意外と世界っていうのは、知っているようで知らないものらしい。
例えば、通いなれた道を一本ずれるだけで知らない景色が広がったり。
例えば、電車を一本乗り過ごすだけで一緒に乗っている人が違ったり。
例えば、夕方に通る場所が夜になったら全然違う場所に見えたり。
「でも流石に文字通り異世界はどうかと思う……」
初めて巻き込まれたのは高校に入学して間もない頃。現在、夏休み真っただ中。流石に法則も対策も分かって来たこの非日常は、他人事なら何そのファンタジー? と笑い飛ばしてしまうぐらいには現実離れしていた。
まず1つ。少なくとも高校への通学路にこんな高層ビルは立ち並んでないし、その窓が全部割れて仲もボロボロでビル自体が倒壊しそうとか、どこの世紀末? みたいな光景は無い。というか、地図で確認したら近くには無い。でも大体毎度こういう景色だ。
2つ。今いるビルの4階辺りから周囲を見下ろせば、うろうろと動く影がいくつも見える。残念ながら人間じゃない。言えたところで、精々が「元」人間。……ガイコツがひとりでに動いてる。物理法則どうした。
「っで……この格好も、これも、どこから出て来た、だしなぁ」
3つ。最初に巻き込まれた時に、いつの間にか手に持っていたこれ……大枠で言えば、多分パチンコ。ただし、持ち手もゴツいしゴムも強い。はっきり言って人間に向けたらゴム銃の呼び名に正しく、身体に穴が開くと思う。
4つ。当然こんなの扱ったことないのに、慣れたのを差し引いても、それこそ振り回しなれた傘よりずっと上手く扱える。例えばこの距離からのガイコツへのヘッドショットとか。何でこの強さのゴムが引けるのか自分でも謎。
そして最後、5つ。ヘッドショットが決まったガイコツが、ぶわっと光の粒になって消えた。そしてその場所には、この距離だと流石に見えないけど、3㎝角ぐらいの、黄色くなったプラスチックみたいな立方体が落ちてる筈だ。
「ゲームのエネミーとドロップアイテムみたいな……まぁ慣れたけど」
なおこの立方体、装備が増えてたり豪華だったりする相手だと面の数が増える。そして、それをこのパチンコや、最初に巻き込まれた後で買って持ち込んだ、このサイズの合ってないぶかぶかコートに押し付けて砕くと、強化される。らしい。あくまで体感では。
……そんな場所というか世界というか。それが、見えない底なし沼みたいに、あっちこっちに入り口を開けて待ち構えているとか、知らなかった。
そしてそんな場所が、もう何人も何人も被害者を出してるなんて、知りたくなかった。
そう。あのガイコツ。光景が森だったら狂暴そうな動物とか、メカメカしかったらロボットっぽいのとか、その時々によってうろついている「何か」の種類は変わっても、その行動は変わらない。それも流石に分かった。
あれは、人を襲う。
人を襲って……襲われた人は、元の世界で、「いなくなる」。
「……そこも何というか、ゲーム的な……」
最初から、そんな人はいなかったように、そこに居たという証拠が消える。物も、写真も、記憶も全部。いなかったことになるのだから、誰も気づかないし、探せない。
その人が襲われた……仮称、異世界に踏み込んで、その身体を見つければ、一応、思い出せる。けど、仮称異世界から出ればまた忘れてしまう。いなかった事になる以上、お墓も何もない。
ただ……その、仮称異世界には、ボスというか主というか、そういう一際大きかったり強かったりするやつが居て。そいつを倒せば、その仮称異世界で「いなくなった」人達は全員、元に戻る。
「ゲームなら説明書欲しい」
……実際、実の両親と、クラスメイト数人がそうだったから、間違いない。
それに、仮称異世界のボスを倒すと、拳くらいの大きさで面が多くて、透明度が高い結晶を確定で落とす。普通にうろついてるやつの結晶ではほとんど変化が感じられなくなってきたこのパチンコとコートも、ボスの落とす結晶を使えばまだ変化を実感できるぐらいに強くなる。
ただその、ボスと呼びたくなるだけあって滅茶苦茶強いけど。というか、大体毎回決死の覚悟で何とかギリギリだから、正直1ヶ月に1回ぐらい戦ってる現状すごく頑張ってると思うんだけど!
「まぁガイコツなら……範囲攻撃で大体方が付くから、まぁ……まだ……」
それでも。どうにかその、「最初」を生き残って。戦えるだけの力を手に入れて。順当に強くなって、それで助かる誰かがいるのなら。
……見つけた仮称異世界が、いつの間にか消えていたり。そもそも「最初」がそうだったように、何もしてないのに仮称異世界のボスが倒されたり。他にも似たようなことを考えて動いている誰かも居るようだし。
最悪、やられてしまっても。その誰かに助けてもらう事が、出来るなら。
「もうちょっと頑張ろうか」