「タルコフスキー特集2026」も今日で最後。
 最後を飾るのはみんな大好き「惑星ソラリス」です。
 スタニスワフ・レム原作の小説「ソラリスの陽のもとに」は読了、さらに2002年のリメイク映画版も見ていましたが、タルコフスキー版の本作はまだ未見。なので今回の「タルコフスキー特集2026」ではいちばん期待してた作品でした。
 そういや小説版もロシア語版を翻訳した旧版で、ソビエト連邦によって検閲・削除された部分が多いとのこと。ポーランド語からの完訳版は2015年に出ているようなのでこっちも読まねば。
 舞台は未来。地球から遠く離れた惑星ソラリスは、ふたつの太陽を持ち有機的な活動を見せる海に覆われた不可思議な惑星でした。
 地球の科学者たちは長い間ソラリスの調査を続けていましたがその正体は掴めず、「ソラリス学」は停滞しつつありました。そんなおり、ソラリス調査のために設置されたステーションからの連絡が途絶える事件が発生。
 調査のためにソラリス・ステーションを訪れた心理学者ケルビンは、先にステーションに駐在していた科学者のサルトリウス、スナウトと出会います。もうひとりいたはずの科学者ギバリャンは謎のメッセージを遺して自殺しており、ケルビンはステーション内にはそこにいないはずの女性や子どもの姿を見かけるという奇妙な事態に襲われます。
 不可解な思いを抱きつつも眠りにつくケルビン。翌朝目を覚ました彼が目にしたのは、10年前に地球で自殺したはずの妻・ハリーの姿でした。
 なぜ死んだはずのハリーがステーションにいるのか? 自殺したギバリャンはなにを見たのか? そして、惑星ソラリスの秘密とは?
 今回の特集で見たタルコフスキー監督作品の中ではいちばん明確なストーリーがあった感じですね。なのでちょっとだけ寝たもののなんとか全体を通して見られました。でもやっぱり165分は長いよ監督……。
 まずやはり目を引くのは映像演出の妙ですよね。
 冒頭の地球での豊かな自然に囲まれた光景に対して、ソラリス・ステーションのあの無機質で閑散とした、ひたすら白い画面の差がたまらん。
 SFには「汚いSF」と「清潔なSF」があると思うんですが、本作は典型的な後者のビジュアル。白い壁、白い床、そして窓の向こうは白い光。徹底的に「無機質で清潔な白」を突き詰めたかのようなビジュアルは、いかにも生命の満ちた地球からかけ離れた異界の光景といった感じです。この感じは、以前見た「ソイレント・グリーン」でも感じた感覚ですね。やはりSFには無機質さがあると魅力的。また作中にはキリル文字が使用されているので、これもまた異界感を高めてくれます。
 SFの古典的なテーマのひとつが「異存在とのコミュニケーション」なんですが、本作ではそれは「ソラリスの海が接触した人間の記憶からコピーを作り出す」という形で行われます。本作の特異な点は、このコピーもまた自我の曖昧さや存在の不明瞭さに疑問を持ち困惑しているという点ですね。
 このソラリスの海が作り出したコピー「客」とのやりとりは、思いがけない過去との直面であるとともに、いざ過去の出来事と直面してもその時の選択は覆らないということかな、と思いました。
 失ったはずの妻・ハリーと対面したケルビンは彼女を抱きしめる一方でその存在を恐れ、ロケットでステーション外へと放逐します。しかし、次の日にはハリーは何事もなかったかのようにケルビンの部屋にいる。このあたりのケルビンの行動からは、失ったはずの妻との再会を喜ぶ気持ちと過去の自分の行いと直面しなくてはならなくなった恐怖とが同居しているように感じられました。
 そしてこれらの「客」は、ケルビンらが行ったソラリスの海へのX線照射実験をきっかけに姿を消してしまいます。ラストシーンで地球に戻るケルビン。懐かしい我が家からは、彼の年老いた父が出迎えてくれます。しかし――そこはソラリスの海の上に作り出された小さな島の上だった……。
 原作小説とは大きく異なるラストシーンでレムとタルコフスキーは大喧嘩したらしいですが、個人的にはこっちのラストも好き。最初から最後まで思い出の中に取り込まれて終わるという……。
 要所要所に挿入されるソラリスの海の有機的に流動する姿も謎めいていてよかった。このコミュニケーションができているようでできていない、人間側は異存在の活動にただ巻き込まれているだけというのが実に暗黒SFで寂寥感があっていい。
 ……というわけでこれで「タルコフスキー特集2026」はおしまい。しかし今度は「チェコ映画傑作選」が始まるので俺たちの戦いはこれからだ!
カット
Latest / 101:23
カットモードOFF