアアンン!!
と、特大の。文字通り空気を引き裂く音を撒き散らして、「特大の雷になって」仮称特大骨玉に叩き込まれた。もちろん即座に次の黄色いビー玉を取り出して、握りこむ。「力を溜める」。同時に、左右どちらにでも逃げれるように身構えた。
そう。これが、仮称異世界を、何故仮称でも異世界と呼ぶのかという理由。ちなみに、赤だと火の玉が飛んでいくし、青だと水の玉。透明は……何だろう。エネルギーの玉? 光の塊だけど光そのものでもないっぽいし。
まぁつまり、パチンコで、かつ、「力を溜める」という前提条件はあれど。
「魔法が使える。しかも条件付けによっては敵味方識別付きの範囲攻撃が叩き込める。……ソロだけど」
と、いうことだ。ザ・非日常。というか、これぐらい出来なきゃこんな命がけの危ないことやろうとは思わない。
そして、ファンタジーにはファンタジーなのか、そもそもガイコツというのが色々弱いのか、この雷が大変と効くのだ。具体的には、今の一発で、ボスである筈の特大骨玉がごっそりと削れているぐらいには。
風穴が開いていてもおかしくない様子に、僅かに安堵の息を零しつつ、次の一発を構える。
「ガイコツ相手はまだおいしいからいいんだけどなぁ……」
あとはこのまま油断しないように、削り切れればお仕事完了だ。