ネタゼロから書きます。
想いは届かない。
気が付いたら好きになっていた。
その思いは強くなる一方で私を苦しめた。
だけど彼が見つめているのは私ではない。
わかってる。
私の横にいても彼が見つめているのは彼女だってこと。
お父様に頼んで彼を婚約者にしてもらった。
「……俺はきっとあなたのことを好きになれません。それでもいいのですか?」
本当に彼は馬鹿だと思う。
正直に気持ちを吐露した。
「知ってるわ。私はあなたを彼女に渡したくないの」
彼は彼女に想いをまだ告げていない。
だから、彼女は気づいていない。
「俺はあなたの夫になりましょう。だからどうか、彼女のことは放っておいてください。彼女は俺の気持ちを知りません」
「ええ。わかったわ。だけど、もしあなたから彼女に接触したら、私は何をするかわからないわ」
「俺から彼女に接触することはありません。誓います」
彼は私の夫になり、王位を継いだ私の隣で王配として采配を振るった。
子を作ることは義務だった。
彼はそれを拒否した。
頭に来たけど、私は結局許した。
数年たって、彼女は結婚して、子を産んだ。
それは彼の髪色と目の色をした男の子だった。
裏切られた。
私はそう思い二人を処刑した。
余りにも感情的な措置で、のちに彼たちの無実が暴かれ、私は臣下に裏切られて処刑された。
当然ね。
私は間違っていた。
彼は私を裏切らなかった。
彼女は彼によく似た人と結婚していた。
彼女も彼を好きだったかもしれない。
だけど、二人は接触を一度もしてなかった。
それなのに、私は不貞と決め付けた。
狂うほど彼を愛していた。
★
王女はとても我儘だった。
俺は彼女がとても苦手だった。
だけど、彼女に選ばれたのは俺だった。
好きな人がいた。
想いもまだ告げられていない。
隊長の娘さんだった。
可愛らしい、小さな花のような可憐な女性だった。
王女が禍々しい真っ赤は薔薇だとするなら、彼女は真っ白な雛菊のようだった。
王女が俺のことを気に入っていると知って、俺は彼女への想いを断ち切ろうとした。
まだ声もかけたことがなかったし、簡単に諦められると思った。
王女の護衛騎士になり、いつも傍にいることになった。
堂々とした美しい女性、一緒にいると緊張した。
だから逃げるように視線を泳がせた。
その先にいるのが、侍女をしている彼女であることを多くて、癒された。
王女の護衛騎士になって、半年で、俺は婚約者に選ばれた。
身分的に釣り合っていない。
だけど、王女のたっての希望で、俺は彼女の婚約者になった。
王からの命令だ。
歯向かえるわけがない。
そして結婚。
王の崩御により、彼女が女王になり、俺は王配。
王配になり、やっと俺は彼女と向き合うようになった。
重圧はとても重く、その責任を少しでも負担したいと思った。
王女から女王になり、彼女はますます輝いた。
それでも彼女は俺を愛してくれた。
だけど、俺は彼女を抱くことができなかった。
自分の想いが何かわからなかったからだ。
そうしているうちに、雛菊の彼女が結婚して報告を受けた。
生まれた子は、俺の髪の色と目の色と同じだった。
女王は俺を詰った。
俺は自分の潔白を訴えた。
けれども、彼女は俺を信じてくれなかった。
そして、雛菊の彼女と一緒に処刑された。
★
「……復讐ですか?」
彼女は聞く。
「ああ」
俺は答える。
俺たちは生まれ変わった。
今度は俺が王族になった。
彼女を血眼で探して、婚約者にした。
怯えた目で彼女は見た。
女王だった時には見たことがない表情で俺はおかしかった。
一度だって、俺は彼女を裏切らなかった。
だけど、彼女は俺を信じず、裏切った。
★
やはり、彼は復讐をする気だった。
仕方ないと思う。
生まれ変わったのは、百年後の世界。
国名は代わり、治めている王族も聞いたことがない名前だった。
私は男爵令嬢として生をうけ、身をわきまえて生きてきた。
男爵令嬢なんて、彼女と同じでおかしかった。
社交界デビューで初めて王宮にあがった。
王宮は建て替えられることはなく、すべてが同じだった。
目線が変わればとても新鮮に思えた。
王太子として紹介されたのか、彼そっくりの人だった。
私を視界に入れたとたん、彼の表情が歪んだ。
それまでの柔和な笑みが、冷え冷えしたものに変わった。
彼は私を婚約者にした。
男爵令嬢なんて釣り合わないのに。
まるで、私がしたように無理に私を婚約者にした。
彼は私に復讐をしたいようだった。
「俺は忘れない。あなたが俺を裏切った」
「ええ。あなたの潔白を信じなかった。許しがたいことでしょうね」
「その言いかた、本当にあのままだ」
「……無礼を詫びます。王太子殿下」
思わず、前の記憶に没頭しすぎて、今の立場を忘れてしまったようだ。
だけど、これは彼にとっては都合がいいかもしれない。
「不敬罪で投獄しますか?どうか、両親や家には処罰を与えないようにお願いいたします」
「投獄、そんなことするわけない」
彼は不思議そうな顔をした。
★
彼女はやはり変わっていなかった。
苛立つけど、なんだか妙に懐かしい。
不敬罪で投獄するかと言われた時は驚いた。
そんなことで投獄するわけがない。
不貞を働いたとかじゃないのに。
さあ、どうして彼女を苦しめようか。
裏切ら、首を切られた俺の恨みをどうして晴らそうか。
俺は、彼女を裏切らなかった。
雛菊の彼女のことなんて、王配になってから考えたことがないのに。
彼女は俺を信じなかった。
あの時の絶望を彼女に味わせたい。
でもどうやって?
今の彼女はきっと俺のことを好きじゃない。
俺が何をしたところで、彼女が絶望することはないだろう。
それは少し寂しい。
そんなことを思う俺は少しおかしい。
俺は彼女に好かれたいのか。
★
「もしかして、私のこと好きですか?」
「……それはない」
「そうですよね」
自惚れだったみたい。
自分を殺した相手を好きになるわけがない。
しかも私は彼と無理やり婚約し、結婚した立場だ。
今の私のように。
今の私は好きな人なんていなかったから、いいけど、前の彼は違った。
★
自分のことを好きかって聞かれて、驚いた。
そこまで自惚れいるなんて。
でも聞いた後に少し恥ずかしそうだったから、ちょっと可愛いと思ってしまった。
今の彼女は傲慢なところがない。
男爵令嬢として慎ましさを持っていて、少し恥ずかしがり屋みたいだ。
★
彼のことが好きだった。
だから、私は狂った。
今の私は違う。
だけど、彼に見られるとやっぱり鼓動は早くなる気がする。
心なしが頬が少し赤らんでいる気がしているのも恥ずかしい。
前の私は、狂うまでは気持ちを制御できてたし、表情に現れることもなかったのに。
★
復讐したかったはずなのに、今はそんな気持ちが持てない。
俺は、彼女に好かれたい。
前の彼女もそう思ったのかもしれない。
★
彼はやっぱり私のことが好きなんだろう。
どうしてかわからないけど。
私は、どうなんだろう。
今の私の気持ちがわからない。
前の彼もこんな気持ちだったのかな。
★
「俺の妃にやはりなってくれ。あなたが俺を好きになれないことは知っている。だけど、俺は誓う。絶対に裏切らない」
「今やっと私は、前のあなたの気持ちがわかる。今のあなたを好きになれるかはわからない。だけど、今度は私はあなたを裏切らない」
私たちは今世も結婚した。
彼はのちに王になり、私は王妃になった。
子供にも恵まれて、私の中の前の私は微笑んでいる。
幸せそうに。
届かないと思っていた想いは、時を経て彼に届いたのだ。