俺は卑怯な手を使った。
 加山とその恋人で後輩の青山を街で見かけて、後を付けた。
 付き合っているのは知っていた。
 だけど、青山の態度が淡白だったし、すぐに別れると思ったんだ。
 歳の差もある。
 追いかけて俺は後悔した。
 二人が向かったのは結婚式場だった。
 呆然として二人を見ていると、俺はある男に気が付いた。
 そいつはホテルのフロント担当で、黒いスーツを纏っていた。
 背は俺よりも高い。
 イケメンだ。
 そいつはじっと青山を見ていた。
 青山は不思議な奴だった。
 細くて、男の匂いがしない、中性的な奴だった。
 女性の影もないし、そういうのは本当に興味なさそうで……。
 だから加山と付き合ってると知って驚いた。
 
「すみません。ちょっといいですか?」
 俺は自分の勘を信じているし、よく当たる。
 その上駆け引きも大得意だ。
 だから、俺はそいつにある可能性を感じて、声を掛けた。
 
 俺の勘は当たった。 
 男の名は谷田流一。
 青山の昔の男だ。
 こいつは使える、そう思って、彼に計画を持ち掛けた。
 戸惑っていた彼に、青山が結婚間近であることを言い、急かした。
 あんな目をして、青山を見ていた男だ。
 諦められるわけがない。
 俺は知ってる。
 俺もそうだからだ。
 谷田は青山を堕とし、加山はフリーになった。
 青山は会社をやめたけど、人は噂話が大好きだ。
 加山には興味本位、同情、嘲笑が向けられた。
 傷つく彼女に俺は近づいた。
 彼女が俺を嫌っているのは知ってる。
 営業の成績でずっと俺に負けてきたからだ。
 負けず嫌いな彼女、俺はそんな彼女が好きだった。
 手に入れたかった。
「加山。飲みにいかないか」
「……嫌。だれがあんたと」
「美味しいお酒と飯が出るところ、知ってんだけど」
 
 泣きそうな彼女。
 もういっぱいいっぱいだ。
 
「加山。好きだよ。俺、ずっとお前が好きだった」
「うそばっかり」
 ご飯を食べて、少し飲んだ後、俺たちはバーに来た。
 カウンターで二人並んで、飲む。
「逃げてもいいんだ。俺が全部支えるから」
「絶対にいや、あんただけは」
 負けず嫌いな彼女は、決して折れなかった。
 
 人の噂も七十五日。
 
 それは本当で、あと彼女の努力もあって、変な噂はなくなり、彼女への周りの評価も変わった。
 成績も上がり始めた。
「今夜暇?」
 そんなある日、彼女から誘われた。
 
「高くんから聞いたわ。全部。サイテーね。あんた」
「……悪かった」
「だけど、いいわ。許してあげる。もうあんたのことなんてライバルとも思ってないから」
「それ、どういう意味だ?」
「私のこと、まだ好き?」
 挑戦的に彼女は聞いてくる。 
 ここ三か月で、彼女の印象はかなり変わった。
 俺はSだと思っていたけど、Mだったみたいだ。
 そんな彼女にゾクゾクする。
「好き……だ」
 
 そう答えた俺の声が少し枯れていた。
「じゃあ、付き合ってあげる」
 軽く口づけされた。
 俺の唇に彼女の口紅がつく。
「お似合いね。ピエロみたい」
 そうして、俺を笑う彼女はとても煽情的だった。
(完)
 
 
 
 
 
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