1週間のど真ん中、平日のお昼過ぎ。普段の賑やかさはどこへやら、MANKAI寮の談話室は閑散としていた。
……出来上がったばっかりのフライヤー誰かに見てもらおうと思ってたんだけどな。まぁ、この時間じゃ仕方ないか。
溜息を1つ付いて俺は手に持っていた次回公演のフライヤーをテーブルに置いた。キッチンからコーヒーとスナック菓子を拝借して、談話室のソファーに沈み込む。パソコンで固まったままだった筋肉が伸びていくようだった。
この劇団には様々な年齢の人間が所属していて、生活時間帯も様々だ。とはいえ、フルーチェさんによる厳しい質素倹約なんちゃらにより、ある程度個人の行動には制限がある。だからか、この談話室と中庭は何かと人が集まりやすい場所で、今みたいに誰もいない時間という方が珍しいくらいだ。
コーヒーを一口飲んで、ふう、と息を吐く。なんていうか、優雅だ。セッツァーとツムツムがカフェに行くのが好きなのも、今なら何となくわかる気がした。
「あれ、かずだ~」
のんびりと間延びした声に名前を呼ばれて振り向くと、同じ夏組所属のすみーこと斑鳩三角がにこにこしていた。手には彼の大好きな三角形のものがいくつか握られていたので、おそらく三角探しから帰ってきたとこなのだろう。
「おっ、すみーじゃん!おつピコ~!今日の三角探しどうだったー?」
「へへ~、今日もいい三角見つけたよ~」
そう言うとすみーは俺の隣に座り、手に持っていた三角を机に置いて今日あったできごとを教えてくれた。俺はこの時間が結構好きだった。のんびりとした声が紡ぐ話に、うんうんと相槌を打つ――ただそれだけなのだが、不思議と気分が落ち着くのだ。
「……かずは、なにしてたの~?」
一通り話し終えたのか、すみーが尋ねてきた。俺は立ち上がると、先程テーブルに置いた出来上がったばかりのフライヤーをすみーに差し出した。
「俺はねー、これ作り終ったとこ。誰かに見せようと思って談話室来たんだけど、誰もいなくて寂しく休憩してたところだったんだよねー」
だから、すみーナイスタイミング!と笑う。俺からそれを受け取ったすみーは見るなり「かず、すごーい!!今回もかっこいいね!」と喜んでくれた。
「でっしょー!今回ももち、自信作だよん!」
いつも通り、ぱちりとウィンクを1つ決めれば「うんうん。かずはやっぱりすごいね~」と頭を撫でられた。別に初めてというわけでもなく、すみーのよくある行動の1つなのに、今日は何故だかそれが嬉しくて、恥ずかしくて……。俺は赤くなっているであろう顔を片手で覆い、伏せた。
「かずー?……どうしたの?」
急に大人しくなった俺を怪しんだすみーがこちらを覗き込むように声をかけてくる。
「ちょっ、すみー!待って!タンマ!こっち見ないで!!」
まだ熱の引ききらない顔を隠すように慌ててすみーと距離を取ろうとしたが、のんびりとした口調とは裏腹に俊敏な彼の手によってそれは叶わなかった。意外と大きな手のひらが俺の手首を掴み、もう片方の手が後頭部に回される。何が起きているのか理解することを手放そうとする思考回路と一緒に俺は怖くなって目を瞑った。
こつんと額に衝撃が走り、慌てて目を開けば、目の前にはすみーの泣きぼくろ。
「ねぇ、かず。俺はどんなかずも好きだよ」
だから、隠さないで全部見せて。そう、いつもと違う低い声で囁かれれば、俺はもうどうすることもできない。
どうせ誰もいないのだ、と俺はおずおずとすみーの首に腕を回した。
〈終〉