同居
 最後の夜、夕飯を食べ終えたササキはラファウの目の前にとある箱を置いた。ラファウは食卓に突如として現れた物体へ目を白黒させながら,
生まれ持った知的好奇心からそこへ印刷されている文字列を読み取る。少し古びた箱のそれには「家庭用プラネタリウム」とあった。ラファウが驚いて彼女を見ると、相手は自分の顎を両手で支え、机上に肘をついていた。そのまま、とびきりの笑顔の一歩手前のような表情でこちらを眺めている。
「開けてみて」
 ササキが、箱に目線をやりながらラファウに目くばせをした。言われた通りに開けると、包装箱に写っていた通りの物体が中に収まっている。取り出してみると藍色の球体だった。その側面に細長いスタンドがついている。なるほど、これで地面から浮かせて転がるのを防ぐのかと両手で持ったそれを観察しているラファウに、ササキはとうとうにかっと嬉しそうに笑った。笑いながらテーブルの面へ少し身を乗り出し、いいでしょいいでしょと繰り返す。
「でも実は中古なの。本当は新品をあげたかったんだけど、やっぱり高くて」
「あの……ありがとう! 嬉しいよ。でも、どうして突然」
「いろいろお世話になったから」
 ササキはラファウの目前に自分のスマホの画面を見せつけた。誰かとのDMのやり取りがされている。部屋のクリーニングが済んだこと、明日からそこに荷物を置いても構わないこと、一週間も不便な思いをさせて申し訳なく思っているといった内容のメッセージが相手側から送られている。彼女のアイコンが返している「ありがとうございます!」の「!」が目に入ったところで画面が下ろされた。ラファウのいる食卓の反対側、そこが定位置となったササキが寂しそうに口にする。
  
「短い間だったけど本当にありがとうね。ラファウと生活するの、結構楽しかった」
「……僕も楽しかった。なんだか少し寂しいな」
 楽しいなら戻らなくていいのではと口をついて出そうになったところであえて寂しさのほうを言葉にすると、彼女は安心したように実は私もだよとラファウに打ち明けた。いやじゃあホントに帰る必要ないだろお互いに楽しかったしお互いにネガティブな気持ちになるくらいなら一緒にいるほうがメンタル面では合理的なんだからそうするほうが賢いだろーと滅茶苦茶に追求したくなったが、しかし彼女は眉を下げながら明日は家に帰るねと話したので、ラファウはなんでもないように頬杖をついてうん、と相槌を打った。急に自分の口数が減ったことを挽回しようと何か話題を探したが、胸の部分が明らかに痛くて集中できなかった。
「いやしかしこんなことあるんだね。本当にびっくりしたな」
 ササキはおもむろに周囲へ視線を巡らせる。それは、ラファウの部屋の冷蔵庫やシンク、調理器具や小窓のカーテンなどを一つ一つなぞっているような丁寧さで移動した。最後に吊り下げ式の照明で留まり、眩しさで目を閉じる。
「まさか、アパートの配水管が破損して押入れの中が水浸しになった上に一週間住所不定のホームレスになりかけるなんてね…」
「……うん」
 ラファウは、やっぱり彼女はここで暮らしたほうがいいんじゃないかと思った。普通に管理不行き届きだろ、そこの不動産は。
 
「アパートの配水管が破損して押入れの中が水浸しになった上に一週間限定で家無き子になってしまいそうな私を助けてくれる人はいませんか」
 広くて清潔な学食の昼時間にレポートや文献資料を広げていたラファウやヨレンタ、ドゥラカへそう懇願したのはササキであった。最初に「えっ」とお手本のように戸惑ってくれたのはヨレンタで、「もしかしてこれ以降の家賃が下がるんじゃない」と目を光らせたのはドゥラカで、「不動産か大家に連絡はした?」と真っ当に話を広げてくれたのはラファウである。ササキは、水道管の破裂により契約していたアパートの押入れが水浸しになったこと、今日から一週間は部屋が使用禁止になってしまうこと、同じ建物の別の部屋に引っ越すよう大家に進言され受け入れたことなどを悲劇的なクライマックスを迎えるヒロインよろしく光の失せた瞳で説明し、誰か泊めてくれませんか、お願いします、寝る場所とシャワー以外は家にいないようにしますし、家事もします、カップラーメンを作るのが得意です、と自己アピールも混ぜつつ3人に向かって改めて額を食堂のテーブルに擦りつけた。
 果たしてお湯を入れて完成するだけのカップ麺を得意料理とするのは自己評価の基準が甘すぎやしないかと思考しているヨレンタとドゥラカより先に救いの手を差し伸べたのはラファウであった。当然、異性という時点でササキは一度断りを入れたが、ヨレンタもドゥラカも丁度学外授業のために家を不在にするのだそう。実はどちらかを宛てにしていた節のあったササキは、その一瞬だけ「一週間も家を空ける学区外授業ってなんだよ」と頭を抱えてしまったため、ドゥラカとヨレンタから過剰なほどに向けられた瞬きとウインクに少々気まずくなっているラファウに気づかないまま、でも確かに家主のいないときに何かあるのも嫌だもんなあ、とぼやいた。異性であってもまだ家主がいて、あれはこれしないでとかそれはここに戻してだとか、自分の生活の決まりやルールを教えてくれる存在と共同で生活する方がまだ気が楽だろうと踏んで、じゃあ今日部屋に行きますとラファウの青い目に焦点を定めて背筋を伸ばし、その場で3度目の礼をしたのであった。
 ラファウはうん、じゃあ後で住所送るからと平静を装いながら内心でガッツポーズを3回ほど繰り返した。そして、後からヨレンタとドゥラカに国立天文研究所が開催する天体調査に関するイベントの参加チケット2枚を渡した。
 生活は二人にとって思ったより快適だった。大学進学と同時に一人暮らしを始めたササキは、自分のただいまにおかえりと返ってきたり向こうのただいまにおかえりと返してみたりするのが久々に嬉しく、また、楽しかったし、ラファウもそれは同様だった。特にラファウは想い人からのそれであるという点について、もしかしたらササキの感じるものよりひとしおにそう感じたかもしれなかった。互いに異性ということで多少の緊張はあったものの、ラファウの部屋はササキのアパートよりも築年数が浅く立派で面積もあったため、両者にとって適切と呼べる距離感を保って生活することができた。料理はラファウの方が上手かったので、ササキは大人しく皿を洗ったり身の回りの整理整頓や掃除に勤しんだ。洗濯はササキの方が自分の下着を乾燥するときのみコインランドリーを使用した。ラファウもそれには代替案を思いつくことができず、そこにかかる出費は抑えることができなさそうだと申し訳なさそうにしながら承諾した。一週間も他人を自分の生活に入れることに対する気苦労の方が大きいだろうと配慮していたササキは、それに謝る必要はないと言った。ラファウも自分の下着だけはわざわざ別のタイミングで洗うようにしてくれていたからだ。二人とも入浴はシャワーのみで済ませていたし、なんと素晴らしいことにラファウのアパートは風呂とトイレが別であったため、そこに気を遣う必要もなかった。
 ササキもラファウも、この人間であれば一週間以上の共同生活となっても構わない、なんならうっかりアパートの修理工事が長引いてあともう一週間ほど延びたって気にならない、気にならないどころかいっそ嬉しいかもしれないと、二人で同じ映画の字幕を読みながら、もちろん知りえることはなかったが、なんと互いに同じタイミングでそう思っていた。普段から課題のミスや教員への砕けた言葉づかいで度々注意されるササキは、意外にもラファウの洗濯物をこまめに畳んでバスルームの棚に戻したり、しまう場所の分からないものは洗濯かごの中へ戻してラファウの部屋の前に置いたりすることを習慣にした。バイトや課題で忙しくなるとその頻度が極端に減ってしまうことがあったが、手際のよいラファウが、彼にとっては簡単に作ってしまえるパスタや冷凍していた白米を使った雑炊などを用意して食事を共にすると彼女のくたくたになった心身が満たされよく眠れるようになったお陰でそのルーティーンをまた効率よく元に戻すことができたし、ラファウが課題の多さや手直しに追われたときは、彼女は少しだけ掃除や整理整頓の規模を大きくした。おかげで部屋が清潔に保たれている期間はラファウが一人で生活しているときより長かったし、ホコリや汚れを気にせずに過ごせるのは楽だった。また、ラファウ自身では買いそうにないちょっとしたデザートやスイーツなどを冷蔵庫に届けてくれたりすることもあった。
 一時的な同居が始まって2日ほど経ったとき、学内では聞き役というより話す側に回ることが多い印象のあるササキだったが、家の中では意外と静かにテレビを見たり本を読んだりしている時間が多いことにラファウが気づいた頃には、丁度一週間が経っていた。
「せっかく買ったんだし、一緒に見ようよ!」
 こんなものいらないからずっと家にいればいいのにとさえ思い始めたラファウにササキはそう言い放って席を立った。そして自分が与えたプラネタリウムをラファウの手から奪い取り不躾に部屋に入っていい?と尋ね、それに戸惑うラファウのうん、というつまらない相槌を聞くなり「わーい!」と勢いよくラファウのへの前まで駆け足で移動して、部屋のドアを開け放った。ラファウは、女子が自分の部屋に入るのにまるでテーマパークに来たようなテンションで入室されるのにがっかりするような安心するような、また、一方で先ほどとは打って変わってわくわくしているような感じも覚えながら後を追う。
「ずっと思ってたけどセミダブルだね? ふん、良いベッドで寝ちゃってさ」
「そ、そうかな……?」
「そーだよ! 私、ずっと布団だから羨ましい」
 ラファウは
「なら、来たときにベッドで寝ればよかったじゃないか」
「」
と嫌味を言う彼女の口角はご機嫌そうに上がっている。ラファウは同居の序盤に自分のベッドに寝るよう勧めたのをという提案を受けたらよかったと思ったが、フローリングにホコリが溜まってないか変なものが彼女の目につくところにあったりしないか、匂いは、片付いてない衣類は、ごみ箱のごみの量は、などあちらこちらに意識を回していたので軽口を返すこともできなかった。そうしているうちに彼女はラファウのベッドサイドに設置されているコンセントの空いていた一つに電源コードを差し込んで、プラネタリウムのレンズを上へ向ける。そして、ラファウに向かって電気を消してみるように呼びかけた。ラファウはドアの横についているスイッチを押して、指示通りに電気を消す。
 瞬間、そこは宇宙となった。
「おおー! すごーい!」
「わあ……」
 ──これは確かに、すごいな。ラファウは宇宙工学や天文がメインの自然科学などをメインに研究しているため、
 
 
一週間の共同生活。
 カチッと指先でその球体を操作すると、天井いっぱいに天の川が広がった。思わず「すごーい!」とそれを見上げるのにつられたのか、ラファウの口からもわあ、と感嘆が漏れた。彼は自身が通う大学で専攻している分野にて定期的に星や天体の観測に取り組んでいたし、商業施設で行われるプラネタリウムのイベントにもたまに足を運んでいるはずだ。そんなラファウでも、起床時にしか見ない自室の天井の隅にまで敷き詰められた簡易的な宇宙に数秒の呼吸を止めた。リサイクルショップで半額で買ったらしい偽物の惑星じみた球体が見せる星がこんなに綺麗だと、ラファウはそのとき初めて知った。
「買ってきてよかったー!」
「うん……本当にすごいね。僕もそ」
 その意見に賛同しようとラファウがササキの方へ顔を向けると、彼女はいつの間にかラファウのベッドに仰向けになってそれを眺めていた。ええええベッドに!? いつのまにベッドに!? シーツって、いつ洗濯したんだっけ!? においとかしない!? 何か一言言えよ!! いくら一週間同じ空間で生活したとはいえ警戒心が無さ過ぎないか!? ラファウは相手からは見えない吹き出しのなかで絶叫しながら転げ回りつつ、「僕もそう思うよ」と一度途切れた言葉を続けた。一方の彼女はというと、不自然なリズムで繋がったそれを気にすることもなく、なんと「ラファウも来なよ!」と異性である彼に対しそう言い放った。
「え?」
「見上げるとすっごいの! ホントに宇宙に来たみたいで!」
「……」
 絶句するラファウの目の前、ササキは「早く来なよー!」と自らの隣のスペースをバシバシと叩きまくっている。ラファウも来なよ。たった今、耳から入りこんだ音を頭の中で文章にして改めて理解し直してみたが、やはり男である自分に対して、女性である彼女が、隣で横に寝ることを勧めているという事実に変わりはなかった。明かりの消えた部屋のベッドの上、彼女の着用している薄手のTシャツと滑らかなジャージのズボンの生地が、女性らしい柔らかな肉付きの肢体に沿ってシーツに落ちている。そこから浮かび上がる曲線をなぞってしまっている自らの目を強制的に閉じて、彼女との会話を続けることに意識を集中させることにした。──とりあえず、今しがた彼女から提案された圧倒的で感動的で理想的過ぎて完璧な誘惑をきっちり断らなければ。
 突然水道管が壊れてアパートが使えなくなったと、まるで悲劇大学の昼食時を一週間の期限付きで同居させたとはいえ、結局この「同じ大学に通う友だち」とカテゴライズされた関係に進展はなかったんだから、こっちが変に距離感を詰めたくなるような、自身のコントロールが効かなくなってしまうようなリスクのある事態へみすみす飛び込んでいくわけにはいかない。特に発展しなかった分、せめて異性として嫌悪感を与えない適切な温度感の友人という立場だけは守りたい。ラファウは視認できない環境ではそうする意味もないのに何故かにこやかな表情を作り、ゆるやかに頭を振った。
「えっと……僕は後で見るよ。そのプラネタリウム、くれるんだろ? なら、今日じゃなくても見れるし…」
「え、なんで? 今見ようよ! アパート直ったし、ラファウの迷惑になるだけだから、もう明日には出るつもりなの。今日が一緒に過ごす最後の夜になると思ったからこれを買ってきたんだよ? せっかくなんだし、一緒に見ようよ」
「……」
 好きな子にそんなかわいくて健気なことを言われて拒む男がいるのだろうか。理性と倫理と感情の三叉路に立たされたラファウは数秒の沈黙してから感情の二文字を背にベッドへ足を進めた。少なくともここにはそれができるヤツはいないと投げやりになりながら「ちょっとだけだからね」と苦々しく曖昧な条件を口にする。苛立ちのため息がそのまま音になったかのような言い方に何かを感じとったササキは、シーツを叩くのを止め、空中に止まったその手を恐る恐る自身の腹に置いた。「あ、あの」そのままトーンを落とした声色でどもり、上げていた視線を少しだけ壁の方に落とす。
「その、嫌なら別に……」
「そんなこと言ってない!」
 
 噛みつくように言い返した。ササキはそう?と仰向けのままで視線を壁からラファウに向けた。すると、彼女の大きな瞳が自然とこちらを伺うような上目遣いになる。そのあどけなさに跳ねた心臓が、ラファウにそうだよ! と大きく返事をさせた。
「……怒ってる?」
「怒ってない!」
 ラファウの声量にいや怒ってるけどなその言い方…。たじろぎながら突っ込むササキを無視し、意を決したラファウはとうとうベッドに乗って彼女の隣で横になった。相手が少し体を壁際に寄せてくれるのにすら謎にときめいてしまい落ち着きを失いかけていたラファウだったが、寝転んだ目線の先に飛び込んできた満天の天井にそういった緊張や焦りも消え失せてしまった。
「本当だ! すごい!」
「でしょ! すごいよね!」
 ラファウの腹から発声されたそれに負けない声量でササキが応える。視界に入ってくるのは星、星、星、星。それのみで構成されている夜空だ。視線が天井に向くことで、部屋にあるクローゼット、デスク、椅子などの家具の一切が目に入らない。ただただ星ばかり、夜に輝く小さな輝きばかりの視界だった。蛍光灯の部分だけはどうしても景色が歪んでしまっているが、それはそれで円形のかたちをしている未発見の惑星のようで面白いな。
「本当にすごい……」
「ちゃんと気に入ってもらえてよかった」
 彼女の声が左肩あたりから聞こえる。それがまるでスピーカーを通したかのように近かったので、ラファウの肩周辺の筋肉は全てそのままぎくりと凝ってしまった。星空に夢中になっているササキはねねね、とラファウとの距離を詰めながらはしゃぐ。彼女の指が空へ上がっていく。二の腕の外側の一部が形容しがたい触感でぽわんと温かった。
「あれがオリオンでしょ? 右側のやつ」 
「う、うん」
「これ、冬の夜空なんだって。だから、ふたご座とかぎょしゃ座とかがあるはずなんだけど、私には分かんなくって」
「ああ」
 当然といえば当然だが、夜空全体を平面にしたものをある程度の大きさのレンズで投影しているのだから、観測者として実際に外で見るものとは違ってくる。実際、視線の先に伸ばした手の中に収まってしまうほどの大きさになったオリオン座が、彼女の言う通り、天井の中央あたりに吊るされているライトの右横あたりにあるのが見えた。面積あたりの密度が高く、星々の密集率が高い。オリオン座ほど特徴のある形、それを構成する星の明るさがより強いものでなければ、馴染みのない人間にはどの星座がどこにあるか把握するのは難しいだろう。
 彼女は拗ねているような
「冬の大三角形と冬のダイヤモンドを見つけたいんだけど、実際の夜空とは見え方が違うから全っ然わかんないんだよねー…」
「オリオン座のなかのどの星が冬の大三角形として組み込まれているのかは分かる?」
「うん! ベテルギウスでしょ。空にある何かを星だと知らすに生きてきた人の歌のやつ」
「……うん。ベテルギウスは、オリオン座を形成している星の中で分かりやすい特徴を有しているんだけど、何だと思う?」
「オレンジに光ってるんでしょ? さすがに分かるよ!」
「……じゃあ初めからそっちを言ってほしかったんだけど」
「あえてのJ-POPで責めてみました」
「意味分かんないよ」
 見たままの特徴でも神話でもないエピソードを披露してきたササキに振り回されながら、ラファウの星座教室が始まった。オリオン座はそもそもギリシャ神話のおベテルギウスはオリオンの
「えーと、左腕から伸ばして…ふたご座で」
「なんか、あれみたいだね! 天井一杯に絵が描いてあるやつ!」
「楽しかったなあ。一週間」
 それは歌うような調子で星のなかを潜ったり上がったりしてラファウの耳に入ってきた。
 ──そんなに楽しかったならもう一日くらいいればいいじゃないか。言おうとしてやめた。駄々をこねる子どもみたいな言い方だと思ったからだ。寂しいからもっといてくれないかと
「明日の朝までに全部?」
「えっ。普通に無理だよ」
「できなかったら帰さないからね」
「嘘じゃろ」
「僕は本気だよ」
「ラファウ」
「ん?」
「無理だと思う」
「だと思うよ」
「お前…」
「ねえ、そっちじゃなくて」
「そうじゃなくて」
「んん…?」
「」
 先ほど
「だから……」
「あのさ
「なんで僕がこんなことを言うのかって分からないの?」
 ラファウはシーツの上でごろんと回ってうつ伏せに肘をついた。
「君に、帰ってほしくないんだよ」
「君に、帰って欲しくないってこと」
 垂れ気味の三白眼がササキ。何度もなぞられた星座が二人を見下ろしている。驚きに静止したままの、やがてプラネタリウムのタイマーが切れ、
 
例えば、自分の好きな星座であるオリオン座
 眼前に
「」
 深夜に聞いた水音が心霊現象によるものか賃貸の欠陥によるものか、不眠と緊張で猫背のまま押入れを開けた佐々木の疑問に答え合わせをしたのは文字通りぺしゃんこの濡れ煎餅となっていた衣類や布団、カーペットたちであった。黙しておよそ1分。その1分後、まるで忍者を題材とした漫画の主人公が敵の目を眩ませる影分身で敵の目を眩ませたような残像を残しながら、佐々木はスマホの通話画面で大家の番号をタップした。
「というわけで一週間くらい私を家に泊めていただける人を募集しています……」
 絶句といった表情でこちらを眺める友人たちの視線をちくちくと受け止め、貼り付けた笑みのまま佐々木はそっと涙を流した。手にしたサンドイッチを一口かじる。何故かいつもよりしょっぱい気がした。
「そ、そんなことあるんですね……」
 ヨレンタが鯖の味噌煮定食に手を合わせたまま呟いた。めそめそと頷きながら  
「参ったよ、全く」
「ねえ、いいもの持ってきたよ」
「何?」
「たまたまリサイクルショップで見つけたんだ」
 ほぼ半額だったよ。まあ、型としては古めなんだけど。 
 リサイ
「いいなあ、ずっとこうしてたいね」
「そうだね」
「オリオン座は分かる?」
「分かるよ! でも、オリオン座くらいしか分からないなあ」
 実際の空だともう少し
「明日の朝までに全部?」
「えっ。普通に無理だよ」
「できなかったら帰さないからね」
「嘘じゃろ」
「僕は本気だよ」
「ラファウ」
「ん?」
「無理だと思う」
「だと思うよ」
「お前…」
「ねえ、そっちじゃなくて」
「そうじゃなくて」
「んん…?」
「」
 先ほど
「だから……」
「あのさ
「なんで僕がこんなことを言うのかって分からないの?」
 ラファウはシーツの上でごろんと回ってうつ伏せに肘をついた。
「君に、帰ってほしくないんだよ」
「君に、帰って欲しくないってこと」
 垂れ気味の三白眼がササキ。驚きに静止したままの、やがてプラネタリウムのタイマーが切れ、
僕が、なんでそんなこと言うか分からないの?
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初公開日: 2026年05月15日
最終更新日: 2026年05月15日
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