バキン、と何かが割れる音と同時に、不遜な声が聞こえた。
「おー、真っ最中かよ」
瞬間、イレヴンはその腹の中を貫いた肉棒を引き抜き、揺さぶっていた体を両腕に抱いてベットの向こう側に滑り落ちるように身を隠していた。
「……へーかじゃん。何しに来たの」
数秒後、ひょこっとベッドから顔を出したのはイレヴンだった。
「何しに、じゃねぇよ。昼間っから盛りやがって」
「うっぜ」
イレヴンは腕のなかの男――リゼルをベッドから引き抜いたシーツで覆い隠す。緩んだ瞳は焦点が合っておらず、抱きしめられることで快楽の余韻に苦しむように、ん、と鼻を鳴らした。
「なんだぁ? リズの野郎、飛んでんのか」
俺が姿を現したのに、挨拶一つないなんて、と気に入らなさそうな顔をする。
だが、お察しの通り、リゼルは既に意識がない。限界まで抱かれて、気をやる寸前まで追い詰められていたのだ。小窓が開いた瞬間、イレヴンが埋め込んでいた凶器を勢いよく抜いてたことで、その限界を超えたリゼルは精を吐き出し、快楽に飛んでいた。
「いーだろ。この人、『休暇中』なんだし」
昼間に盛ろうと、夜に盛ろうと、口出しされる謂れはない。
意識が混濁するくらいにセックスに興じることだって、何が悪いというのか。
イレヴンが不愉快そうに小窓を睨むと、
「ま、別にかまわねーけどな」と男は肩をすくめた。
だが、意外だな、と驚いたのだ。
リゼルのセックスは淡泊なのだと思っていた。少なくとも、行為に夢中になって、自分の来訪に気が付かない、なんてことはあり得ない。
扉の前に立つ侍女から受けた報告は、触れて、入れて、出して終わり。優しさも丁寧さもあるし、けして下手なわけではないが、気遣うばかりの行為は、本人が楽しんでいるようには到底思えなかった。事実、突然呼び出しをかけても、余韻も残さず執務室へ姿を現した。
それが、意識を飛ばすほどに夢中になって、今、与えられた快楽の余韻に小さく声を上げ、与えた男に抱きしめられて。
(俺のことにも未だ気づかんと)
く、と思わず笑いがこみ上げる。
それはきっと、この獣人が相手だからだ。あるいは、あの黒いのにも同じようにしているのだろうか。
誰かに襲われることを警戒する必要もない。もしもそんなことになったとしても、獣人は容易くリゼルを守り切ると信じている。
「腑抜けてんなぁ」
「わりぃかよ」
「構わんよ。休暇中、だもんな?」
獣人は、リゼルの顔が見えぬよう、丁寧にシーツで包みこむと、ベッドの上に転がした。そうして素っ裸のまま、窓の前に立ち、ピッと片手を開くと
「で、なに? へーかは何の用で俺らの邪魔しにきたの」と敬意の欠片もない言葉で見上げてくる。
「ああ……ただの定時連絡だ。特に用なんてねぇよ」
「ふぅん……そっち誰かいんの」
「いや。俺ひとりだな」
いつもなら観測したがりが事細かに記録を取るため、隣に張り付いているが、今日は何やら用事があるらしく、研究室を空けている。それをいいことに、ひとりで小窓を開けたのだが、そのあたりの事情はイレヴンの興味を引かなかった。
「ま、いっか。えーと服どこやったけ」
下着も服も、行為の途中で放り投げた。身を屈めて、床に落ちた下着や衣服を手にすると、近くにあった椅子へひょいひょいと掛けていく。
「リズは」
「見りゃ解るだろ。寝てる」
「へぇ」
起こすつもりのないイレヴンを片眉を上げて見る。何かしら理由があるのだろう、と尋ねられていることに気が付いたのだろう、イレヴンは少し居心地悪そうにしながら、
「……いちおう、おしおきなんで……」と呟くように白状した。
「は? 仕置き?」
「リーダー、今朝までほぼ3徹で本読んでた」
一日目、二日目と絶対寝てないくせに『寝ました』って嘘ついて、夕べは流石に無理やりベッドに入れたはずが、明け方夜遊びから帰ってくると部屋の明かりが点いていて。まさかと思いつつ覗き見れば、机に向かって絶賛読書中だ。
「黒いのは」
そのあたりの監視はあいつがしっかりしていたんじゃないのか、と眉を顰めると、
「あー。ニィサン、なんか欲しい素材があるからってちっと遠い迷宮行ってて……一週間くらい帰らねぇっつってて」
「ああ……」
鬼のいぬまに、と言わんばかりに本を買い込み、読書週間に突入したんだろう。その光景が目に見える。
同意を得たイレヴンは、解る?! と少し興奮気味に不満をたれる。
「いやほんと、いつの間に買ってきたんだか本がこーんな山になっててさぁ。読み始めたらなんっべん言っても、飯もろくに食わねぇし、ぜんっぜん寝てくれないし。1時間くらい仮眠するとまた起きてきて本読んでるし。目の下にこーんな隈作ってさぁ」
寝てって言っても聞いてくんないから、そのまま襲うことになったんだと。
「……お前、それほぼ強姦だろ」
「ニィサンみたいに言い聞かせれねんだから仕方なくね?」
寝かしつけるつもりで色々している間に、結局セックスになだれ込んでしまった。
「まあ、いいけどな。気が抜けたそいつなんて、レアだしな」
「? どゆこと」
イレヴンはわけわからん、と首を傾げるが、説明する程親切じゃあない。ひらひらと手を振り、返事をごまかすと
「なんでもいいが、服着ろ、服。マッパで俺の前に立ってんじゃねぇよ」
不敬だぞ、と睨んでみるが、獣人には全く通用しない。それどころか、
「そーいうなら、続きすっからさっさと窓閉じてくんない?」と逆に要望が出てくるのだから呆れてしまう。
「は? そいつ気ぃ失ったんだろ」
寝かせとけよ、と言えば、獣人はにんまり笑い
「まだまだこれからだっつーの」
俺が満足するまでしていいって言われてるんだから、早く部屋から出てってくれないか、とお邪魔虫を追い払おうとする獣人のペニスは確かにしっかり芯を持っていて。
「お前……リズのことぶっ壊すんじゃねぇぞ」
「ニィサンじゃないから、そんなことしませーん」と不穏なセリフを吐いて、けらけらと笑った。
その後、リズが起きる気配もなく、ならば魔石の消費は勿体ない、と早々に小窓を閉じた。
人払いの済んでいる研究室で腰かけた椅子の背もたれへ体を預けると、小窓の向こう側にいる男を想う。あの獣人はこれから、その大事な男を抱き潰すつもりなんだろう。にんまり笑った獣人の顔を思い出して、仕置きとはいえご苦労なことだとリゼルに同情する。
「にしても……」
ベッドの向こう側に隠れた瞬間、ほんの少しだけ見えたリゼルの表情は、蕩けきって快楽に堕ちたそれで。
「んな顔もできたんだな、あいつ」
それもこれも、自分が堕ちても獣人や黒いのが必ず自分を守ると信じているからだ。ある意味、あいつの実家の白いの以上に信頼を置いているのではないだろうか。
「あれ、持って帰るとか言い出すぞ絶対」
帰還計画には少々変更が必要かもしれない。
カマ野郎に言っとくかぁ、と頭を掻きながら、リゼルの王は小窓の前から立ち去った。
The first feeling
【 毛布は部屋を覗いたイレヴンがかけました。 】
アスタルニアでは同じ宿に滞在したが、部屋は一人一室にした。魔鉱国ではパーティで一室にしたが、長期滞在するならば、というのが理由だ。王都でも、ジルとリゼルはそれぞれ部屋を取っていたのだし、それが自然だと思っていた。
だから、というわけではないはずだが。
(なんだか仲良くなってる……?)
ある日の夕食のことだ。偶然、街中で行き会った二人と近くの酒場で食事をすることになった。
三人で囲った丸テーブルには、乗り切らないくらいの料理の皿が並び、次々にイレヴンが消化していく。周囲の客はさすがに目をむいているが、店員も慣れたもので空になった皿を回収しては新しい注文を受けていった。
時々、店のメニューの「こっからここまで全部」みたいな注文の仕方をするイレヴンのおかげで、色々なものを少しずつ食べられるのは嬉しいなぁ、などとリゼルが思っていた時だ。
ふいに目の前を黒い腕が過り、隣に座るイレヴンの口元をぬぐった。
「なに」
「ついてた」
ふぅん、と嫌がるでもなく、イレヴンは食事を続け、ジルは酒をあおる。
ただそれだけだ。
けれどリゼルには妙な違和感が残る。
(仲良くなった、のかな)
それはそれでよいのだけど。
ジルの手が伸びた先が、自分ではないことがなんだか不思議な気がしたのだ。
ちょっと傲慢が過ぎるかもしれない。
リゼルは一人、宿のベッドの上に座って考えていた。
自分の大切な人たちが、仲良くなったのなら喜ばしいことだ。
酒場で珍しい光景を見た後、リゼルは少しだけいつもよりも注意深く二人を観察するようになった。おかげで気づいてしまった。例えば迷宮で、魔物を倒す時の阿吽の呼吸。リゼルがいない時の二人の立つ位置の近さ。やらかしたイレヴンの頭に落とす剣の鞘も以前よりもずっと優しい。
何より視線が。
(優しくなった気がする)
自分の内面を隠すことに長けたイレヴンのそれは、以前と何も変わらない。ジルから解りにくい〝特別扱い〟を受けていても、慌てることもない。
だがジルは、案外認めたものへの態度は緩くなる。リゼルへのそれを見れば明々白々だが、それを隠すことは得意ではない。普段と変わらぬつもりでも、あちこちに甘さを垣間見る。
別に悪いことじゃない。
ジルもイレヴン彼らの目の前に並べたのなら、いや、並べずとも、最優先に自分を選ぶと確信がある。けれど自分の一番は彼らではない。それはどうやっても変えることのできない存在だ。
対等でありたいと思う反面、唯一であることも求めるなんて。
「わがまま……ですよね」
ぽつりと呟いたリゼルはそのままベッドへと倒れこんだ。
彼らが互いに恋愛感情を持っているわけではないのは判っている。わかっていても。
ぐるぐると胸の奥に黒く重たい塊が渦巻いてる。どうにも抑えきれない想い、これがきっと、嫉妬、と言うものだ。
「ああ」
両手を合わせ、唇に触れる。こんな感情は今まで感じたことがなかった。陛下の隣に誰が立とうと、何をしようと、彼への忠誠さえ自分の中にあれば、なんの不安も感じなかった。彼はすべての民のもので、独占したいなんて思ったこともなかった。
なのに、今。
(俺は君たちに嫉妬してる)
どちらに、ではない。どちらにも、だ。
穏やかに微笑みをたたえるばかりだったリゼルが、クックッと小さく笑いを零す。
彼らと共にいるからこそ引き出された負の心情――
彼を害しようとするものへ、容赦なく断罪を下す時のそれとも違う。二人が自由にしてくれていること、それが何よりうれしいのに。
(俺を見て、なんて)
浅ましさが全身を巡ること、それが堪らなく楽しくて、同時に胸が痛くて仕方がない。
目を伏せ、二人を想う。
明日の朝、二人の顔を見たら気まずくなってしまうだろうか。
それともまた、同じように笑ってしまうだろうか。
二人とも、きっとあまりに珍しい光景に、熱でもあるのかと騒ぐだろう。心配して、今日は寝ていろと部屋に追い立てられるかも。
そうして、二人で甲斐甲斐しく世話をしてくれたら、このどす黒い感情は薄まっていくだろうか。
(無理かも)
笑い終わり、はぁーと大きなため息をつき、リゼルはころりと体の向きを変える。足もベッドの上へ上げ、子どものように手足を丸めると、明日の朝、二人にどんな顔をして会おう、と珍しく本に手を伸ばすことなく緩やかな眠りに落ちていった。
部屋の中には人の気配がひとつ。確信をもって扉を開けた。
「リィーダァー、どっか遊びいこ……あれっ」
ノックも無しに入り込んだ部屋には、目当ての人の姿はなく、代わりにベッドの端で凶悪な顔をした真っ黒な人外ニィサンが座っていた。
「えっ、なに。何してんの」
この部屋の主は不在時にジルやイレヴンが入り込んでも、不快に思うことは無い。それどころか外出時には部屋の鍵をかける、という習慣がついこの間まで身についていなかった人種だ。
(本でも読みに行ったか、依頼受けにいったかだけど)
ジルが今日は出かけないと解っていて、開け放しのまま出かけたのだろう。
が。
「……ベッドメイク中とか?」
「うるせぇ」
射殺さんばかりの目で睨まれた。
だってどう考えたっておかしい。扉を開けた瞬間に目に飛び込んできたニィサンは、ベッドに片膝を乗せた格好で憂い顔、というやつだ。一見すると全力でガラ悪くしてるだけだけど。
(多少違いが判るようになってきたな)
リゼルが、今は照れてるだのちょっと嬉しそうだのといちいち解説を入れてくれるおかげで、単なる凶悪顔にも差分があると気が付いた。
さしづめ今は。
(うーん。俺に見つかって恥ずかしいのと、気まずいのと)
それから、リゼルの不在に対する欲求不満。
「相手しよっか?」
ニ、と笑って指先を伸ばせば、嫌そうに顔を歪めたジルに睨まれた。
だが拒むわけではない。きれいに整えた爪先でそっと唇を刺せば、そのまま手首を掴まれる。
「え、ここリーダーのベッド」
「うるせぇ、代わりなんだろ」
「わー、最低。リーダー帰ってきたらどーすんの」
「来ねぇよ。今日は朝から魔法学院だ」
と嬌声があがる。
イレヴン、イレヴン、俺、変じゃないですか?
聞かれたイレヴンは、思わず両手で顔を覆って後ろに倒れた
か、かわいい………ッ
どうしよう、気持ち良すぎる
気を抜いたら声が出てしまう。ぎゅっと唇を噛み、シーツに額を押し付ける。拳を握り、そこへ歯を立てた。
「リーダー」
ぐ、と腹の奥を押されて、びりびりと体中に雷が走る。ひぐ、と嬌声を飲み込んだ唇に、冷たく細い指が触れる。爪の先で擽るように優しく触れ、入れてと求める。引き絞られた唇がほんの少し緩み、その隙間から爪をねじ込む。きつく噛み締められた歯列をなぞると「んぅ」と小さな声を上げる。
小ぶりの尻を抱えて腰を揺らしながら
「ね、リーダー。それダメ」
噛まないで、そして可愛い声を聞かせて。
懇願は素直に、快楽は本能的に。収めた切先を彼が一番感じる場所へ押し当て、
ベッドのヘッドボードにこれでもかと言う程敷き詰めた枕とクッションに背を預け、イレヴンは自分の腰の上で耐えるように眉を顰めるリゼルを見上げていた。
両手は指を絡めて拘束したまま、離さない。もっとも、その腕で上体を支えているリゼルだ。手放された途端にへたりとイレヴンの胸に倒れ込んでしまうだろう。
全裸の彼は薄っすらと汗ばんでいる。そして、繋がった秘部がひくひくと自身の肉棒を締め付けるのを感じて、イレヴンは嬉しそうに口端を引き上げた。
「リーダー、すげぇ腰揺れてる」
「ちが……」
「違わない。きもちい?」
ゆさ、と少しだけ上下に体を振れば、ひぅ、と声が上がる。
「イレヴン、イレヴン……」
「なぁに」
「お願い、動いて」
「だぁめ」
「じゃあ俺が動きます」
「それもダメ」
まだ我慢して、と甘やかな声が囁く。
だが腹の中に納まるイレヴンの硬いペニスが、リゼルの良いところをグ、と抑えている。太さではジルには勝てないものの、並の男以上の逸物を持つイレヴンだ。動き始めればジルの激しさ、絶倫さにはかなわないが、テクニックでは彼よりうまくリゼルを啼かせる。
早くそれで甘やかされたい。そしてふるりと震えて先走りを零す陰茎を、あの細い指で扱き上げて欲しい。リゼルは齎されるだろう快感を想像し、腹の中が疼くのを感じる。
「……イレヴン、ね」
お願いします、と繰り返すが
「まだダメ……リーダーの余裕ない顔かわいいから」
堪能させて、と細めた目に見上げられ、リゼルははぁ、と吐息を漏らした。
熱い吐息が漏れ、無意識に下腹に力が入る。ひく、ひく、とそこを蠢かし、締め付けると硬いペニスはそれだけでリゼルを追い上げていく。
「あ、あ……ッ」
「あーあ、リーダー……ひとりで気持ちよくなっちゃって、ズッリいの」
「だ、って、イレヴンが」
「うん」
「あ、手、て、離して……」
「なんで?」
「擦りたい……ッ」
腹の中で勝手に気持ちよくなったリゼルは、天井を向くペニスもびくん、びくんと揺れさせて、それを扱いてしまいたいと懇願する。
「だからぁ……だぁ、め」
どうしてもってなら、このままイッて。
次第に上体を支えきれなくなり、腕がふるふると震える。
覆い被さるように半分倒れたリゼルの顔は、ちょうどイレヴンの視線の先ではぁ、と吐息を繰り返す。
うっすら開けた唇の中央に、透明の雫が溜まる。
「ね、顔上げて」
繋いだままの手で、リゼルの顎に降れ、くい、と持ち上げる。と、半開きの唇からは、つい、とその雫が零れた。
「ん」
イレヴンが大きく開けて舌を伸ばす。そこへ
カット
Latest / 235:58
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
イレリゼオセッ
初公開日: 2026年07月14日
最終更新日: 2026年07月14日
ブックマーク
スキ!
コメント